福岡高裁/辺野古沖埋立て取消違法確認訴訟 沖縄県が敗訴/地方自治 | なか2656のブログ

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1.はじめに
沖縄県のアメリカ軍普天間基地の移設先とされている名護市辺野古沖の埋め立て承認をめぐり、国が地方自治法に基づき沖縄県を訴えた裁判で、9月16日、福岡高等裁判所那覇支部は国の訴えを認め、翁長知事が承認を取り消したのは違法だとする判決を出しました。


(9月16日午後の福岡高等裁判所那覇支部の様子。沖縄タイムスより。)

・【号外】県が敗訴 承認取り消し「違法」 初の司法判断|琉球新報

・辺野古沖埋め立て 国の訴え認める判決 福岡高裁|NHKニュース

この裁判は、地方自治体に対する国の関与について規定された地方自治法の第11章の、地方公共団体の不作為に関する国の訴えの提起(251条の7)に基づくものでした。

政府は、「国の主張が認められたことは歓迎」とのコメントを出す一方、沖縄県は上告を行いました。

■これまでの事実の経緯
・辺野古基地移設と国地方係争処理委員会について

2.9月16日の高裁判決
NHKニュースの記事によると、16日の高裁判決は、

まず、①『普天間基地の騒音被害や危険性は深刻で、移設先がほかに見当たらない中で被害を取り除くには、埋め立てを行い辺野古沖に移設するしかない。移設により県全体の基地負担が軽減され、辺野古沖の施設の面積は普天間基地の半分以下になる』と指摘したとのことです。

そして、②『埋め立てを承認した前の知事の判断に不合理な点はなく、承認の取り消しは許されない』として、国の訴えを認め、翁長知事が承認を取り消したのは違法だと判断したとのことです。

また判決は③、国防や外交に関する知事の審査権限について『地域の利益に関わることに限られ、県は国の判断を尊重すべきだ』と指摘したとのことです。

3.識者のコメント
19日の朝日新聞にはつぎのような識者のコメントが掲載されていました。

〇三好規正・山梨学院大法科大学院教授(行政法)の話
「分権改革によって国と地方自治体は対等な関係に位置づけられたが、その観点が欠落している。公有水面の埋め立てが適切かどうかの審査も知事に幅広い裁量権があるのに、判決は「裁量権があるのは国。知事はそれに従いなさい」という考えだ。一般論では知事は埋め立てをめぐり国防・外交に関する審査もできると言及しつつ、その余地もほとんど認めなかった。知事は専門家を入れた検証を経て埋め立ての承認を取り消したが、裁判所の審理は論証が粗い印象だ。」

〇仲地博・沖縄大学長(地方自治論)の話
「辺野古の基地建設をやめれば普天間飛行場による被害が継続すると明言し、沖縄の「地理的優位性」を認めるなど、国の言い分をそのままのんだ判決。沖縄に米軍基地があることを当たり前のことと疑わない態度は「構造的差別」と言われるが、その差別も追認した形だ。沖縄の平和と環境保全、自治への配慮は見られない。判決が、辺野古移設に反対する県民の運動に及ぼす影響は限定的。これにより運動が停滞する可能性は小さく、むしろ結束を強める作用を持つだろう。「辺野古か普天間か」という二者択一を県に迫っているような内容で、県敗訴の判決を書くのにここまで言及する必要があったのか。」

・沖縄知事、完敗判決に「あぜん」 辺野古埋め立てめぐり|朝日新聞

4.本高裁判決を考える
うえのコメントで三好教授が述べておられるとおり、平成7年成立の地方分権推進法および平成11年(1999年)成立の地方分権一括法は、中央(国)と地方のあり方を、従来の「上下・主従」の関係から「対等・協力」の関係へ転換し、地方自治体の自主性・自立性を拡大するものでした。この地方分権一括法に基づき機関委任事務の廃止など、地方自治法等が改正されています。(櫻井敬子・橋本博之『行政法 第4版』50頁)

このような法改正があったにもかかわらず、本高裁判決は、「自治体は国の言うことを黙って聞け」というスタンスに立っているように思われます。

本判決は普天間基地の問題はとにかく沖縄県内で解決せよとしています。しかし何故沖縄県内でのみ解決しなければならないのでしょうか。それは裁判所が判断すべきことではないように思われます。

また、本判決は、「移設により県全体の基地負担が軽減される」としていますが、もし辺野古に新基地が移設された場合、普天間基地の騒音や危険などが、辺野古にそのまま移ることになりますが、その点への検討は判決でなされているのでしょうか。

つまり、今回の訴訟の最大の争点であった辺野古沖の埋立承認の取消の適否は裁判で十分に争われ、裁判所はそれを十分に検討し、判決にしたのでしょうか。

以前のブログ記事でも取り上げたとおり、沖縄県が辺野古の埋立承認取消しをする際には有識者による検討会議による詳細な検討を行ったうえで取消しを行っています。

・沖縄県が辺野古の埋立の承認を取消し/行政不服申立て・抗告訴訟・代執行・民主主義

そしてその検討委員会や翁長知事らは、それらのさまざまな事項の検討が前知事時代の県において尽くされていないとして承認を取消しています。裁判所はこの点の検討を尽くしたのでしょうか。法を適用し紛争を裁定する機関である裁判所としては、まさにこの点を重点的に検討すべきであったと思われるのですが。

その一方、判決の「移設先がほかに見当たらない中で被害を取り除くには、埋め立てを行い辺野古沖に移設するしかない。」の部分は、高度に政治的な問題であって、非政治的部門である裁判所は判断を回避すべきではなかったかと思います。

判決の最後の部分の「国防や外交に関する知事の審査権限について「地域の利益に関わることに限られ、県は国の判断を尊重すべき」」にも疑問を感じます。

翁長知事は別に日米安保に反対しているわけではなく、「日本の国土の面積の0.6%の沖縄に74%のアメリカ軍施設が集中しているのは理不尽だ。日本全体で考えてほしい。」と主張しているにすぎません。

知事は自らの地域の権利利益に関して正当な主張をしているだけに思われます。むしろ、例えば2014年12月に知事選で仲井真氏に勝利した翁長知事が交渉をしようと上京したにもかかわらず、誰一人知事と会おうとしなかった安倍内閣の子どもじみた対応のほうがよほど政府・国のあり方の観点から問題なのではないでしょうか。

外交や安全保障について最終的な意思決定権が国にあるとしても、わが国が独裁国家や全体主義国家ではなく、かりにも民主主義国家である以上は、国・地方がそれぞれのレベルの民主主義の意思決定を尊重し合うべきです。

わが国の中央政府はあまりにも沖縄県の民主主義の意思決定を軽視しています。

地方自治とは、住民自治(住民が自らの意思と責任によって行政活動を行うこと)と団体自治(国から独立した自治体が自らの事務を自らの責任で行うこと)の2つの原則をいいます。

憲法92条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」と規定しています。この「地方自治の本旨」が住民自治と団体自治の2つを指すとされています。そして、この住民自治と団体自治に適合しない法律は違憲・無効と解されています。

近年の政府・与党はことさらに団体自治を無視しているように思われます。

本高裁判決も、地方自治法の改正の流れに逆行し、憲法の趣旨に反しているように思われます。

■参考文献
・宇賀克也『地方自治法概説 第6版』361頁
・櫻井敬子・橋本博之『行政法 第4版』50頁、51頁
・芦部信喜『憲法 第6版』367頁

行政法 第5版



地方自治法概説 第6版



憲法 第六版





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