東京オリンピック招致不正疑惑をオリンピック憲章・倫理規程から考える | なか2656のブログ

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5月11日に英ガーディアン紙が2020年東京五輪・パラリンピックの招致を巡る不正疑惑を取り上げて以来、わが国でもこの問題が連日のようにメディアで大きく取り上げられています。

・東京五輪招致で不正? 仏検察が捜査2億円余り送金か|朝日新聞



以前のブログ記事で、この問題を主に刑法の観点から取り上げてみました。

■以前のブログ記事
・東京五輪招致でIOCに裏金を送金した企業等を東京地検は捜査しないのか?

今回のブログ記事では、主にオリンピック憲章の観点から取り上げてみたいと思います。

・オリンピック憲章|日本オリンピック委員会

・IOC倫理規程|日本オリンピック委員会

オリンピック憲章の「第 2 章 国際オリンピック委員会 (IOC)」の「16 委員」の1.3では、新たにIOC委員となる者は、オリンピック憲章、倫理規程などを遵守することを宣誓したうえでその職に就任するとされています。

JOC公式サイトなどの情報によると、現在、日本でIOC委員を務めているのは、竹田恆和・日本オリンピック委員会(JOC)会長兼東京招致委員会委員長です。

また、「IOC委員」に関する「2 義務」もつぎのように同様の条文を置いています。

2.1 オリンピック憲章、 倫理規程、 その他の IOC の規定に従う。

そしてさらに、2.5は、つぎのようにIOC委員は自国のオリンピック委員会(=JOC)が倫理規程等に違反する行為をしていないかを監視する義務を負うとしています。

2.5 自国および自身が所属するオリンピック ・ ムーブメントの組織において、 IOC のプログラムが実行されているか監視する。

ここで、倫理規程とは具体的に何かが問題となります。そこでIOCの倫理規程をみてみます。

倫理規程の「B. 高潔」のところには次のような条文が置かれています。

IOC倫理規程

B. 高潔

1. オリンピック関係者又はその代理人は、オリンピック競技大会の開催に関連するあらゆる形態の報酬若しくは手数料、又はあらゆる性質の隠れた恩恵若しくはサービスを直接又は間接的に要求、受領、提供してはならならない。

2. 贈与は、地元の慣習に基づく名目的な価値の物のみを、敬意又は友好の印としてオリンピック関係者から受け取る、又は贈ることができる。それ以外の贈与は、受取人の所属団体に渡すものとする。

6. オリンピック関係者、その代理人又は代表者は、その活動又は評判がオリンピック憲章及び本規程に定められた原則と矛盾する企業又は個人に関与してはならない。


新聞記事などをみると、東京オリンピック招致委員会は電通の関連会社を通じて、IOCの有力者である国際陸上競技連盟のラミン・ディアク前会長の息子の関係するシンガポールのコンサルティング会社(ブラック・タイディングズ社)の口座に約2億円を支払ったとされています。


(5月11日付の英ガーディアン紙より)

竹田氏らJOC関係者は、この2億円は東京オリンピック招致のためのコンサルティング料であり、正当なものであると主張しています。

しかし、正当なコンサルティングであるなら、その業務の証拠や、なにより契約書などを国会で示してもよいように思います。機密にかかわる部分は墨塗りすればいいだけです。JOCがいつまでたってもこの点を説明しないので、結果としてこの2億円は表にだせない目的のカネという推定が働いてしまいます。

そもそも、上のオリンピックの倫理規程は、「『高潔』の1条で、オリンピック競技大会の開催に関連するあらゆる形態の報酬若しくは手数料、又はあらゆる性質の隠れた恩恵若しくはサービスを直接又は間接的に要求、受領、提供してはならならない。」と厳格に規定し、また、同2条は、地元の慣習を超える贈与をしてはならないと規定しています。

私はシンガポールの慣習はよく知りませんが、少なくとも2億円ものカネを渡すということはあまりにも接待として常識外であり、これは「高潔」の1条および2条に違反している可能性が高いと言わざるを得ないのではないでしょうか。

また、これも新聞報道などによると、電通の関連会社が2億円を送金したシンガポールの会社は、古びた公営住宅の一室であり、会社の実態がなく、欧米のメディアは端的に「ペーパーカンパニー」と表現して報道しているとのことです。


(ブラック・タイディングズ社の登記上の公営住宅の一室。共同通信より。)

この点も、「オリンピック関係者、その代理人又は代表者は、その活動又は評判がオリンピック憲章及び本規程に定められた原則と矛盾する企業又は個人に関与してはならない。」とする6条に抵触しています。

このようにみてみると、IOC委員である竹田氏を中心とするJOC関係者は、オリンピックの倫理規程の「B 高潔」の1条、2条および6条に違反し、その結果、オリンピック憲章「16 委員」の「2.1」、「2.5」に違反しています。

そしてこれらの違反の効果が問題となります。

まず、オリンピック憲章第2章16の3は、IOC委員の除名の手続きを規定しています。オリンピック憲章への義務違反がIOC委員の除名の理由のひとつとなっているので、竹田氏が除名となる可能性があります。

つぎに、オリンピック憲章の「第 5 章 オリンピック競技大会」の「第5章 36 責任-オリンピック競技大会の開催取り消し」の2条はつぎのように規定しています。

オリンピック憲章

第5章
36 責任-オリンピック競技大会の開催取り消し

2. NOC(=JOC)、 OCOG(=オリンピック競技大会組織委員会)あるいは開催都市によるオリンピック憲章違反、 IOC の規則や指示の不履行、または義務違反があった場合、 IOC は開催都市、 OCOG、 NOC によるオリンピック競技大会の組織運営を取り消す権限を有する。 この取り消しはいつでも行うことができ、 即時有効となる。(後略)


どの程度のオリンピック憲章違反となると、この2条による開催取消しとなるのかは、条文上は不明です。

しかし、この招致不正疑惑がシンガポール警察との連携のもとにフランス検察当局による捜査が行われ、イギリスなどの世界のメディアで大きく報道されているのも事実です。

(新聞記事によると、フランスの刑法では民間同士の賄賂のやり取りでも贈収賄罪が成立するとのことです。「五輪招致疑惑:民間同士も贈収賄罪 仏、コンサル料を捜査」毎日新聞2016年5月18日付)

その一方で、日本政府は、「五輪招致はクリーンに行われたと思っている」と問題の究明に非常に後ろ向きな姿勢を示していることもまた事実です。

この点、オリンピック憲章の「第1章 オリンピック・ムーブメント」の「2 IOC の使命と役割」の1条は、「スポーツにおける倫理の重要性と優れた統治、 またスポーツを通じた青少年教育を奨励し支援する。」と「倫理…奨励し支援する」と規定しています。

今現在はIOCはフランス検察当局の捜査を見守っているようですが、IOCとしても倫理の問題として無関心ではいられないでしょう。

IOCが今後どのような対応をするか注目されます。

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