安倍総理はポツダム宣言を読んでいない | なか2656のブログ

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5月20日の夕方に、国会でいわゆる安全保障法制に関して、党首討論が行われました。


そのなかで国民・市民から大きく注目を集めたのは、安倍総理「ポツダム宣言についてはつまびらかに読んでない」と国会の場で「自白」したことでした。

・安倍総理と共産党・志位委員長との党首討論|Youtube

Twitterのトレンドでもあっという間に、「党首討論」とともに「ポツダム宣言」のキーワードがトレンド入りし、「ポツダム宣言」はその日一日中、トレンド入りしたままの状態でした。


そして20日の夜は、つぎのようなタグがツイッター上であふれていました。

#安倍総理はポツダム宣言を読んでいない
#なんでこいつが総理大臣をやってるんだ

この安倍総理の発言は、共産党の志位委員長が、安全保障法制の議論の前提として、「過去の戦争(第二次大戦)がポツダム宣言6項および8項が規定しているように間違った侵略戦争であったことを認めるか?」と問うたところ

安倍総理が「ポツダム宣言についてはつまびらかに読んでない。今ご紹介していただいたとおり、ポツダム宣言によると、連合国側は日本が世界征服をたくらんでいたと理解していたようであるが、私はつまびらかに読んでいないので、論評することは差し控えたい。」と、勉強のできない小学生のように、しどろもどろの答弁をしたものです。(うえのYoutubeの動画では4分30秒ごろ。)


これには驚いてしまいました。

ネットをみていると、「70年も前の重箱の隅をつついてどうすんだ」という意見や、「ポツダム宣言は条約でなく『宣言』なのだから、どうでもいい」といった、安倍総理を擁護する意見も結構ありました。

たしかに、ポツダム宣言が、よく企業がCMなどでイメージ戦略として打ち出す「〇〇宣言!」といったたぐいのものであれば、それをあまりまともに真に受ける必要は無いでしょう。

また、普通の会社員などの一般人などが、ポツダム宣言について、「ああ、高校受験か大学受験の歴史でやったなー」くらいで、詳しい内容を知らなくても全然問題ないでしょう。

しかし、ポツダム宣言は、ただの「宣言」ではありません。「米、英、中は、日本に対して最後の一撃を加える体制が整っている(2条)」、「そしてそれは不可避的に日本の国土の徹底的な荒廃を招来することになる(3条)」という苛烈な文面のもとに、日本に対して軍国主義の放棄(6条)、日本における民主主義・基本的人権の尊重(10条)等を要求して、1945年7月26日に出された、降伏を要求する声明です。

・ポツダム宣言|国立国会図書館サイト

↓わかりやすい日本語訳はこちら
・ポツダム宣言和訳|哲野イサクの地方見聞録

そして、同年8月14日に日本は『無条件』降伏という形でこのポツダム宣言を受諾し、終戦を迎えました。翌8月15日、「玉音放送」により、このことは国民に公表されました。つまり、ポツダム宣言は、極めて重要な外交文書です。

また、安倍さんは一般の会社員などではなく、内閣総理大臣です。政治家としてプロ中のプロです。国を総理する立場として、わが国の政治やとくに近現代の歴史の骨格に通暁していなければならない職責のはずです。さきの大戦の終戦のプロセスの一文書であるポツダム宣言は、そのまさに骨格です。

そして、安倍総理は常々、「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」を持論として主張してきました。つまり、安倍総理は常に「戦後レジーム」を考えている人物であったにもかかわらず、その「戦後レジーム」の出発点のプロセスにあたる、ポツダム宣言すらまともに読んでいなかったのです。

ポツダム宣言は、うえのウェブサイトにあるとおり、A4にしてたったの2枚程度であり、かつ、内容も非常に平易で、小学生でもすらすら読んで理解できる内容です。

安倍総理はかつて、国会答弁で、戦後憲法学の第一人者の学者である、芦部信喜氏の名を知っているか?と野党議員から問われ、成蹊大学の法学部出身であるはずなのに、“そんな人物は知らぬ”と平然と答えたこともあります。

岩波書店から刊行されている芦部先生の『憲法』は、法律書という専門書でありながら、多くの一般の人が購入し、現在もいまだに異例のロングセラーとなっている本です。

憲法 第六版




(なお、どの憲法の教科書にも必ず載っていますが、芦部先生の『憲法』においても、22ページ以下の「日本国憲法の成立経過」の部分と、55ページ以下の「憲法九条成立の経緯」の部分で、ポツダム宣言についてふれられています。ここにおいても、安倍総理が成蹊大学時代および政治家になってから、いかに不勉強であるかが非常によくわかります。あるいは逆に、「押し付け憲法」を全然勉強していないことこそ、安倍総理にとっては誇りなのでしょうか?)

総理大臣なのに「ポツダム宣言」もまともに読まず、法学部卒なのに芦部先生の『憲法』すら読まない。おそらく日本国憲法の条文そのものすら、侮辱するばかりで、まともに読んでいないであろう。

安倍総理がお読みになるのは、ご自身の支持者が賛同のコメントを書き込む「フェイスブック」「ツイッター」や、「2ちゃんねる」と、官僚や側近の政治家達が作成したカンニングペーパーくらいなのでしょうか。

(安倍総理の持つ官僚の用意した漢字によみがなのついたカンニングペーパー)

つまり、安倍総理やその側近達が常々主張している「戦後レジームからの脱却」「憲法改正」も、あくまでムード的な、感情的なものであって、たとえば終戦前後にどのようなプロセスで現行憲法ができたのかといった事実を知らず、知ろうともせず、省みず、主張してきたことを、今回、安倍総理ご自身が「自白」したことになります。

多くの方々がすでに指摘しているとおり、自民党の憲法改正草案は、国家のために国民が奴隷のように奉仕すべきことを義務付ける、西側諸国の近代以降の憲法には見られない憲法です。国民の基本的人権を大幅に抑制しようとしており、また、立憲主義を放棄する点も、もはや憲法ではないという意味で極めて異常です。

・自民党憲法改正草案|自民党サイト(PDF)

また、「リーダー」としても安倍総理はとんでもない人物でしょう。たとえば民間企業の社長が、「今までの腐った状況を打破するぞ!」とかっこよく叫んだとしても、その社長が高校・大学などでまともに勉強もせず、社会人になってからも新聞やテレビなどをまったく読まず、社会・経済のことをまったく知ろうともせずに社長をやろうとしたら、従業員や株主、銀行や取引先、顧客などは、その社長を誰も支持しないでしょう。

それではその社長は、ただ情念ばかりが先行する、あやしい新興宗教の教祖です。

さらに、同じ党首討論の、民主党の岡田代表との討論では、安倍総理は、「我々の法案の説明は全く正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから。」と、「私は総理大臣なんですから」という台詞を多用しました。

ここには、「自分は国民から多数決で選ばれた、だから自分は何をしても許されるのだ!」とでもいった、ヒトラールイ14世のような、独裁者か専制君主のような肥大化した自意識が垣間見られます。

ご自身は日々、アドレナリンが分泌されて充実した日々を送っているのでしょうが、安倍総理のせいで兵隊として戦地に派兵させられるかもしれない国民としては、たまったものではありません。

ちなみに、ポツダム宣言4条には、「非知性的な計略を持ち」、「身勝手な軍国主義」という文言が登場しますが、これほど安倍総理にぴったりな表現は見当たりません。

なお、この5月20日の夜には、さまざまなメディアでこの「ポツダム宣言」発言が大きく取り上げられたことを受けて、総理大臣補佐官礒崎陽輔氏が安倍総理の発言をフォローすべく、TV番組で「戦争をしてた国はお互いに相手を悪くいう。ポツダム宣言が一字一句正しいかどうかというとなんとも言えない。」と発言しました。

・磯崎補佐官「一字一句正しいかどうかというとなんとも言えない」|Youtube

しかしこれはまったくフォローになってないどころか、オウンゴール・自爆です。

うえで振り返ったとおり、第二次大戦は、日本・ドイツ・イタリアが無謀にも侵略戦争を始めてしまい、結果、日本においては本土まで連合軍の軍事力を突き付けられ、ポツダム宣言を受け、原爆を受け、ようやく8月14日に日本政府が無条件降伏という形で、このポツダム宣言を受諾したものです。

留保や条件付きでなく、まさに無条件という形で受諾し降伏したのですから、一言一句そのまま受け入れたのです。

逆に、戦後70年という節目のこの年に、まさに第二次大戦とは何であったのか?という「歴史認識」の核心の問題に関して、安倍総理がその前提となる重要な文章を「つまびらかに読んでいない」と国会の場で「自白」し、さらに、第二次大戦が侵略戦争であり、日本がその点誤っていたことに関して「論評をひかえる」と発言しました。

そしてさらに総理大臣補佐官という重要な地位にある国会議員が、「ポツダム宣言は一字一句正しくない」とまで踏み込んで言ってしまったのです。

これは、70年前の歴史を蒸し返しかねない行為です。

国連や、とくに旧・連合国米英露中などと揉め事が発生してしまわないかと心配です。

そのうえさらに、今後、安倍総理がいわゆる「70年談話」で妙な談話を出してしまったら、外交上、大変なことになるでしょう。

なお付言すると、この礒崎陽輔氏は、自民党の憲法改正推進本部事務局長でもあります。そして少し前、次のようなトンデモ発言をツイッターでしたことが大いに話題となりました。

時々、憲法改正草案に対して、「立憲主義」を理解していないという意味不明の批判を頂きます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか。

https://twitter.com/isozaki_yousuke/status/206985016130023424

なお、磯崎議員は1982年に東大法学部を卒業したそうであり、その時期、東大法学部で憲法を教えていたのは、ほかならぬ芦部信喜先生です(1963年~1984年)。

磯崎氏が東大にいたころに芦部先生がどのような教材で授業を行っていたかは不明ですが、少なくとも芦部先生の『憲法』では、冒頭の「第一部 総論」の第一章のタイトルからして「憲法と立憲主義」であり、4ページ以下で立憲主義について詳しい説明がなされています。

安倍総理同様、磯崎議員も学生時代および官僚時代、政治家の現在、非常に不勉強なのにもかかわらず、政治家を務め、かつ、憲法改正を推進していることがよくわかります。

以上のように、安倍総理には、総理としての資質の根幹に重大な問題があります。そして、安倍総理を補佐する政治家達の資質にも重大な問題があります。

野党は内閣不信任決議内閣問責決議を出してもらたいと、国民の一人として思います。

■参考
・首相「ポツダム宣言つまびらかに読んでない」党首討論|朝日
・ポツダム宣言「本当に読んでないようだ」志位氏が皮肉|朝日
・【悲報】安倍首相が国会でポツダム宣言を「つまびらかには読んでない」と白状、議場は静まり返り、閣僚は寝たふり|Togetter

■参照
・自民党憲法改正草案を読んでみた(憲法前文~憲法24条まで)
・自民党憲法改正草案を読んでみた(憲法25条~憲法102条まで)
・再び自民党憲法改正草案の12条・13条について考える
・集団的自衛権/憲法解釈の変更と憲法改正の限界
・自民党憲法改正草案28条の公務員の労働基本権/堀越事件・猿払事件
・樋口陽一「いま、『憲法改正』をどう考えるか」を読んで

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憲法 第六版



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