辺野古、沖縄県知事の停止指示に対して国が審査請求/行政不服審査法と行政事件訴訟法 | なか2656のブログ

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1.はじめに
新聞報道によると、アメリカ軍の普天間飛行場の辺野古への移設の問題に関して、翁長知事は、3月23日に沖縄防衛局に対して、辺野古沖での移設関連作業を1週間以内に停止するよう指示を出しました。防衛局がこれに従わない場合、基地移設のための辺野古の埋め立てに必要な岩礁破砕許可を取消す方針であるそうです。

一方、沖縄防衛局は3月24日、翁長知事が前日に出した移設作業の停止指示を取り消すよう求め、農林水産相行政不服審査法に基づく審査請求をしたそうです。また、農水省の裁決が出るまで知事の指示の効力を止めるための執行停止を申立てたそうです。さらに、これらが不調に終わった場合、国は沖縄県に対して抗告訴訟を提起する方針であるそうです。

・政府、抗告訴訟提起へ 普天間移設問題で、知事の岩礁破砕許可取り消しを念頭に|産経新聞
・辺野古、国が対抗措置 知事の停止指示、審査請求|朝日新聞

■補足
沖縄県知事の出したブロック設置の停止の指示の根拠法・条文などにつきましては、こちらをご参照ください。
・辺野古沖のブロック設置に翁長知事が停止を指示/沖縄県漁業調整規則・国地方係争処理委員会

このあたりは行政法の、行政不服審査法と行政事件訴訟法が入り組んでいるあたりなので、少しまとめてみました。

2.行政不服審査法に基づく審査請求と行政事件訴訟法に基づく抗告訴訟
トラブルが発生してしまった後の、事後的な行政法上の救済措置としては、行政不服審査法に基づく行政不服申立てと、行政事件訴訟法に基づく行政事件訴訟の2つの方法があります。審査請求とは、行政不服申立てのひとつであり、抗告訴訟とは、行政事件訴訟法のひとつです。


行政不服審査法に基づく行政不服申立ては、判断をする機関が行政庁であり、審理が書面審理主義であるため、簡易・迅速な問題の解決が期待できます。しかし、あくまでも行政庁が判断をする機関なので、その中立性に疑問符がつくことが問題となります。

一方、行政事件訴訟法に基づく行政事件訴訟は、判断をする機関が裁判所であり、審理が口頭審理主義であるため、中立性・独立性のある解決が期待できます。しかし、時間と手間がかかるというデメリットがあります。

行政不服審査法に基づく行政不服申立てと、行政事件訴訟法に基づく行政事件訴訟をどちらを先に行うべきなのかという問題に関しては、どちらを先に行ってもかまわないとするのが原則です(自由選択主義・行政事件訴訟法8条)。

しかし例外的に、個別の法律に、行政不服申立てを先に行わなければならないと規定されている場合は、行政不服申立てを先に行わなければなりません(審査請求前置主義・行政事件訴訟法8条1項ただし書き)。

この点、今回、沖縄県知事と国との間で争点となっている、沖縄県漁業調整規則と、その上位の法律である水産資源保護法をみると、水産資源保護法53条が、審査請求前置主義を定めています。そのため、今回、国はいきなり裁判所に行政事件訴訟を提起せず、農林水産省に対して行政不服申立て(審査請求)をしたということになります。

この点、“国は無効等確認訴訟などの抗告訴訟を行う方針で、併せて行政不服審査法に基づく行政不服審査を行うことも検討している”と書いている産経新聞の上で挙げた記事は、順序が逆であり、行政法をあまり分かっていない記者が書いたものだと思われます。

3.行政不服申立ての3類型
行政不服審査法に基づく行政不服申立てには、①異議申立て、②審査請求、③再審査請求、の3つの類型があります。

異議申立てとは、「行政庁」自身に対して、その処分または不作為について不服申立てを行うものです(行政不服審査法3条2項)。

審査請求とは、行政処分または不作為を行った行政庁「以外の行政庁」に対して不服申立てをおこなうものであり、今回の事案はこれに該当します(同法3条2項)。

なお、再審査請求とは、審査請求の裁決を受けたあとにさらにそれに不服申立てを行うものです(同法8条1項)。

4.執行停止制度
また、今回、国は農林水産省に対して、沖縄県知事の出した建設作業の停止の指示という行政処分に対して、執行停止を申し立てました。

行政不服審査法上の行政不服申立てが行われても、その申立ての濫用や、行政の停滞を防ぐため、原則として、行政処分は止まりません。しかし、行政不服申立てを行った当事者が、一定の要件のもとにその行政処分の執行停止を申立て、審査庁が必要があると認めたときは、行政処分を止める執行停止がだされます(行政不服審査法34条)。

5.行政事件訴訟法に基づく行政事件訴訟
行政事件訴訟、いわゆる行政訴訟は、うえの行政不服申立てが行政に対して行うものであったのに対して、裁判所に提起して紛争の解決を図るものです。


行政事件訴訟は、客観訴訟主観訴訟にわかれ、その主観訴訟は抗告訴訟当事者訴訟にわかれます。

この、抗告訴訟(行政事件訴訟法3条)は、取消訴訟、無効等確認訴訟、不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟、差止め訴訟などの総称です。

とくに、取消訴訟(同法3条2項、3項)や無効等確認訴訟(同法3条4項)は、行政訴訟のなかで一番メインといってもよい訴訟のパターンであると思われます。

新聞記事によると、菅官房長官は、翁長知事の今回の指示を、「違法性が重大かつ明白で、無効だ」と批判したそうです。そして、国は沖縄県の指示の無効を不服審査などで主張する方針のようです。

行政処分の瑕疵(=過ち)が、重大かつ明白である場合、その行政処分は無効となると判例・通説上解されています(「重大明白性説」)。

菅氏もそれを念頭にこの発言をしたと思われるので、おそらく国は、行政事件訴訟を起こすとした場合、抗告訴訟のなかでも、とくに無効等確認訴訟をメインに考えているものと思われます。

6.おわりに
昨年春に辺野古への基地移転のための沖縄防衛局の活動が始まり、地元の国民の反対運動に対して、海上保安庁の職員らが法令を無視して連日のように暴力をふるう事件が起きています。そして昨年12月の知事選挙では、辺野古移転反対の地元の国民の支持を受けた翁長氏は、中央政府の支持を受けた仲井間氏を大差で破り勝利しました。

沖縄県民の民意を受けた翁長知事の今回の防衛局への指示に対して、中央政府はうえでみたように、行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立てをしたそうで、状況は完全に沖縄vs安倍政権「ガチンコ勝負」の様相を呈しています。

安倍政権の、憲法や各種の法令を無視し、国民の民意を軽視する振る舞いを苦々しく思う国民は多いでしょう。また、安倍政権の推進する新自由主義に基づく「構造改革」「規制緩和」により、国民の労働条件、社会保障、医療、介護など各種の制度は、今後ますます改悪されてゆきます。

そのような意味で、安倍政権に対して断固として戦う沖縄県を、自分たちの問題として、全国の多くの国民が応援しています。

■追記
3月30日付の朝日新聞に、つぎのような記事が掲載されました。

・「法の趣旨に沿わない」指摘も 辺野古移設作業、知事停止指示に国が対抗措置|朝日新聞

この記事によると、「サクハシ行政法」の愛称で親しまれる、司法試験受験生など、行政法を学ぶ学生が選ぶ行政法のテキストとしてシェア1位の、櫻井敬子・橋本博之『行政法[第4版]』の著者のひとりである、慶應義塾大学の行政法の橋本博之先生その人が、今回の国の審査請求に関して、「法の目的は国民の権利利益の救済であり、国が審査請求することには疑問を覚える」とコメントを寄せたとのことです。

辺野古への基地移転の問題に関しては、国側は違法行為のオンパレードですが、今回の審査請求も、さっそく、行政法の第一人者の先生のひとりから疑問符がついた形です。

まあ、安倍総理以下、憲法を守ろうという姿勢すら示さないコンプライアンス意識に欠ける政府・与党は、国民や沖縄を屈服させるという目的ありきで、そもそも行政法などまともに守ろうとは考えていないのでしょうが。

■参考
沖縄の辺野古の問題に関しては、こちらもご参照ください。
・辺野古基地移設の海上デモ/適正手続きの原則と比例原則
・仲井真沖縄県知事が退任4日前に辺野古工事変更を2件承認/仮の差止の申立て
・防衛局が辺野古沖に設置したブロックに翁長知事が停止を指示/代執行・国地方係争処理委員会


・日本郵政グループかんぽ生命保険コンプライアンス統括部が部内でパワハラ/ブラック企業
・再びかんぽ生命保険のコンプライアンス統括部内でのパワハラを法的に考える/ブラック企業


行政法 第4版



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