辺野古沖のブロック設置に翁長知事が停止を指示/沖縄県漁業調整規則・国地方係争処理委員会 | なか2656のブログ

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1.辺野古海底のブロック設置に関する事実の概要
2月16日、17日の新聞各紙によると、沖縄県の名護市辺野古の基地建設の問題に関して、翁長雄志知事16日、県庁で記者団に対し、米軍普天間飛行場の移設計画に伴い沖縄防衛局辺野古沿岸部の海底に設置したコンクリート製の「トンブロック」(10~45トン)がサンゴ礁を傷つけている事件について、防衛局に設置作業の停止を16日に指示したことを明らかにしたそうです。


・翁長知事、辺野古ブロック設置など一時停止を指示へ|毎日新聞
・翁長知事、辺野古ブロック設置など停止を指示|沖縄タイムズ

翁長知事は記者団に対し、沖縄県が「沖縄県漁業調整規則」に基づき「岩礁破砕」許可した区域外で防衛局がブロックを投下・設置している可能性が高いとして、設置作業停止の指示に従わない場合は「取り消しも視野にある」と明言しました。

沖縄県は前知事(仲井真氏)時代の昨年8月、172ヘクタールの海域の「岩礁破砕」を許可した際、「沖縄県漁業調整規則」に基づき「公益上の事由により、指示する場合は指示に従うこと」「条件に違反した場合は許可を取り消すことがある」などの条件を付していたそうです。

また、沖縄県は防衛局に対し、海底に設置されたブロックの図面や座標・水深、重量などの資料や、ブロック設置前後の海底写真を23日までに提出することを求め従わない場合は許可を取り消すことがあると通知したとのことです。

それと並行して、沖縄県は原状回復命令を下すことも視野に、27日から約10日間、現地を調査し、サンゴ損傷の有無などを確認する予定であるそうです。

2.漁業調整規則
この新聞各紙の記事で登場する「漁業調整規則」とは、農林水産省が主務官庁である「水産資源保護法」に基づき、各都道府県の実情に従って制定されている規則(いわゆる施行規則)です。漁具漁法の制限や魚の体長等の制限、禁止期間、禁止区域などのルールを定めるもので、「○○県漁業調整規則」というような名前が付けられています(全国漁業協同組合連合会『海のルールとマナー教本』7頁)。

沖縄県漁業調整規則をみると、その39条に今回問題となっている、「漁場内の岩磯破砕等の許可」の条文が置かれています。

沖縄県漁業調整規則
(漁場内の岩礁破砕等の許可)
第39条
 漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。
2 前項の規定により許可を受けようとする者は、第9号様式による申請書に、当該漁場に係る漁業権を有する者の同意書を添え、知事に提出しなければならない。
3 知事は、第1項の規定により許可するに当たり、制限又は条件をつけることがある。


つまり、岩礁を破砕しようとする者(国・防衛局)は、第9号様式による申請書(39条2項)を提出して、知事の許可を受けなければならず(39条1項)、知事がその許可をするにあたっては、制限または条件をつけることができるとされています(39条3項)。

そして、沖縄県漁業調整規則の末尾にある「第9号様式による申請書」のフォーマットの記載事項には、「1 目的」、「3 区域」、「4 期間」などの欄があります。さらにその最後に、「6 その他参考事項」という欄があり、ここに記事にある、前知事の仲井真氏による「公益上の事由により、指示する場合は指示に従うこと」や「条件に違反した場合は許可を取り消すことがある」などの条件が付されていたことになります。


このように見てゆくと、今回の沖縄県の翁長知事の漁業調整規則に基づく国・防衛局に対するブロック設置作業の停止などの指示は法令上適正であると思われます。

なおやや余談ですが、沖縄県漁業調整規則の最後のほうの罰則の条文を読むと、うえで挙げた岩礁破砕等の許可に関する39条1項、3項に違反した者は6か月以下の懲役または10万円以下の罰金に処すという罰則が置かれています(52条)。また、同54条は従業者などが52条に規定する違反行為を行ったときは、その従業者などを処罰するとともに、その従業者を使用する法人も処罰するという両罰規定を置いています。とはいえ、今のご時世で、罰金が10万円以下というのは、法人・国などに対しては抑止力がほとんど無いのではと思われます。

3.取消訴訟
しかし、2月20日の新聞記事によると、政府は20日の閣議で、防衛局がブロックを設置したことに関して、沖縄県の許可は不要であるとの趣旨の政府答弁書を決定したそうであり、沖縄県と本土の政府の主張は180度対立しています。

そのようななか、これは本土の全国紙になぜかあまり掲載されていないような気がするのですが、沖縄県のかつての辺野古の埋め立ての承認そのものの取り消しを争う、どまん中な直球勝負の取消訴訟が提起され、現在、沖縄地裁で係争中であるとのことです。取消訴訟はまさに行政訴訟における王道です。

・国と住民、法廷論戦へ「辺野古」承認取り消し訴訟|沖縄タイムズ

記事を読むと、当初は地元の住民の方々が原告となり、辺野古の埋め立ての承認の取消を求めて、沖縄県を被告として訴訟が提起されたようです。ところが昨年12月に辺野古基地移転反対を掲げる翁長氏が圧勝したことを受け、被告の沖縄県側は主張をトーンダウンさせ、そのかわりこの訴訟に当事者参加した国が辺野古基地移転は適法と主張し、沖縄県の地元住民vs本土の国、という一騎打ちの展開となっているようです。これは今後の展開が非常に期待されます。

4.適正手続の原則
なお、素人の私が考えてもあまり意味のないことではありますが、昨年の頭ごろからほぼ毎日のように新聞、ネット記事、地元の方々のツイッターなどで報道されているとおり、沖縄の人々への海上保安庁の隊員達の憲法、法律なぞどうでもよいと言わんばかりの暴力行為等が行われています。

海上保安庁の辺野古での数々の所業は、まず暴力をふるっているという点で、暴行、傷害、特別公務員暴行陵虐などの刑事罰に該当する可能性が高いと思われます。また、行政法上の比例原則(警察比例の原則)にも反しています。さらに彼らが辺野古の方々の地上または海上でのデモを取り締まる際に、まともに根拠条文を示せないことや、合法的な範囲でデモをしている人々の身体を拘束する際等に令状を裁判所から取っていないことも令状主義の大原則に反しており、刑事訴訟法・憲法における人権保障の観点から大問題です。デモを行っている人々を不当に取り締まっていることも、憲法の保障する表現の自由(憲法21条)から大いに問題です。

このように、海上保安庁や国の一連の行為は法的な手続きの意味でつっこみどころ満載であり、完全にアウトです。例えるなら、海上保安庁や国は、映画の『マッドマックス』や漫画の『北斗の拳』に出てくる悪役の無法者集団のようなあり様です。

この点、憲法には、公権力を法律の手続面の観点から拘束し、もって国民の人権を手続的に保障しようとする適正手続の原則を定めた条文があります(憲法31条)。そして、あまりにも国の行為が適正手続きの原則を没却するものであり、手続き的正義に反すると裁判所に評価されるのであれば、国が掲げる「辺野古基地移転」という最終的な行政上のゴールが判決で否定される可能性が出てきます。

辺野古の埋め立ての承認の取消を争う今回の訴訟と並行して、何とか裁判所が辺野古基地移転をゴールと認識しうるような行政処分(認可など)を見つけ、その行政処分に対する取消訴訟、無効等確認訴訟を提起する道があれば、さらに新たな展開が見えてくるかもしれません。

*適正手続の原則などについては、詳しくはこちらをご参照ください。
・辺野古基地移設の海上デモ/適正手続きの原則と比例原則

5.地方公共団体に対する国または都道府県の関与‐代執行
なお、これはややマニアックな話になってしまうのですが、地方自治法の245条以下は、「地方公共団体に対する国または都道府県の関与」について規定しています。

かつてのわが国においては、中央官庁の主務大臣が地方自治体の知事に対して指揮監督権を持ち、また、都道府県知事も市町村に対して取消権・停止権を有するなど、いわば“上命下服”型の関係がながく存在しました。しかし、地方自治体の行う事務に関しては、地方自治の本旨(住民自治と団体自治)の観点(憲法92条)から、当該団体の自主性を尊重すべきであるとして、2000年に施行された地方分権一括法により、これらの点の改善がなされました。

しかし、全国の地方自治体における統一性、適法性の確保のために、国または都道府県が他の団体に関して関与を行うことはまったくは否定できないとして、現行の地方自治法も国または地方自治法の関与の制度を置いています。

具体的には、この「関与」の内容は、「助言・勧告」、「資料の提出の要求」、「是正の要求」「同意」、「許可、認可または承認」、「指示」、「代執行」、「協議」です(地方自治法245条)。

このうちこの関与における「代執行」がやや気になります。

この「代執行」とは、地方公共団体がその法定受託事務(注)の執行等について、①法令等に違反している場合において、②それ方法によってその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときに、各主務大臣があらかじめ高等裁判所に出訴して認容判決を受けるなどの、かなり厳格な一連の手続きを経たうえで、当該地方公共団体の知事に代わって当該事務を行うことができるという制度です(地方自治法245条の8)。

地方自治体の事務の執行が①法令に違反し、②代執行以外の手段では解決が困難であり、③それを放置することが著しく公益を害する、という3要件をこの条文は要求しています。また、行政だけで手続きを完結させず、裁判所の判決を得る必要があるという手続きも課しています。そのため、今回の辺野古沖のブロックの設置に関して直ちにこの代執行が論点として浮上する危険性はあまりないような気がします。

6.国地方係争処理委員会
国と地方自治体の関与における代執行よりももう少しだけメジャーなのは、「国地方係争処理委員会」の制度であると思われます。国地方係争処理委員会制度とは、国と地方公共団体との間で紛争が発生した際に、不透明な事実上の力関係でなく、公正・中立な立場で紛争を審査する機関により判断・解決等がなされるべきであるとして設置された委員会の制度です(地方自治法250条の7以下)。

この国地方係争処理委員会は常設の機関であり、5人の委員で構成されます。一般人の感覚からしてやや奇異なのは、この委員会が公正取引委員会などのように独立した第三者機関という位置づけではなく、総務省のなかに設置されていることです。

この委員会に対して紛争の審査などを申し出できる主体「地方自治体の長その他の執行機関」です。そして審査の対象となる国の関与の類型は、うえであげた「関与」一般よりは絞られているのですが、しかしそのひとつに、「許可の拒否その他の処分その他公権力の行使にあたるもの」が存在します(地方自治法250条の13第1項)。

沖縄県は、この250条の13第1項の「その他の処分その他公権力の行使にあたるもの」を根拠として、国の辺野古への基地移転の問題の審査を国地方係争処理委員会に申し出ることができる可能性があるのではないでしょうか。

この国地方係争処理委員会の制度においては、委員会審査を行い、その結果に基づく勧告等を国・主務大臣に対して行います。しかしその勧告等が不調に終わった場合、つぎのステップとして、地方自治体の長等はさらに高等裁判所に訴訟を提起することができます(地方自治法251条の5)。

7.おわりに
このように、沖縄県が海上保安庁や本土の政府・与党と戦うための法的な手段な多くはないものの、存在はします。

日本全国の労働環境、社会保障、医療、農業、安全保障などを「構造改革」「規制緩和」の名のもとに次々と破壊し、新自由主義により格差社会の拡大を推進し、全国の庶民の生活をどんどん苦しめる安倍政権に対しては、多くの国民・市民は怒りをつのらせている状態です。

そのような意味で、永田町および霞が関の政府・与党と断固戦っている沖縄県の方々に共感し、賛同している国民・市民は日本全国にいると思います。

■参考文献
・宇賀克也『地方自治法概説[第5版]』332頁、352頁、369頁など
・全国漁業協同組合連合会『海のルールとマナー教本』7頁
http://www.zengyoren.or.jp/cmsupload/press/65/20120518uminoru-rutomana-dokuhon.pdf

注)水産資源保護法35条の2により、知事の「漁場内の岩磯破砕等の許可」は法定受託義務とされています。

地方自治法概説 第5版



行政法 第4版


憲法 第六版



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