「奇跡の脳」 | 心と身体をつなぐもの

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「奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき」という本を読みました。
 
アメリカの神経解剖学者、脳科学者である筆者が、
約10年前に自分自身で体験した脳卒中について、
その体験と回復に至るまでを描いたものでした。
 
 
人の脳の働きについてとても興味深く語られていて、
これは、脳卒中という病気に関わる人だけでなく、
全ての(脳を持っている)人が読んだ方がいい!と思ったのです。
 
 
もちろん、脳卒中に見舞われた方が身近にいる、という方にとっては、
接し方やリハビリの仕方についてもとても良い知識になります。
 
 
そして万が一、自分の身に起きた時に、脳卒中になるとこういう感じになってくる、
という知識があれば、その後の治療にもとても役立ちます。
 
 
 
※脳卒中とは、
酸素を脳細胞に運んでいる血管に問題がある、ということを指し、
血管が破れる出血性のもの、
固まった血の塊が動脈を詰まらせてしまい、酸素がいきわたらなくなる虚血性のものとがあるそうです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
脳の左半球での出血により、左脳に激しい損傷を受け、
自分の心が段々と壊れていく様子を見つめ、
そして4時間後には歩くこと、話すこと、読むこと、書くこと、
そして色も判別できないような状態にまでなっていく様子。
前半はその状況が生々しく書かれています。
 
 
 
そこまでの状態になったのに、意識ははっきりとしていて、
複雑に入り組んだ神経回路が徐々に劣化していく様を見守っていて、
覚えていてね、体験していること全部、覚えていてね、
と細胞に語り掛けていたという。
 
 
だからこそ、回復した後にこのように本にまとめられ、私たちが読むことが出来る。
本当に奇跡のような本です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
実用的に病気のことを知る、
回復のための道のりを示してくれる、という意味でも
とても意義深い本ではありますが、
人の脳の機能について知ることが出来て、私にとってはそれがとても面白かった。
 
 
 
 
 
 
まず、人の脳とは可塑性があるということ
 
入ってくる情報にあわせて「つながり方」を変える、ということ。
 
だから、一部の脳細胞がダメージを受けて、その部分が受け持っていた機能が失われたとしても、
その機能を回復することが出来る。
 
とても柔軟で素晴らしい能力があるのですね。
 
 
 
一般的に6か月以内に機能がもとに戻らなかったら、その後は永遠に回復しない、
と言われているそうですが、
この著者の方は、それは本当ではない、と言っています。
 
ご本人は完全に回復されていますが、完全と言い切れるまでに8年かかったということです。
 
8年間、少しずつ回復していったというのです。
 
 
これは人によって、また損傷を受けた部位によっても違いは出てくるのだとは思いますが
とても勇気づけられることではないでしょうか。
 
 
 
 
 
そして、左脳と右脳の役割と、キャラクターの違い
 
 
左脳は言語中枢を司どり、「私である」という自我意識をつかさどっている所。
 
自分以外の世界と関わり、コミュニケーションをとるためには
共通のルール、共通の認識が必要になりますよね。
 
文字を読める、言葉が理解できる、話すことが出来る。
そもそも、「人である」と認識できる、というような。
 
頭の中で繰り返される独り言、おしゃべり
「時間」の概念も、左脳の働きだそうです。
 
いわゆる「知的」なことは左脳の働き。
 
 
 
左脳では、全てのことを分離して分析、整理する。
良い悪いの判断、予測すること。
入ってくる刺激に対してパターン化した反応を見せる。
この反応はほぼ自動的。
そうでもしないと、入ってくる膨大な情報を処理しきれないからです。
 
 
 
 
 
 
 
 
それに対して右脳は言語以外のコミュニケーションを解釈する。
 
話す人の姿勢や表情で表現全体のメッセージを読み取る手助けをする。
 
言葉自体は理解せず、
視覚や聴覚といった感覚系を通して入ってくる情報を、その一瞬毎に
この瞬間がどう見え、どんな味で、どんな匂いでどう感じるのか、というコラージュを作る。
 
瞬間は、あっという間に去るのではなく、
情動、思考、感情、生理的な反応で溢れている。
 
右脳のおかげで、瞬間を記憶することが出来る。
 
瞬間ごとに周囲の空間を把握し、その空間との関係を築くことが出来る。
 
全体像を描くことが出来るため、人に共感したり、人の身になって考えたり、感情移入したりする。
 
 
時間が存在しないため、
それぞれの瞬間が情感で彩られている。
 
生や死、よろこびの体験、全て今この瞬間に起きている。
それを実感しているのが右脳。
 
正しい・間違っている。規則や規制、思慮分別も何もないため、
何も縛られずに自由に、創造的でもある。
 
 
 
 
 
 
 
右脳と左脳は、それぞれが別のやり方で情報を処理していて、
別々の価値体系として現れる。
 
それが結果的に、異なる人格が生じてくるのは自然なことのようです。
 
 
 
通常、健康な人の場合は、この左右のキャラクターが
お互いに支えあって影響しあい、調節しあってひとつの人格として機能しているのだそうです。
 
 
左脳は非常に大切ですが、偏りすぎると、
常に分析し、批判的になり、柔軟性に欠けるようになる。
やはり、左脳が支配的になっていることが多いのかもしれません。
 
 
 
 
 
 
科学者という立場で、おそらく左脳的に偏っていたであろう、病気前の筆者でも、
左脳がダメージを受け、そのカバーをするべく右脳の働きが前面に現れてくる。
 
そのとき感じていたのが、
世界との一体感、平和、静けさ。
穏やかで守られていて、祝福されて幸せで、全知であるかのような感覚。
仏教徒なら涅槃(ニルヴァーナ)とでも表現できるような意識の状態だったのだそうです。
 
筋の通った思考をすることが出来ず、
読むこと、書くこと、話すこともできず、歩くこと、寝返りを打つことさえできなかった時に、
です。
 
 
今までできたことが出来なくなっていても、比較する左脳が働いていないので、
単に自分はひとつの生命にすぎず、たくさんの細胞が集まってできた傑作だと感じていた。
 
 
このあたりが、私は非常に興味深く感じました。
 
 
 
 
 
 
人間として社会的に生きるには、左脳の働きがとても大切なのだけど、
もう少し、右脳的なマインドを持ってみんなが生きていけたら
平和で愛にあふれる世界になりそうですね。
 
いつでも、その右脳の感覚につながれるんですよ、というメッセージが
とても心に残りました。