天国食堂みなと屋 もういくつ寝ると編 前編 



「行くなー!ラッキーーー!!」
「だめですよ!みなとさん!!」

おれはラッキーを、そして坊やを道路の向こうに思いっきり突き飛ばした。

たすかった・・・

「あのね、ラッキーが助けてくれたの。ラッキーがね、ボクを助けてくれたの。」
泣きじゃくる坊やと気を失ったラッキーを抱きしめて、あの人も泣いていた。

「みなとさん、一緒に役所に戻ってください。もう、なんてことしてくれたんですかー。」
がっくりとうなだれて歩く、お迎え係の背中を見ながら、おれはもと来た道を戻っていった。
涙がこぼれて止まらなかった。


神様の前に出てからも、涙があとからあとから出てきて、止まらなかったんだ。

「神様、おれ、おれ・・・」
ためだ。言葉にならない。それに何を言えばいいのかもわからない。
神様はおれの背中をなで
「罰として、お盆の帰省はなしよ。そのかわり、お正月には帰っていいわよ。
ラッキーは、天国名簿の登録抹消が済んだら目を覚ますわ。
あなたは、気が済むまでここでお泣きなさい。」
そう言って、扉の向こうに消えた。

どれだけ泣いたかわからない。
そろそろ店に戻ろうか。
おれのご飯をみんなが待ってる・・・かな。

ドアの前に、あのお迎え係が立っていた。
「すみませんでした。」
「いえ。僕も“おとがめなし”でしたから。
それより、みなさんがお待ちですよ。」
そう言ってドアを開けたその向こうに・・・

てんさん、はる、はっぴーさんや俺の店の常連さんたちが並んていた。

「おいしいご飯を食べたいぞ。早く店に戻るのじゃ。」
「もう、てんちゃんてば。」
みんながドッと笑った。
おれはまた泣いた。

おれたちは歌いながら歩いた。

♪天国いちのうまい店
 ほっぺた落ちちゃう気をつけて
 一度食べたら止まらない
 天国食堂みなと屋さ



待ちに待ったお正月も、もうすぐだ。
もう、寄り道はなし。
まっすぐ、かあちゃんと、みーさん、のぞみの待つ家に帰ろう。

おわり