杉浦日向子『一日江戸人』 | 本の虫凪子の徘徊記録

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新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【再読】  杉浦日向子『一日江戸人』 新潮文庫

 

本日はこちらの作品を再読しました。

江戸の風俗について解説する、ガイドブック的な作品です。

時々パラパラと読み返しているのですが、何度読んでも面白い。

江戸っていいなあ、と再確認しました。

それでは早速、感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

衣食住などの基本的な事柄は勿論、当時流行っていたものや、江戸のモテ男のナンパ術、美女列伝、江戸っ子のための旅行(伊勢参り)手引きなど、細かい情報が満載で読み応えのある一冊となっています。

私が特に好きなのは中級編の「春画考」。
確かに春画にはエグいものも多いですが、中には芸術的なものがあるのも事実。ちなみに、ここで紹介されている絵師からは外れますが、私のいちオシは河鍋暁斎。幕末の画家です。えげつないまぐわいの場面も、色のコントラストがはっきりしていて派手やかだとそれだけで芸術的に見えてくるから不思議です。下品ですけど。

それから、上級編の「意匠」と「傾く」の項目も好きです。
男版と女版それぞれの傾奇者ファッションがイラストで紹介されているのが良い。女性が、派手な化粧に地味な着物で、男物の羽織を無造作に引っ掛けている姿が絶妙に色っぽくて素敵です。現代の古着コーデ×オルチャンメイクあたりがこの系統じゃないでしょうか。

あとは、「食」。特に「酒」。
江戸前の酒肴のレシピもついています。いつも気になるのはトウキビキュウリ。花カツオと柚子皮を両方散らして、ちょろっと醤油をかけるのが一番美味しそうです。そのうちやってみたい。
「食」の項目には豆腐料理と大根料理のレシピも載っています。白米・豆腐・大根は「三白」と呼ばれ、江戸で広く愛されていた食材です。私も大好き。合歓豆腐は生姜汁と鰹節をたっぷりかけるのがオススメ。興味のある方はぜひ。

また、町人だけでなく、大奥や将軍の生活についても書かれています。将軍の日常の自由度があまりにも低くて可哀想です。しきたりやら規則やらでガッチガチ。毎日仕事と勉強と武芸に明け暮れ、食事は決まった物しか摂れず(粗食な上にあまり美味しくない)、常に周りに数人の小姓が控えている(大奥での同衾時も)。ストレスが凄そうです。こんな生活を真面目に続けていたらどう考えても早死にしますよ。

その他にも、江戸っ子の正月の過ごし方や、信じられていたおまじないの数々、実在した奇人変人・盗賊たちの紹介など、愉快な項目がたくさんあります。杉浦さんの調子の良い文章が非常に面白く、サクサクと読めてしまいます。

勝手な見解ですが、歴史に興味のない人の大多数は、江戸文化について「蕎麦!天ぷら!長屋暮らし!粋!」というようなざっくりとしたイメージしか持っていないのではないでしょうか。それも間違ってはいませんが、本当はもっと奥深く、面白いものだということをぜひ多くの人に知ってもらいたいものです。
テレビの時代劇などを見ているだけでは、江戸の風俗の大まかな輪郭しか掴むことができません。ですがこちらは、江戸文化について詳しく掘り下げつつ、また、現代の文化とも照らし合わせることで、より身近に感じられるように工夫して書かれています。挿絵がたくさんで紙面が賑やかなのもポイントです。江戸時代についての知識がほとんどないという人にも取っ付きやすいのではないでしょうか。
読んでいて楽しい一冊です。江戸文化への入門書をお探しの方はぜひこちらを。

それでは今日はこの辺で。