【再読】 ウィリアム・シェイクスピア シェイクスピア全集『マクベス』小田島雄志訳 白水Uブックス
本日はこちらの作品を再読しました。
シェイクスピア四大悲劇の一つ、『マクベス』です。
四つのうちで個人的に最も好きな作品。久しぶりに読み返しました。
それでは早速、感想の方を。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
ざっくり言うと、立派な勇士であったマクベスが、欲のために身を滅ぼすお話です。
王位簒奪→暴君化→復讐される、というのが大まかな流れ。
妻に唆されて主君を殺し、まんまと王位を簒奪したマクベス。
唆したマクベス夫人も勿論悪いとは思うのですが、完全に言いなりになっているマクベスにはもっとしっかりしろ、と言いたくなります。彼は勇敢な男のはずなのですが、どうも臆病で小心者な側面の方が目立ちます。王を殺す土壇場で怖気づいたり、その後自らの罪に怯えて取り乱したり、傍から見ると随分情けない有様です。後悔するくらいなら殺さなければ良かったのに。
玉座にふんぞり返って酒池肉林三昧、私利私欲の限りを尽くし、己の地位を守るためなら女子供や友人でさえ容赦なく殺す畜生っぷり。これだけの気概があるなら、もう完全に開き直って悪人に徹してしまえば良いものを、中途半端に理性が残っているようなのがひたすら哀れです。最後の戦いではどう見てもやけっぱちだし。
一度は思い留まった最初の王殺しを無理矢理決行させ、破滅へのレールを敷いたのはマクベス夫人です。だからいっそのこと全部妻のせいにして自分を正当化してしまえば楽なのに、それが出来ないのがマクベスなんですよね。愛妻家という以前に根が真面目。悪党にはなれても悪人にはなりきれない、厄介な性格です。
マクベス夫人にしろ、メンタルがそこまで強いわけではありませんでしたし、結局のところ、この二人に悪事は向いていなかったようです。分不相応な夢見るもんじゃありませんね。
この二人のこういった人間臭い部分が作品の魅力に繋がっているのだと思います。
最終的に、暴君マクベスは正義の騎士マクダフに討たれて死亡。めでたしめでたし。
【女が生んだものなどにマクベスを倒す力はない。】
というのが魔女たちの予言でしたが、月たらずのまま母の腹を裂いて出てきたというマクダフはその例外。帝王切開は「女が生んだ」ことにはならないようです。
個人的に、作中で一番酷い死に方をしたのはマクダフの妻子だと思っています。本当に可哀想。死の間際に、お母様逃げて!と叫ぶ息子の健気さ。マクベスの外道!!
場面として好きなのは、第四幕第一場の、魔女たちが大釜を囲んで歌っているところです。
蛇やらカエルやら、毒ニンジンやらトルコ人の鼻やら、次々と鍋に放り込みながら歌う様子が不気味で素敵です。
セリフで一番好きなのは、第五幕第五場、
【消えろ、消えろ、つかの間の燈火! 人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ、】
の部分。有名なセリフですね。やけっぱちマクベスの名台詞。
あともう一つ、冒頭の第一幕第二場、王への戦況報告での
【運命の女神も不義の軍にほほえみかけ、
逆賊の娼婦となるかに見えました。】
という言い回しも好きです。初めて読んだときから強烈に印象に残っているセリフです。
そんな物言いしている方が女神に嫌われそう。
初読時には人名が覚えられず、人物紹介ページと行ったり来たりしながら読んでいましたが、流石に何度も読んでいると覚えますね。スコットランド貴族組のメンティース、アンガス、ケースネスあたりは未だに時々ごっちゃになりますが。
人間関係やストーリーはわりと単純ですっきりとした構成になっているので、シェイクスピア作品の中でも読みやすい部類なのではないかと思います。
興味のある方は、ぜひ。
それでは今日はこの辺で。