三島由紀夫『お嬢さん』 | 本の虫凪子の徘徊記録

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【再読】  三島由紀夫『お嬢さん』 角川文庫

 

本日はこちらの作品を再読しました。

同作者の『愛の渇き』と迷いましたが、ドロドロした話よりはスッキリした話が読みたい気分だったので、こちらに決定。

あまり劇的な展開ではないものの、好きな作品です。

それでは早速、感想を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

ヒロインである社長令嬢のかすみは、二十歳になる女子大生です。ちなみにかなりの美形。ノーメイクで出歩いても許されるレベルの美形です。
朗らかではあるものの思慮深く控えめな性格で、大人っぽい一面もあれば無邪気な一面もあり、まだ「少女」を抜け切らないような、複雑かつ繊細な心の持ち主です。ただ恋愛に関しては、この年頃の女性にしては珍しく、冷め切っています。

この物語の中心となるのは、そんな彼女の「恋愛」と「結婚」です。日々をぼんやりと過ごしていた彼女の心が、一人の男性によってかき乱されていく様子が丁寧に描かれていきます。
かすみのお相手である沢井は軽薄で遊び人風の男ですが、箱入りのお嬢さんがこういった類の男に興味を持ち、その興味が次第に形を変えていく、という流れには嫌にリアリティがありました。秘密の共有から始まる関係、というのもまた、かすみの高揚を煽ったのでしょう。
激しい恋ではなく、手探りの、健全で微笑ましい交際期間を経て二人は結婚し、新生活がスタートします。そして結婚してからのかすみは、沢井の女性関係を疑う、嫉妬深い妻に早変わり。

いやあ、やっぱり可愛いですね、かすみ。
このかすみちゃん、すましてはいるものの、根は負けず嫌いで意地っ張り、そして結構思い詰めるタイプ。思い込みが激しく神経質で、良くも悪くも「女の子」という感じです。はっきり言って面倒臭い性格の女だと思います。おしとやかに振る舞ってはいても、時折見せる気まぐれな一面、育ちの良さから来るプライドの高さ、傲慢さのせいで、「鼻持ちのならない女」だと感じてしまう場面も多々ありました。要は、根っからの「お嬢さん」気質です。
が、個人的には、かすみの魅力はこの部分にあると思っています。
クールを装っていても実は感情に振り回されている、って可愛くないですか。

まあさすがに、夫と兄嫁の関係についての邪推は、浅ましい疑念だと言わざるを得ません。
夫を信じ切れない気持ちは分かりますが、秋子さんに対してあまりにも失礼だったと思います。彼女が義妹の子供っぽい嫉妬も寛大に受け止めてくれる人だったのが幸いでした。
この兄嫁の秋子さん、聡明で察しが良く、気遣いも上手い、本当に出来た女性です。登場人物の中で一番好きですね。

かすみの夫となった沢井は、昔は確かに遊び人ではありましたが、結婚してからはかすみ一筋で、浮気もせず、心の底からかすみ一人を愛しているようです。これから先もずっとそうであれば良いと思います。

最終盤の、夫の過去の恋人・浅子とかすみの会話は何度読んでも良い場面です。
沢井を疑い続けるかすみを、静かに諭す浅子。
彼女の、「あなたのヤキモチは小細工ばかりで醜いわ。そんなの、ほんとに女の滓だわ」というセリフが好きです。さすが、振られたあてつけに新婚の家に押しかけ、投身自殺を図った女は言うことが違いますね。情熱的な彼女らしい発言だと思います。
かすみが吹っ切れるように手助けをするのが、元恋敵の浅子という展開がまた良い。浅子がこちらの言いたい事を全部言ってくれるので、最後は本当にスッキリしました。

ハッピーエンドで綺麗に終わるので、読了感も良い感じです。
会話文が多めでスラスラ読むことのできる作品です。ヒロインが育ちの良い「お嬢さん」なので、嫉妬する場面にしてもどことなく幼稚というか、厭らしさが少なく、全体的にテンポの良いカラッとした雰囲気があります。そこが気に入っています。
三島由紀夫の作品の中でも最も多く読み返しています。


それでは今日はこの辺で。