瀬尾まいこ『おしまいのデート』 | 本の虫凪子の徘徊記録

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新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【初読】  瀬尾まいこ『おしまいのデート』 集英社文庫

 

今日は瀬尾まいこさんの作品の中から、読んだことのないものを。

「デート」にまつわる五つの物語を収めた短編集とのことです。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

読了後の感想を、お話ごとに書いていきます。

 

『おしまいのデート』

適当なことばかり言っている祖父と、それを受け流すクールな孫、二人の会話のテンポが独特です。おじいちゃん、いいキャラしてます。主人公の淡々とした態度が、逆に「おしまい」の寂しさを感じさせるような作品でした。最後ではないと分かっていても、なんだか名残惜しくなる別れってありますよね。そういう別れを思い出しました。

 

『ランクアップ丼』

毎月決まった日に恩師と玉子丼を食べに行くのは良いとして、クリスマスイブですら彼女よりも上じいを優先する主人公、人にもよるとは思いますが、私は誠実な人物だという印象を受けました。まあ、彼女さんが納得できない気持ちも分かりますけれど。

約束のために病院を抜け出す上じいも、最後に登場した上じいそっくりのマイペースな娘さんも、温かみのある素敵な人ですね。最後まで、優しいお話でした。

読んだ後は玉子丼が食べたくなります。甘辛いつゆとしんなりしたねぎ、とろっと半熟の卵、だしの染み込んだご飯。いいなあ。

 

『ファーストラブ』

体育会系主人公の真面目さが印象的でした。男同士でデートなんて嫌だと言いつつ何を着ていこうか悩んだり、当日にも遅れずに待ち合わせ場所についてしまうような、律儀な一面が目立ちます。一方、デートに誘ってきた宝田のほうは自分が見たいといった映画で開始早々爆睡する自由な性格。結局主人公は最後まで彼に翻弄されっぱなしでしたね。物語最後の会話では、ふざけたような態度を崩さない宝田に対して、どこまでも真剣な主人公の様子が見ていて切なかったです。

友達の多い宝田が、わざわざ接点のなかった主人公に声をかけた理由は何だったのでしょうか。感謝のためだと言ってはいましたが、それにしては主人公についてよく知っていたりと、本当はもっと真剣な、何か秘めた思いがあったのかもしれません。

 

『ドッグシェア』

変わった女性と変わった男子学生と捨て犬の不思議な交流。ずれた会話がテンポよく進んでいくのが実に瀬尾さんらしいです。犬の命名のくだり、「久村ポチリン」に至るまでのぐだぐだな流れなんて特に。

夜の公園でビスコを食べるポチリンと、その横で中華を食べる人間二人の図がシュールでした。ポチリンがいなくなったらこの関係はどうなってしまうのだろうと思いましたが、最後が「また明日」で終わったので何だかほっとしました。その後、どんな関係を築いていくのか、気になります。

それから、久しぶりにビスコが食べたくなりました。懐かしいですね。私はいちご味が好きでした。

 

『デートまでの道のり』

マイペースな前話主人公から一変、真面目な保育士の女性が主人公です。園児を使ってその父親との距離を詰めようとする小悪魔的なずるさも持っていますが、基本的に子供好きの優しい女性です。

小さい子供、特に保育園の年長さんくらいの年頃の子って難しいですよね。好き勝手やっているように見えて、意外と周りを見ていたり、大人の考えていることを敏感に読み取ったり。どう接したらいいのかと悩む主人公の気持ちがよく分かります。

一見いたずらっ子のカンちゃんも、本当は見た目よりもずっと聡く、思いやりのある子でした。主人公がそれに気がつくことができて良かったです。これから少しずつ一緒に歩んでいって、いつか本当の家族になってくれたらなと思います。3人がデートできる日が待ち遠しいですね。

 

 

切ないものもありましたが、どれも温かく愛にあふれたお話です。

一つ一つが短めで、無駄な部分がないのでサクサクと読み進めることができました。

瀬尾さんらしさの詰まった、読みやすく、面白い作品だったと思います。瀬尾さん、ありがとうございました。

では。