新聞連載!選ばれる会社になる知的資産経営(10) | 中小企業の知的資産経営と災害対策・BCP

中小企業の知的資産経営と災害対策・BCP

強みを見える化して活かす「知的資産経営」と、災害対策やBCP策定をご支援しています。

東京港運送(株)の事例


 今回はトラック運送業の知的資産経営事例として、食品配送を行なっている東京港運送株式会社(以下「東京港運送」と記す)についてご紹介させていただく。

 東京港運送(代表取締役田中秀明氏)は練馬区に本社をおき、昭島市と埼玉県日高市に営業所を構えている。その歴史は古く前身は明治時代に始まっている。車両台数は95台と多く、半数以上が昭島営業所に配備されている。主にチルド帯食品の工場からスーパー等の配送センターへの転送、配送センターから地域店舗への配送を行なっている。またファミレスチェーンの配送センターから各店舗への食材配送も行なっている。

 

取組みのきっかけ


 本紙でも取り上げられたことがある東京都トラック協会千代田支部のバックアップ倶楽部が、201211月に練馬支部に出張して行なった事業承継+知的資産経営セミナーが取組みのきっかけとなった。田中社長はこのセミナーに参加して、知的資産経営への取組みを決意した。既に5年前に先代に代わり3代目の社長に就任していたが、自社のセールスポイントや会社の向かう方向性、経営理念について今ひとつはっきりしていなかった。また歴史のある会社にもかかわらず、昔はどういう会社だったのか語れるものはほとんどいなかった。知的資産経営への取組みを通じてこれらを見える化したいと考えたのである。

 

従業員ワークショップ


 2013年1月土曜日の午後に幹部及び中堅社員15人が昭島営業所の会議室に集まった。

 まずは退職したばかりの最古参社員が、本人が知る限りの東京港運送の歴史を講義した。何で社名に“港”の字が付いているのかも、前身の会社が昭和初期に品川で内港海運を行なっていたなごりであるとこの時にわかった。

 次に3グループに分かれ、SWOT分析、クロスSWOT分析を行なった。外部環境(機会・脅威)や内部環境(強み・弱み)の分析は、最初は戸惑っていたものもいたが、事前に個人で考えておくよう宿題が出されていたこと、中小企業診断士のファシリテータ(議論の推進役)を付けたことが功を奏し、後半は全員が壁に貼った模造紙の前に立って激論を交わすまでになった。

 最後に、これも参加者の宿題となっていたのだが、自分が考える東京港運送の経営理念について、一人ひとりがその言葉と意味をプレゼンする発表会を行なった。

 午後1時から始め、たっぷり5時間かかったが、従業員が日常業務から離れ会社を客観的に見つめ直す貴重な機会となり、参加者は心地よい疲労感のうちに終了した。

東京港WS

 

報告書作成後に取組んだこと


 ワークショップでの議論を整理し検討していった結果、2ヶ月後に24ページの知的資産経営報告書が完成した。

 その後最初に取組んだことは、かねての課題であったホームページのリニューアルである。それまでは営業所所在地や車両数などの会社概要のほかは、環境への取組みなど通り一遍の内容しか発信できていなかった。知的資産経営報告書で強みを見える化したことで、チルド品の温度管理ノウハウや組織体制、人材力など、東京港運送の強み・魅力をしっかりと発信できるようになった。制作はバックアップ倶楽部内の知的資産経営に理解が深い広告代理店に委託した。会社名で検索してどんなホームページになったのか確認してみていただきたい。

 

協力会社会議での発表


 報告書作成から8ヶ月後の昨年11月に、某大手3PL企業の東日本の協力会社約70社の合同会議があり、そこで東京港運送に輸送上の温度管理についての講演の依頼があった。商品に温度記録計をセットし温度推移をデータとして記録・確認しているのだが、単なる技術論にとどまらず、これをきちんと運用するマニュアル、組織、人材育成などを知的資産の観点からクリヤーに説明することができた。自社の強みをしっかりと語れるようになったのである。