https://www.youtube.com/watch?v=_mULZyNTXzY
私たち夫婦が Iさんに出会ったのは
15年前 干拓地に農地を借りて
野菜作りを始めた頃
Iさんは 隣の畑の持ち主だった
Iさんは ランニングシャツにハーフパンツが定番で
それまでスーツを着て
定年退職まで 堅い仕事を
していたなんて思えないほど
畑仕事が板についていた
たくましい体つき ワイルドな風貌
朴訥とした あたたかい語り口
まるで ずっと農業をされて来た人に思えた
夫はIさんから 野菜作りについて
いろいろ教わった
私たちが なかなか畑に行けない時は
さりげなく 草を刈ったり
トマトが倒れないように
支柱を立ててくださったりもした
そして 自分が作った野菜や果物を
惜しげもなく 大きな袋に入れて
山ほどくださるのだった
それは まるで人にあげる事を
楽しみとされているように
私たちだけではなく
たくさんの人に されている行為だった
私たちは何年か前に
畑をやめたが 時々畑のあたりが
なつかしくて 通りかかると
必ずIさんは 野菜をたくさんくださった
ここ数か月 何度か夫とIさんの畑の近くを
通った際に 私はIさんの顔が見たくて
行ってみようと 夫に言うのだが
夫は また野菜をくださると申し訳ないから・・・と
寄ってはくれなかった
そんなつもりではないのに・・・と私は不満だった
そのIさんの訃報を 先日新聞で知る
私たちは すぐに
拝みに行こうと決めた
あの元気そうだったIさんが
もう この世の人ではないことが
信じられなかった
葬儀の2日後 Iさんのお宅に伺う
よく畑で顔を合わせた 奥さんに
亡くなるまでのいきさつを聞く
昨年11月 わかった時は
ステージ4の末期がんだったとのこと
それでも 少し体調が良いと
畑に出ておられたという
夫が反対しても あの時
畑に行ってみれば良かった
後悔しても遅い
Iさんは 晴れていれば畑へ
雨の日は 木彫りや水墨画 絵手紙など
片時もじっとしていないほど
何かをされていたという
そう言えば 玄関には何十もの
木彫りの仏像や 動物が飾られていた
そうやって いつも好きなことをして
心豊かに 人生を楽しまれていたのだ
奥さんの話を聞きながら 私の心に
よみがえって来た一節があった
「成せよ 成せよ
ドンドン成せよ
遮二無二に成せよ
成すことこそが人生だ」
Iさんは そんな人生の王道を
思う存分 歩まれたのだと感じた
Iさんのお宅を後にして
夫としみじみ 語り合った
Iさんの姿や 声を不思議なほど
ありありと思い出せるね・・・と
生きている時間
いや 生かされている時間を
Iさんのように 大切に使わなくては・・・と
そんな話をしながら
Iさんへの感謝の気持ちに
満たされていた