https://www.youtube.com/watch?v=Y7OAJCgS2OY
夫の医大受診の後
そのまま うちに帰るのが
もったいなくて
「ねえ あの家を見に行ってみない?」
と 夫に持ち掛ける
「うん 行ってみよう」
夫は意外なほど すんなり同意してくれる
その家は 今も存在するのかさえ
わからないくらい
古い家なのだった
その借家で 私たちは結婚生活を始めた
そして 2人の子供を授かり
何年かを 過ごした
その家の前には 広い畑があった
その土地を耕していたおばあさんは
とっくに亡くなってしまったのだろう
畑地は荒れ果て 野と化していた
あの頃は おばあさんに
よく野菜をいただいたものだった
家の前には 夏になると
真っ赤なダリアが
毎年 決まって咲いていた
その向こうには コスモスやケイトウ
秋には 菊の花
四季折々に美しい花が
咲き乱れていた
そんな畑の中の小道が
私たちの家に続く道
その古い家は 今もあった
けれど 家はますます古くなり
全く手入れも されていなかった
そんな家に まだ誰かが
住んでいる気配がした
私たちが住んでいた時は
家の周りは 草一本もないくらい
きれいに 掃除をしていた
松葉ボタンを 軒下に咲かせ
車の心配もない 土の上で
子供たちは 無邪気に遊んだ
7つも部屋のある広い家で
犬を飼ったり インコを飼ったりもした
一番 困ったのは梅雨時
竹藪に隣接したその家には
よく ムカデが出没した
毎年 何10匹もムカデを仕留めた
発見したら 必ず仕留めることが
鉄則だった
幼い子供が ムカデに噛まれたら
大変な事態となるのだから
今では そんな戦々恐々とした想い出も
なつかしく 楽しいものにさえ思えてしまう
家の周囲を 歩いてみた
新しく建った家 昔と変わらない家
なつかしいご近所さんの 名前を口にしながら
誰にも 会うこともなく
1軒1軒 感慨深く
眺めながら歩く
亡くなってしまった人も 多いのだろう
近くにあった美容院は
跡形もなく 更地になっていた
山の下に 小さな神社があった
けれどそこには もう神社はない
まるで 山が神社を呑み込んだかのように
樹々が生い茂るばかり
神社跡地そばに咲く紫陽花たち
そうだ
子供たちを よく遊びに連れて行った遊園地
今はどうなっているのだろう
夫は 大分歩き疲れていたが
そちらに 足を向ける
あの頃も大きかった イチョウの木
その下に コンクリートのすべり台
他の遊具は 何もなかった
すべり台は コンクリートなので
撤去が難しくて 取り残されたのだろう
今はもう ここで遊ぶ子供も
いなくなってしまったのだろう
まだ2歳になったばかりの次男が
いなくなって 必死で探し
見つけたのが この遊園地だった
私が目を離した隙に こんな所まで
小さな足で 歩いて来ていたのだった
この遊園地も 淋しいものとなっていた
今はもう 遊園地とも呼べなくなっていた
どこもかしこも 長い時が流れたのだから
でも ここは私たちの原点
なつかしく 想い出に
満ちた場所である