1、口腔ケアと全身のかかわり
口腔ケアとは、お口の健診にはじまり、お口のなかの清掃、義歯の手入れや、咀嚼・摂食・嚥下などのリハビリテーション、口臭や口腔乾燥治療、食事の介護までを広く指します。
近年、口腔内細菌が原因の一つとされる誤嚥性肺炎をはじめとして、細菌性心内膜炎、糖尿病、動脈硬化などの全身疾患にも口腔病変が影響を与えていることがわかってきています。
つまり、歯とお口のケアは、むし歯や歯周病予防のためだけでなく、全身の健康を守るためにとても大切であるということになります。
2、他人事ではない、がんの治療と口腔ケアの関係
現代の日本では2人に1人はがんに罹患し、3人に1人はがんが原因で死亡するといわれています。
もはや他人事ではすまされないがんと、その治療にともなう口腔のトラブルや、口腔ケアの重要性について触れたいと思います。
がんの治療には化学療法(抗がん剤治療)、手術療法(外科手術)、放射線療法などがあります。
化学療法は口腔の副作用として口内炎などさまざまな症状を引き起こします。
これは抗がん剤が全身をめぐったとき、抗がん剤への感受性が高い口腔粘膜の細胞がダメージを受けやすいためと考えられています。
また、抗がん剤により抵抗力が低下するため、口腔ガンジダ症などの二次感染や、放置していた歯周病などの慢性症状が急激に悪化しやすく、ときには抗がん剤治療を中止せざるを得なくなることがあります。
また抗がん剤の影響で、ちょっとした刺激でも粘膜が傷つき口内炎ができやすくなります。
化学療法の前に、粘膜を傷つけている歯や詰め物がないかチェックを受けるのはもちろん、日頃から歯周病やむし歯などを治療しておくことが重要です。
3、中年期以降の女性は注意―骨粗しょう症のお話
骨粗しょう症は骨がもろくなる病気で、中年期以降の女性に多く見られます。
骨粗しょう症の薬物療法に使用される代表的な薬の一つにビスフォスフォネ―ト製剤(BP製剤)という薬があります。
BP製剤は骨吸収を抑えることで骨粗しょう症の患者さんの骨折を防ぐ作用があります。
しかしBP製剤を内服した後に抜歯をしたりすると、抜いた歯の周りがあごの骨が壊死する薬剤関連性顎骨壊死(МRONJ)を起こすことが近年明らかになっています。
BP製剤を使用しているすべての患者さんにМRОNJが生じるわけではなく、過度に恐れる必要はありません。
しかし骨粗しょう症の安全な治療のために、BP製剤の使用開始前に歯科でチェックを受け、必要な歯科治療をすませることが推奨されています。