「ユウサクさんっていつも土曜日路上ライブやってるんですよね‥?
来週もやりますか?」
「いや、やらんよ」
俺は飄々とした軽い口調で答えた。
「じゃあ再来週は‥?」
「いや。」
「でもここのチラシには、『毎週土曜日定期的に』って書いてありますよ」
チクリと針で突かれたような
痛みが胸に刺さった。
「実はさ、君が最後のお客さんなんだ。
俺、今日で路上で歌うの辞めようと決めててさ」
「え?なんで?どうして?」
急に危機迫る感じで問い質す水華。
視線を落としつつ
譜面台を畳みながら、
ケースにしまう。
「まあ、よくあるスランプってヤツかな。
なんかそれが半年近く続いてて
満足に歌えなくなってきたから
9時になって誰も来なかったら辞めるって決めてたんだ」
「あたしが
来たじゃないですか!」
「うん。9時5分くらいにね。
元々、9時回ったらケジメを付けるって決めてたんだ。
そういうトコ頑固なんだ、ごめん」
俺の決意は固かった。
もう揺るぎようがなかったんだ。
「そうですか‥ざんねん。」
「もう9時だし
『笑っていいだろ』始まっちゃってるから帰ろう。」
「あ、アレ面白いですよね~。
じゃあまた気が向いたら歌ってくださいね~」
「おう」
気のない適当な返事を返して
俺は家路にたどり着いた。
テレビを付けると
司会のダモさんが
ちょうど
現れたところだった。
それから30分くらいボーっと見ながら
その後、テレビを付けたまま寝てしまった。
なんとなく
妙な違和感を胸に残しながら。
(続く)