妄想blです。
お嫌いな方はスルーで。
いつもの時間に目覚めて、ウッドデッキにいるたろうに声を掛ける。
「たろう、おはよう。散歩行こうか。」
俺の言葉にワン!って一吠えするたろうは、待ってましたとばかりにその尻尾を振って嬉しそうにアピールする。
その頭をくしゃくしゃって撫でて。
「ちょっと待ってて。準備するから。」
そう、たろうに声を掛け
リビングのもう一つの窓から、中庭のプールに目をやった。
そこには、ぷかぷかと浮かぶニノがいた。
大野さんが出してきてくれた浮き輪に乗って、ゆらゆらと揺れているニノは、まだ眠ってるみたいで。
その瞳は閉じられたまま。
ガラス越しにそんなニノを見て、その様子が可愛くて。
思わず頬が緩む。
「松潤、おはよう。」
振り返ると、いつもと同じように寝癖のついたその髪をガシガシと掻きながら
起きてきた大野さんと目が合った。
「大野さん、おはよう。」
ふぁ~・・・って大きな欠伸をする大野さんも、俺と同じくガラス越しにニノを見て
その顔を緩める。
きっと、俺もそんな顔してるんだろうなって思うと、何だかちょっと恥ずかしくなる。
それくらい、大野さんがニノを見る顔は甘かった。
「たまには大野さんがたろうの散歩行く?」
大野さんとニノを2人きりにしたくない。
子供じみた独占欲が、そんな言葉になって出た。
「おぅ、たまにはいいかもな。」
答えて、反対側のウッドデッキで待つたろうの元に行く大野さんは、俺の肩をポンってひとつ叩いて。
いつものふにゃって笑顔を見せた。
その笑顔が、何かすごく余裕に見えて。
俺の子供じみた独占欲すらも全部お見通しみたいな気がして、恥ずかしくなる。
大野さん、何か、ごめん。
朝ごはんは大野さんの好きなオムレツにするから。
散歩に出た大野さんを見送って、そっと中庭に続く掃き出しの大きな窓を開けた。
なるべく音を立てないように。
ニノを起こさないように。
その可愛い寝顔を見ていたくて、そっと、そっとプールに浮かぶニノに近づいた。
ぷかぷかと浮き輪に乗って揺れるニノ。
ほんの少し開いたその口元が、安心しきってるみたいで。
・・・うん、やっぱ可愛い。
しゃがんで、膝を抱えて、その寝顔を見ていたけど。
あの茶色の瞳が見たくなって。
プールに手を入れて、掬った水をえいっってニノ目掛けてかけた。
「・・・んっ・・・。」
水が掛かると眉を寄せて。
浮き輪に乗ったニノは、器用に寝返りを打って背を向ける。
今度はその背中に向かって二度、三度と水を掛ければ、やっと起きたのかこちらを睨むみたいな視線を送ってきた。
「おはよ、ニノ。」
少しだけ尖らせた唇が、寝起きの悪さを表してるのか、返事はしてくれなくて。
「怒った?ごめんね。」
その言葉でちょっとは機嫌が治ったのか、こくんと頷いた。
散歩から帰ってきた大野さんと、プールサイドのテーブルに朝食を運び、隣り合わせに座った。
プールにいるニノがよく見える位置だ。
「ねぇ、大野さん。ニノってしゃべれないのかな?」
オムレツを箸で一口大に切り分ける。
「ん、俺も思った。自分の名前もよく聞き取れないくらいだったもんな。」
バジル大盛りのサラダを頬張りながら答える大野さん。
何となく気付いていたその事実が、大野さんの答えで確証に変わった。
「さて、どうしたらいいんだろうね。」
警察に連絡するのも違う気がする。
人魚が迷子になってます、なんて言ったところで信じてもらえないだろうし。
「イルカとかなら、水族館で保護してもらうんだろうけどなぁ。まぁ、しばらくは家のプールで保護って事でいいんじゃねぇの?」
うんって頷いて、それが妥当だと思って。
だけど、何だかちょっとこの生活にワクワクする自分がいた。