今日はタイトルに記してある「鍛錬」がテーマです。
これは「鍛錬形(たんれんがた)」と言われることについての話ではなく、空手道で言われる拳足自体を鍛えることとしてお話ししていきます。
武術としての空手道の場合、相手を効果的に倒すための方法として、正確に武技をコントロールして急所に当てる、ということが必要ですが、肝心の当てる武器の質についても意識する必要があります。
換言すれば、実際に相手に触れる部位の強度が脆弱であれば、相手を攻撃したつもりが逆に自身の身体を痛める可能性が出てくるわけで、そういうリスクを回避するためには接触部位を強くする鍛錬が必要というわけです。
ただ、それを本格的にということであれば、稽古する場所の条件が関係しますので、自前の道場であればともかく、公共の場所などを借りて稽古するような場合には限界があります。
だからこそ工夫が必要になりますが、そういうことについて原則論と現実的な視点による「鍛錬」をテーマにしたことをお話ししたいと思います。
直真塾としての活動も、実は自前の場所ではありませんので、過日の道場のイメージはありません。私たち以外のグループも使用されている場所なので、空手のための鍛錬器具を置いたりすることはできないのです。
ということはやはり工夫した「鍛錬」ということを意識する必要があり、いつでもどこでもできる方法をベースに、家でもやってもらえるようなことを提示する必要があります。
ただ、やれることが限られており、しかも稽古は道場だけでという意識の人には無理でしょう。それは十分理解しているわけですが、このブログを読んでいる道場生で少しでもその意を理解し、自身のレベルアップに活用してもらえればと考えています。
という前提で話を進めていきますが、空手道で「鍛錬」と言えば、「正拳(せいけん)」の場合が代表的でしょう。
左に「正拳」を正面から見たイラストをアップしましたが、拳頭の部位に網点で囲われたところがあります。人差し指と中指の付け根になりますが、「正拳突き(せいけんづき)」として用いる時の接触部位になります。
ですから、「正拳」の「鍛錬」という場合にはこの部位が対象となるわけですが、ここで言う鍛えるというのは、実際に当てた時にその衝撃に耐えうる強度を確保することです。
そのためには少しずつ強度を意識した刺激を加えていき、この部位が徐々にそういった衝撃に耐えられるようにしていきます。
この時に意識しなければならないのは、焦って行なうことではなく、時間をかけて少しずつ、ということです。根性論で数だけ多く行なうのは得策ではなく、回数や1回あたりの「突き」の強さについては徐々に上げていけば良いわけです。
また、「鍛錬」と言っても人の身体ですから刺激を加えればその部位の疲弊は免れません。それは身体を痛めつけているということになりますので、だからこそ少しずつという意識が必要なのであり、「鍛錬」後のケアも大切になります。
この積み重ねが強い「正拳」作りのベースになりますので、時間をかけて、という意識が不可欠なのです。
そして、積み重ねの場合にも段階があり、いきなりある程度の衝撃を与えるということは避けた方が賢明です。
左に「正拳」の鍛錬として有名な巻き藁を活用しての「鍛錬」の様子を表わしたイラストをアップしましたが、庭があればそこに板を立て、上の方に藁を巻き付け(現代であれば他の素材もあります)、そこを突いて鍛えます。
こういう「鍛錬」の場合、骨だけでなく表皮にも影響を与えますが、それがいわゆる拳ダコになります。パッと見にもいかにも拳を鍛えています、といった感じになりますが、初代の話ではそういうことを如何に見せないようにすることが大切、ということでした。
この意識は刀を鞘の中に収めておくことの大切さにも通じる考え方にも通じると考えられ、過日の沖縄では大家と言われる先生方の意識でもあったと聞いています。
だからこそ、「鍛錬」の後の拳のケアが大切で、そういう意識は中国拳法でも大切にされています。そのため、伝書の中にはケアのための方法についても記されているものもあり、ある意味、こういうところも「活殺自在」の意識に通じると考えます。
さて、巻き藁については昔であれば土中に板を埋め込んで立てることになりますが、それができない環境であれば今は室内置きの巻き藁が商品化されています。
ですから、環境的に屋内に限られる場合はそのようなグッズを使用することができますが、前述のように公共の場を借りて稽古する道場では、それすらもできません。
ならばどうするかですが、別の方法で代用するしかありません。
分かりやすく言えば、「正拳」を用いた腕立て伏せですが、上肢のトレーニングと拳の「鍛錬」にもなります。
この場合、床は固いほうが良く、その場合、皮膚よりもその下の骨の「鍛錬」に効果的に作用します。
ところで先ほど、この「正拳」の「鍛錬」の場合も段階を経て、という話をしました。
そして、巻き藁による「鍛錬」の話もしたわけですが、仮に設備的に「巻き藁突き(まきわらづき)」が可能であっても、最初の段階ではある程度「拳立て」を行なうほうが良いでしょう。それが効果的な「鍛錬」のステップであり、徐々に拳を鍛えることになります。もちろん、「巻き藁突き」ができるようになっても並行して行なうことには何の問題もなく、というより併用したほうが良いと思います。
この「拳立て」の場合、いつでも行なえる「鍛錬」法ではありますが、そこにはやはり効果的なやり方というのがあり、具体的には接地する「正拳」の状態であり、上肢の動かし方です。
まず前者からお話ししますと、手の甲をどの方向にするかということです。
「突き」が極まった状態というのは手の甲は上方を向くことになりますので、「拳立て」の場合もそのように、という人が多いのですが、実はこの方法はお勧めできません。
武技として「突き」を意識するならば、基本でよく言われる脇の締めを意識する必要がありますが、手の甲の向きを前述のようにすれば、どうしても脇・肘が開いてしまい、そういう身体操作を覚えれば本来発揮できる自身のパワーが減じることになります。
以前、「突き」のところでお話ししたことがありますが、効果的に突こうとすれば、相手の身体に触れてから「正拳」を回旋させるようにすることが大切です。ですから、この「拳立て」の場合、「突き」が伸び切る途中までの動作と考え、あえて手の甲を外側に向けて行なうようにするわけです。
そして、このことは前述したように脇・肘を開かないといった上肢の身体操作を身に付けるのに効果的となり、そういう身体の使い方を「鍛錬」と合わせて身に付けるわけです。
このことが後者の話の内容になりますが、そこでは上肢を自身の体側に擦り付けるような感じで動かすことになり、基本の「突き」のためにもなるわけです。
設備的なこと以外で「鍛錬」できることがあり、その一例が上の写真で示したキックミットを使用した方法です。
写真では「回し蹴り(まわしげり)」の稽古をしている様子ですが、もちろん「突き」でもできますし、「打ち」も同様です。
巻き藁もそうですが、こういう感じで実際に当てるということは、その時の反作用を身体で実感することになり、その状態に耐えうる武術体を練ることにもなります。
空稽古のみであれば、フォームは身に付いても実際に当てた時に自身のバランスを崩してしまうという可能性もあり、そうならないようにするには当てた瞬間、身体をどう意識すれば良いのかを実際に体験しておく必要性があります。
だからこそ、こういった稽古も必要であり、「鍛錬」ということが含む内容というのは、接触部位を武器として鍛えるだけでなく、全身の使い多も含めて行なうことが必要になります。
こういう用具については毎回持ち込むことができますので、借り物の道場でも使用可能であり、稽古の一環として行なうことが大切です。
武術としての空手道の場合、踊りではありませんので、実際に相手を倒せるだけのクオリティを有していることが必要であり、そのベースになるのが「鍛錬」という課程であり、決して疎かにできることではないのです。
それぞれの武技によって「鍛錬」法については工夫できますが、ブログの場合、1回ですべてを書くことはできませんので、機会があればいずれお話しするということでご了承ください。
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