開手による突き。拳形の違いによる武技の質の違いを身体で感じる | 中山隆嗣の「活殺自在」

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 昨日の続きです。


 この日の前半の稽古は、いつもとは異なる拳形による「突き」になりました。


 通常の場合、「突き」に使用するのは「正拳(せいけん)」になりますが、今回は武術としての空手道の場合、TPOに合わせたいろいろな拳がある、ということを理解し、実際にそういった拳形で突いた場合の身体操作、あるいは身体感覚について身体で知ってもらおうということで行ないました。


 この場合、大きく分けて2パターンあり、そのうちの一つが昨日お話しした「閉手(へいしゅ)」の場合です。


 そして今日お話しするのがもう一つのパターンで、具体的にはタイトルにも記してある「開手(かいしゅ)」による技になります。


 武術としての空手道の場合、武器として使用する拳形は多彩で、それぞれの目的に応じて使い分けることになります。


 競技として使用される技の場合、ルールの関係もあり、どうしても制約されますが、武術として稽古する場合には、その使用状況も念頭に、いろいろな使い分けが要求されます。


 例えば、昨日ご紹介した「人差一本拳(ひとさしいっぽんけん)」の場合、実際に「突き」として活用するだけでなく、相手の身体に触れた間合いからの用法もあり、その様子は稽古でも紹介しました。


 初めてその様子を見た道場生もいましたが、試合のイメージが強い道場生には新鮮だったようです。


 具体的な内容についてはここでは割愛しますが、武技という視点での特殊なパターンを見てもらったことになります。


 一般に、打突系の技というのは、瞬間的な衝撃の大きさをそのまま武技としての威力と考えることになりますが、特殊なパワーの伝え方というのも存在します。


 それは「正拳」の場合にもありますが(一例を挙げれば雑誌「月刊秘伝」で披露した「裏当て」などがあります)、拳形を変えることでさらにその範囲は広がります


 ただ、それを最初の段階から行なうことはできません。何事もそうですが、ステップが存在します。そのプロセスを経て少しずつ高みに上っていかなくてはなりませんが、これまで意識していなかった拳形もありますので、そこはやはり基本から積み上げることが必要になります。この日、そういった意識でゼロからスタートし、昨日はその中から「閉手」による技を稽古したわけです。


平拳  その後、前述した「開手」による拳形で「突き」を稽古したわけですが、そのうちの一つが左のイラストに示した「平拳(ひらけん)」です。


 4指を屈曲している分、完全な「開手」とは言えないかもしれませんが、逆に全指を握り込んでいるわけではないところで「閉手」ではないとしました。


 この拳形の場合、親指を除く4指の第一関節、第二関節はしっかり曲げることになりますが、中手骨と基節骨の関節部は曲げません。というより、それぞれの骨の中心軸をまっすぐに保っておくことが必要で、この点の意識が脆弱であれば、この拳形は当てた瞬間に崩れてしまい、武技で使用する武器としての存在ではなくなります


 イラストの網点の部分が接触点になりますが、そこで感じた衝撃は手の指から手の甲の骨、前腕・上腕を通じて身体全体で受け止めるようにしますが、その最初の段階で伝えるべきパワーが拳形の質の問題からなしえなかった場合、武技としての意味を失います。


 だからこそ、こういった特殊拳形の場合、よりしっかりと作っていくことが要求されます。


 そういう理由から、まずこの拳形作りのポイントから説明したわけですが、各指の屈曲の質について意識してもらいました指先の腹が基節骨の内側にしっかり接触するようにしますが、この意識で指を屈曲できれば、それがそのまま掌握術として機能します。


 武術的な握力法であり、この握り方で掴まれた場合、相手の感覚としては指先が食い込んでくるような感じになります。その場合、掴まれた腕を振り払うことは難しく、食い込んでくる指先自体が武技しての作用になります。


 その実例をやってみましたが、手首を掴むだけで相手が崩れ落ちることになります。一見、合気道の技のように見えますが、掴み方と共にその部位を武技として意識して行なうことでそういうことが可能になります。


 ただ、これを行為としてだけで行なっていてはそのような結果は得られず、前提として「平拳」の要件を満たすような指の操作ができるていることが必要です。


 そしてまた、このような指の身体操作は、例えば逮捕術の際の縄の用法の質にも大きく影響し、もしここに不備があれば、自身の指に大きなダメージを被る可能性もあります。こういうところから武技を行為としてだけで見ないようにという注意につながるのですが、なかなかその真意が伝わりにくいところがあります。だからこそ、ここは時間をかけてじっくりやっていかなければならないことになりますが、この点は教える側の役目として認識しています。


 今、4指のことばかりをお話ししましたが、親指に関しては「手刀(しゅとう)」の場合のように、しっかりと屈曲させつつ貼り出すようにします。そういった5指すべての意識がうまく合わさった時、武器としての「平拳」になるわけです。


 その上で「その場突き(そのばづき)」として稽古するわけですが、その様子自体は「正拳」による「直突き(ちょくづき)」の場合と同じです。土台としては「内八字立ち(うちはちじだち)」であり、その時のポイントは昨日お話しした内容と重なりますので、今日は割愛します。


 なお、「平拳突き(ひらけんづき)」の場合、接触点は中指の第二関節部になるため、「正拳突き(せいけんづき)」の場合とは若干手首の角度が変わることを念頭に置いて行なうことが必要です。


掌底  続いての拳形は、左のイラストに示した「掌底(しょうてい)」です。


 親指の状態については、きちんと屈曲させることが必要ですので「平拳」や「手刀」などと同じですが、他の4指に関して屈曲させることがない分、明確に「開手」の拳形と言えます。


 接触部位は原則として網点の部分になりますが、用法次第ではもう少し小指側になることもあります。


 しかし、名称通り、掌の底(手首付近)を意識してもらうことには変わりありません。


 こういった「開手」の技の場合、時々掌中央部付近に大きな負荷がかかることがありますが、そういう状態では手首にダメージが発生することになります。


 この点しっかり留意し、武技として使用する時には接触部位を正しく当てるという身体操作を意識することが肝要です。


 「掌底」の場合、「突き」としてだけでなく「受け」として使用することもあり、むしろ現実には後者の方が多くなるかもしれません。


 それは組手稽古の際によく活用されている事実が物語っており、その前段階で稽古する約束組手のシーンでも見かけます。


 そこでも接触部位の間違いが見られることがあり、手首を痛める人が出てきます。武技として用いるつもりで行なったことが、自らを傷つける場合があるというわけですが、その差は接触部位の違いということであり、両者の位置についてはほんのわずかですが、そこにはしっかりした身体操作の意識が必要になります。


 空稽古の時にはあまり意識しにくいかもしれませんが、今やっていることは「突き」なのか「受け」なのか、そしてその時、自身のどこが相手に触れているのか、といったことをきちんと頭に思い描いておくことが必要になります。


掌底突き  さて、この日は「受け」としてではなく、「突き」として稽古しました。


 その際、「その場突き」として行ないますが、左のイラストにその様子が示されています。


 パッと見には通常の「その場突き」に見えますが、よくみると拳形が「掌底」であることがお分かりになると思います。


 この時、掌側が相手側に向いていなければなりませんが、一つ前のイラストで示した網点の箇所が均等に当たるわけではありません。


 やや小指側が実際に触れる部位になりますが、これは両肩からの上肢の角度が関係します。ここを無理して掌の下部全体を均等に当てようとすることが、むしろ変な身体操作を誘発してしまいますので、現実に即した理解と実践が必要なところになります。


 また、ここで注意したことの一つが、やはり角度の問題で、それは手首のところです。


 掌の底部を当てるということは、指先の向きが上を向いていることが大切で、この点が曖昧であればしっかり「掌底」として正面に張り出すことができず、武器として用いる場合のクオリティ低下につながります


 そういう視点で稽古の様子を見ていると、手首から先の意識ができていない、という道場生がいました。移籍組ですが、これまでやっていないはずですから当然です。


 だからこそ、ゼロからスタートするつもりで段階を踏んで稽古してもらうわけですが、上級者にとっては復習になります。同時に、自身がメインで指導する立場になった時、基礎から積み上げるという課程を改めて理解することで、よりきちんとした指導内容を構築できると考えています。


 今、新しい移籍組を迎えることで、これまで稽古していないであろうと思われる技について、どのようにアプローチすれば良いのかを示す良い機会であると考えています。


 直真塾は武術としてのクオリティを意識しますが、そこには基本からの体系的な積み上げが必要ということを理解しているつもりなので、ある意味、この日のように幅広いレベルの道場生がいて、ステップを踏んだ稽古内容を振り返ることができる機会を設けられたのは、今後のためにも良かったと思っています。


 そういう意識でこの「掌底突き(しょうていづき)」の数稽古まで行ないましたが、そこには独特の上肢の身体操作があり、通常の「突き」に存在するクオリティアップのポイントの一つ、上肢の回旋に代わる手首のスナップの使い方について理解してもらいました。


 ただ、この身体操作については、初めて稽古した人には難しいので、上級者のみが対象になりました。全員にお話ししたわけではないのでその詳細は割愛しますが、武技としてのクオリティを意識するなら、こういった「手の内」的な、あるいはこのブログで言う「見えない技」の存在が不可欠であり、こういうところの認識と実践が、レベルの差の具体例であることを理解してもらいました。


 稽古はここから次のメニューに入りましたが、そのお話は後日とさせていただきます。









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