昨日の話の続きとして火曜日の稽古の様子を書こうかとも思ったのですが、先週の土曜日の話が残っていたのでそちらを先に書くことにしました。
この日は最初に組手に使える連続技を「基本動作(きほんどうさ)」や「基本型(きほんかた)」、あるいは「形(かた)」からピックアップし、組手の拍子で稽古してもらいました。そういう具合に稽古の内容を変化させることで、実際に使える技へとステップアップさせていくわけですが、こういうことは今後も継続していくことになります。
ただ、「形」やそれに類する稽古は、武技の伝承の他に武術体作り、という目的があることを何度もお話してきました。後者は鍛錬として行なう場合もありますし、これは「体」と「用」の関係とも理解できます。
そういうことを前提にこの日の最後は「形」とその分解・解説の稽古を行ないました。その前にキックミットへの打ち込みも行ないましたが、その話はこれまでお話ししたこととあまり大差ないので割愛します。
ここで具体的に稽古した「形」の話になりますが、タイトルに示してあるのでお分かりになると思いますが、「二十四歩(にーせーし)」です。
その中でも呼吸法に関連し、鍛練としても行なわれる部分が上に示した「扇受け(おおぎうけ)」の箇所で、同系統の「形」に「三戦(さんちん)」があります。
鍛錬形としても知られていますが、千唐流で行なわれる「三戦」の場合、最低5分という長さになるため、その前段階としてこの「二十四歩」を稽古し、ある程度の武術体作りを行なった後で稽古します。
そういう流れになっている関係もあり、ここではきちんとした呼吸法を意識して「形」を稽古し、武術体作りにも腐心しなければなりません。
その武術体作りに欠かせないことの一つが中心軸の意識であり、この日は呼吸法と合わせ、そのためのポイントについて説明し、稽古してもらいました。
その時に理解しておかなければならないことが身体の仕組みであり、今回は呼吸法ですから、呼吸の仕組みから説明しました。
呼吸には胸式と腹式がありますが、武術で意識するのは後者です。その場合、意識すべきは「横隔膜」の動きであり、連動する「骨盤底筋」です。その様子を示してあるのが上のイラストというわけですが、息を吸う時「横隔膜」も「骨盤底筋」も下がります。息を吐く時にはその逆になるわけですが、ここからもお分かりのように、呼吸は肺の部分だけが関与しているのではなく、骨盤も含めた腹部全体の動きが無ければならないのです。
骨盤が関係するとなると、その動きに関与する別の筋肉の存在の意識が必要になります。
身体の動きの要になる腰に関わる深層筋である「腸腰筋」ですが、これはイラストでもお分かりのように、「大腰筋」と「腸骨筋」を総称した表現です。ご覧のように筋肉の付着点が異なり、その働きも異なりますが、腰の動きを考える時には必ず意識しなければならない筋肉です。
もちろん、腰に関連する筋肉群は他にもありますが、特に大切なところとして2つ挙げました。
こういう意識を正しくすることにより、腰の要になる骨盤の状態も整いますが、ご覧のように「大腰筋」は脊椎に付着しており、正しい脊椎の状態は中心軸とも関係します。
また体幹部の場合、胸郭を構成する肋骨と胸椎の関係にも着目することが必要になり、ここに呼吸時の胸部の様子が関与してきます。
冒頭で挙げた「扇受け」の際の意識がここで必要になるわけですが、ここでは「受け」の本体である上肢の意識について説明しました。
その際、あえて経絡・経穴の概念を用いましたが、それはそこを流れる「気」が意念と関係が深く、具体的に身体をどのように動かそうとするかという思いがそのベースになっている、という東洋医学の大前提があるからです。
東洋医学で呼吸に関係する臓腑は肺であり、これは現代医学でも同様です。
ただ、東洋医学の場合、臓腑の様子は経絡に現われると考え、その走行部位の状態にも関与します。
そういうことを念頭に肺に関係する「肺経」の走行部位を見てみれば、上肢においては内側の親指側を走行しています。
左のイラストはその中でも上腕部の様子を表わしてありますが、赤丸で囲ってある経穴がご覧になれると思います。
名前は「俠白(きょうはく)」ですが、「俠」には挟むという意味があり、「白」東洋医学では肺を意味する色です。これは五行説に基づいたものですが、その2つを合わせ、肺を挟むようにして存在するところから名づけられています。
イラストからもお分かりのように、「上腕二頭筋」の親指側の縁のほぼ真ん中に位置しますが、今回の稽古ではこの経穴の位置をしっかり意識し、経穴の名称通りのイメージで「扇受け」をやってもらいました。
個別に経穴の位置を手で触れて教え、この部分に意識を集中して上肢をコントロールし、脇を締めるようにするようにとアドバイスしていると、ある道場生が突然、「分かった」という声を上げました。
直真塾に長く在籍しており、自主稽古も怠らないという人ですが、鍛錬の意味を込め、「二十四歩」はいつもやっているようです。
その際、「扇受け」の時の脇の締めの意識が今一つだったそうですが、この日のアドバイスで解消し、しっかりした締めの実感が得られ、それが思わず声に出たそうです。
全員にアドバイスを終えた後、その前後のイメージでそれぞれを比較してみると、きちんとした意識で「受け」の動作をしたほうがしっかりと反作用に耐えているという様子で、それは程度の差こそあれ、全員が実感していました。
そのアドバイスの中で、上肢の締めと共に中心軸を正し、胸を張ることで正しい姿勢を作るようにしてもらいました。
前述の「受け」の質の向上も、上肢のコントロールと合わせ、反作用を身体で受け止めるための中心軸の意識が好転したためのことであり、呼吸法の稽古と共に中心軸のイメージまで理解してもらうことになりました。
稽古はこの後、「二十四歩」の分解・解説になりましたが、長くなりますので今日はここまでにさせていただきます。
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