武術としての意識で稽古する場合、いろいろな設定が必要ですが、戦いの場というのは試合場のようにそれなりのスペースが中で、ということは期待できません。複数での攻防のため、隣を気にしながらということもあるでしょうし、狭い場所で動きが限定される、というケースもあるでしょう。
先週の火曜日の稽古ですが、2組に分けた中の1組は、前述のケースの内、後者の場合で行ないました。
狭い空間で、ということですが、例を挙げれば室内で、ということがあるでしょう。
こういう時、相手からの攻撃を防ぐ際に後退を主にしていた人は大変不利で、すぐにサンドバッグ状態になることが懸念されます。
ではどうするか、ということですが、そこには確かな「受け」と共に、体捌き・転身が不可欠で、この日はそこにテーマを絞って稽古してもらいました。
その際、各自の身体の使い方の癖があるでしょうし、これまで稽古してきたことの成果を発揮してもらう、という意図を込め、あえてこちらからこの技を、という指示はしませんでした。
ただ、そうなると何をやって良いのか分からなくなるでしょうから、上のイラストにある「交叉立ち(こうさだち)」を活用して、という条件だけ付けました。
千唐流の「型」や「形(かた)」にはこの「交叉立ち」がよく登場しますが、それだけで終わっていては意味がありません。実際に使用する場合は、という意識で行なうことが大切であり、その視点から見えてくるものもあります。この日はそういうところも意識して立ち方のみ限定しましたが、実際の技になると各人、それぞれに工夫しています。
もっとも、その全てに合格点を付けるわけにはいかず、要アドバイスという人もいます。
それは身体の使い方というよりも、その攻防の設定はそもそもありえないでしょう、というケースもありました。そういう場合はいくらその動作を行なってもプラスにはならず、むしろマイナスになるので即中止してもらい、なるべく似たような内容で稽古してもらいました。
さて、効果的と思われる内容で稽古していた組の中には、「形」の分解・解釈の動作を活用しているケースがありました。
その一例が左のイラストにある動作ですが、「二十四歩(にーせーし)」の分解・解説になります。「捻り打ち(ひねりうち)」という技ですが、相手からの「突き」を「手刀(しゅとう)」で流すようにして受け、同時に首に対して「手刀打ち(しゅとううち)」で返す、という内容になります。「受け」と「打ち」は一つの動作として行なうことになりますが、その様子は「突き」の際の「突き手」と「引き手」の関係のように、同等の意識で行なわなければなりません。
ともすれば、まず「受け」をという意識が働きがちですが、この技は2挙動ではなく1挙動で行なうものです。その前提で全身を効果的に動かさなくてはなりませんが、その際の身体の使い方は中心軸を中心にした円の動きになっており、今回のような設定では大変効果的なものになります。
直線的な攻撃の場合、そのベクトルを自身の円の動きに上手く乗せ、そのまま攻撃の方向を無理なく変えつつ、反撃はきちんと届かせる、という意識で行なうわけです。「回し蹴り(まわしげり)」のように、技自体が円を描く場合はまた別の技になりますが、今回は「交叉立ち」を前提とした場合でしたので、攻撃する側も「突き」を中心とした直線的な技に限定してもらいました。
上のイラストの技の場合、構えた状態からの動きで行なっていますが、足を移動させて「交叉立ち」になり、反撃するというパターンもあります。
その具体例が左のイラストで、「変手法二十八構(へんしゅほうにじゅうはちこう)」の中の13番目の技、「矢車(やぐるま)」です。イラストはその一部で、実際にはここからもう少し続きがありますが、通常の構えからの動きとしては前足を後斜め方向に引いてからの技、ということになります。
その動きにより完全に相手の「突き」から身体を捌き、斜め方向から「裏拳打ち(うらけんうち)」を顔面に放つ、という内容になります。
ただ、このような「運足」に慣れていないこともあり、実際にイラストのような動きをしていた人は少なかった、というのが実際です。
また、「受け」の際、奥足を動かし、横方向に対する「交叉立ち」になることで相手からの「突き」を捌き、その際に手首と肘を捕り、そのまま関節技に持っていく、という人もいました。
こういう設定の場合、打撃系の反撃技だけでなく、関節技や投げでも問題はなく、それも立ち方を意識した内容であればこの日のテーマからも問題ありません。関節の捕り方や極め方に少々難点があるケースもありましたので、そこはアドバイスの対象になりましたが、全体的にはそれそれのレベルに合わせて工夫している様子が見られました。
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