密教と現代 科目試験「密教の現代的意義」 | 「明海和尚のソマチット大楽護摩」

「明海和尚のソマチット大楽護摩」

ソマチット大楽護摩は、古代ソマチットを敷き詰めた護摩壇
で毎朝4時から2時間かけ護摩を焚きカルマ浄化、種々護摩祈願を行なっている。

密教の現代的意義について、弘法大師空海の文章を引用しながら、自らの考えを述べよ。

 

 子供の日常をみると、テレビ、新聞は見ずに、携帯電話を利用してネットによる番組視聴、YouTube等による情報収集を行っている。確かに今の世界の状況は、携帯電話があれば、あらゆる情報にアクセスでき、様々な手続き(宿泊予約、銀行手続)も可能であり、SNSのように情報発信も可能である。

 このような状況で重要になるのは、各個人の倫理観である。『日本国憲法』を見ると第三章に「国民の権利及び義務」と題し特に、第十三条 個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉、第十九条 思想・良心の自由、第二十四条 家族生活における個人の尊重と両性の平等、が謳われており、個人の倫理観の形成に寄与する内容と思われる。しかし憲法は形式であり、実質にまでは及ばない。

 個人の倫理観の学び、向上、深みは、実質(=内面・心・精神・意識・魂)が重要であり、その結果としての形式(=外部への標示)が日常生活として表出さる。

 現代社会は、合理主義、自由経済主義、科学第一主義、拝金主義が横行し憲法第三章の内容が軽視され、悲惨な事件、災害が多発している。

 現代社会(世界)の倫理観強化方法として弘法大師空海の思想(密教)は大きな意義をもつ。仏教の三学である戒・定・慧の内、特に戒は、現代社会に応用できる。憲法と戒の大きな違いとして、戒は、実質(=内面)を非常に重視して定められていることである。密教では、三昧耶戒が戒の内でも一番重要視され、空海も『秘密三昧耶佛戒儀』(注1)を撰述している。空海は、三昧耶戒に関し、以下のようなステップで説き進める。

 先ず、「夫れ無上菩提之心を発さんと欲はば、應に先ず深く心に観察すべし。」で始まり、発菩提心の重要なことを説き示し、『不増不減経』を引用し「一切衆生の性浄法身と諸仏の身と本より差別无し。」と仏=我=衆生の三平等観を説き、本有の我・衆生の自性清浄心を説く。現代人が、この平等観と自性清浄心に気がづけば、悲惨な事件は大幅に減少する。

 次に、一切の諸仏を勧請し、様々な供養を行い、行者は過去に犯した物心両面での懺悔を行い、滅罪の祈願を行う。

 次に授戒。先ず、三帰依(仏法僧)、次に発菩提心、次に胎蔵・金剛界の如来菩薩を請じ奉って「今日従り始めて、當に菩提道場に坐し至るまで、過去現在未来の一切の諸仏諸大菩薩の清浄妙戒を受学する。」と諸仏菩薩の清浄戒を受持する。

 次に戒の内容が説かれる。四摂法(布施・愛語・利行・同事)と四波羅夷(=四重禁戒)、十重禁戒である。特に四重禁戒は、これを破れば密教者としての生命がなくなるとされる重要な戒である。

 四重禁戒は、現代社会の秩序回復=個人の倫理観の向上につながる内容でもある。理解しやすいように現代語で記載する。

 第一、正しい真理の教えを捨てて邪な行為をなすべきではない。

 第二、菩提を求める心を捨て離れないこと。

 第三、全ての真理の教えを説くことを惜しむべきでないこと。

 第四、全ての人々に対して不利益となる行為をしてはいけない。

今、この四戒は初戒を持つことによって十方三世の一切の正法蔵の中に於てみな無作(因縁によらない不生不滅の真理)の功徳を生ず。第二の戒により十方一切の菩薩の行の中に於いて無作の功徳を生ず。第三の戒により十方三世の一切の度人門(有情を救護する門)に於いて無作の功徳を生ず。第四の戒により十方世界の一切衆生、及び四摂の事の中に於いて無作の功徳を生ず。

 一見すると、何を言おうとしているのか理解できないが、『即身成仏義』『声字実相義』『吽字義』『菩提心論』等を学べば戒の意味する重さがわかる。

 現代社会に対して、声を大にして訴えるべきである。 

 

(注1)『定本弘法大師全集』第五巻