帰る前にどうしても自分の目で見ておきたいものがあった。
海岸沿いに急いで自転車を走らせる。
話はたくさん聞いたけど、
実際はどんな状況なんだろう・・。
しばらく走っていると、電気が切れた信号が見え
そこを越えたとたん、パタリ と
音が一切消えた。
車が走る音、生活の音が
何一つ聞こえず
人の気配がまるでない。
ここが境目だ、とすぐに分かった。
震災があって早4ヶ月近く経つ、
けど色んなものがまだそのままになっていた。
ここら辺はもう住宅を建てる予定が無いので、
瓦礫処理や整備は後回しになっているらしい。
たまに通りすぎる車がとても怖かった。
ここには誰もいない。
包丁を持って襲いかかられたら、誰も助けに来てくれないし
倒れても発見されるまで相当な時間がかかるだろう。
人の気配が無い、ただそれだけで
とにかく怖かった。
不謹慎かもしれないけど、
『ゴーストタウン』 という言葉が頭をかすめた。
海岸沿いに到着すると、
会社や工場がたくさんあった。
こうなるには、いったいどれくらい大きな津波だったのだろう
と想像力をできる限り働かせてみる。
帰り道、ちょうど夕日が沈むところだった。
それはとってもきれいな夕日で思わず見とれた。
そして、、一瞬雨が降ってやんだおかげで
虹が大きくきれいにかかった。
さらに、小さな奇跡。
2本の虹がかかったのだ。
『瓦礫と化した町でも、
きれいな夕日は沈むし虹はかかるんだ・・。』
当たり前のことなのに、
なんだかすごい発見のように思えた。
被災地で何を見るかは人それぞれだろう。
でも私がこの2週間で見たものは、
この夕日と虹に全て表されている、と思った。
絶望の中にある、希望。
まさにそれだったのではないか。
全てを失っても、写真だけでも見つかったときの喜び、笑顔が
目の前の虹と夕日に重なる。
そして自分のことを振り返った。
帰国して早一年。
自分の夢だけはあきらめていないけれど、
でもそれ以外は逃げてばかりの1年だった。
言い訳や正当化ばかり。
逃げて、逃げて、逃げた先が宮城県だった。
そこで出会った人達。
つらい現実と向き合って
それでも何とか生きようとしている人達を見ていたら、
自分は 「このままじゃだめだ」 って漠然と思ったよ。
「これからは、もっとしっかりと生きていこう。」
被災地に来たら、気が滅入るかと心配したけど
逆に元気をもらったな・・。
「ありがとうございました。」
勢いよくペダルをこいで、
その場を後にした。