長江俊和さんの「禁止シリーズ」の最新刊のレビューになります。
今回は『出版禁止 女優 真里亜』というタイトル。
主演俳優すべてが不可解な死を遂げてきた、呪われたシナリオ。三度復活した因縁の企画に、新進女優が果敢に挑む。モチーフは、実際にあった連続殺人事件。昼間は目立たないOLが、夜は街角に立って客を取り、時に絞殺する。主役の殺人鬼の役作りに悩むうち、いつしか女優自身も、心の平穏を失っていく。惨劇は、またしても繰り返されてしまうのか?
今度の謎は、シリーズ最強にして最凶!!
本書は二人のジャーナリストが取材した、筧真里亜という無名女優に関する三本のルポルタージュをまとめた一冊になります。さっそくですが、概要と考察(の際にネタバレ含む)をどうぞ。(主に内容紹介になります)
映画「殺す理由」について
筧真里亜は知名度はないものの、美しい容姿と礼儀正しく謙虚な人柄が魅力的な若手演技派女優です。この度、映画『殺す理由』で念願の主演を務めることになったのですが、なかなか役に入り込めず、ノイローゼ気味になっています。
実はこの映画、過去にも映画化が企画されていましたが、主演の三枝飛鳥という女優が自殺してしまい、一度ボツになっているのです。詳しい死因は不明ですが、どうやら彼女も役作りに悩んでいたようで・・・。というのも、『殺す理由』は実在した事件を題材にしたノンフィクション映画で、その内容が全くもって理解不能なのです。
以下は事件の概要
首都圏連続絞殺魔事件
1991年~1996年にかけて、関東近県のホテルで起きた連続絞殺事件。六人の男性がネクタイやベルトで首を絞められ、遺体となって発見された。逮捕されたのは、都内に住む平山純子という三十三歳の女性で、最後の被害者である交際相手を殺したことから、一連の事件が明らかになった。平山純子は、都内の大手建設会社で働く真面目なOLだったが、夜は「立ちんぼ」をして客を取っては、時々「衝動的」に男を殺していたことを認めている。尚、交際相手を殺害した理由については、「突発的なものであり、強いて言うなら、男性の性行為の欲求に対し、絶望的なほどに嫌悪感を抱いていたから」と証言している。一方で、別の場面では「自分の意思ではなく、神の啓示に従った」というようなことも語っている。(本書の記事から要約)
呪われたシナリオ
さらに驚くのが、『殺す理由』のシナリオは、二十年前に矢作連という脚本家が書いたものらしいのですが、なんとその当時も映画化が決定していたものの、遺族からの反発があり、実現していなかったことが判明します。そんなことから関係者の間では、これは映画化してはいけないシナリオなのでは?強行しようとすると女優の身に何か危険が及ぶのでは?と、囁かれています。
聖女か悪女か
そんないわくつきの映画の主演を飾る筧真里亜を追っているのが、ライターの高柳みき子と江崎康一郎です。おかしなことに、この二人が追う筧真里亜は、信じられないほど正反対の顏を持つ人物だったのです。
高柳が取材した真里亜は、西洋風の顔立ちで、とても繊細で控えめな女性でした。一言で表すなら清純派。呪われたシナリオのせいで、熱を出したり、情緒不安定になった時には、霊能者の東城呉葉にお祓いをしてもらったことがありました。そのときには「男性経験がありませんね?」と当てられていたくらい、純粋で初心なオーラが出ている子でした。
一方、江崎が関係者から聞いた真里亜は、とても良い子とは言えないキャラクターでした。強い者には媚び、弱い者には傲慢な態度を取るというのが、仕事仲間からの評価。また、異性関係も派手で、仕事のためなら枕営業も率先してやっていたそうで・・・。それだけでなく、ライバル女優に嫌がらせをして、現場から追い出すトラブルも起こしていたことも発覚。不思議なのは、どちらかというと、こちらの真里亜の容姿は和風美人であるところ。それは高柳から見た真里亜とは全くの別人と言っていい人物でした。
三枝飛鳥について
この二人の取材結果によると、真里亜は三枝飛鳥が主演をすることになっていた『殺す理由』のオーディションも受けていたことがわかります。しかし彼女は落選し、脇役に留まっていたようです。江崎が関係者から仕入れた情報によると、それに嫉妬した真里亜は、三枝に嫌がらせ行為を繰り返して、彼女を追いつめ、最終的に自殺に追いやったということです。それが原因で映画はボツになったのですが、あとから別の監督が『殺す理由』を映画化するとなった際に、再びオーディションを受けた真里亜は、見事主演の座をゲットし、今に至るのだそう。ただ、彼女も役に憑りつかれて自殺未遂をし、その後失踪してしまいます。
筧真里亜と平山純子
ここからはQ&A方式でいきます。
真里亜は高柳のルポのような聖女なのか?⇒イエス
それとも江崎が関係者から聞いたような悪女なのか?⇒イエス
それはなぜ?⇒高柳が取材した真里亜と、江崎が関係者から聞いた真里亜は、別の人物だから
純子と真里亜には因果関係があるのか?⇒???
正直、なぜあのシナリオが呪われているのかはわかりません。平山純子の殺害動機もよくわかりません。ただ、純子の生地を調べていた江崎は、ある気になる伝承にたどりつきます。
悪女伝承
純子の故郷栃木県G村では、大昔に麻生きく江という女性が「神のお告げ」を理由に六人の村人を殺していた。きく江には自称霊感があるらしく、まだ医療体制が発達していなかった当時は、周囲にとって彼女の存在は祈祷師として重宝されていたのだった。きく江は殺害した村人の遺体を子供たちに処理させていたという。また、この地域では、かつて「悪女伝承」という、呪術を使って村人たちに非道の限りをつくす女の伝説があった。その女は美しい容姿だが、恐ろしく残忍な顔と、淑やかな少女の顔という二面性を持っていたそうだ。この女の虜になった人間は支配され、身を滅ぼしてしまった。村を治めていた蒲生家の主は、高僧に頼んで女を捕まえてもらい、火あぶりの刑に処した。(本書から要約)
つまり、この地域には古くから生粋の悪女が誕生してしまうという言い伝えがあるようなんですね。近所の人が語る純子は「家族思いの良い子で、勉強熱心な器量よし」で、とても人殺しをするようには思えないのだとか。また、学生時代に純子は写真館でバイトをしていたそうなのですが、そこの女主人とかなり親しくしていたことが判明します。しかし、その女はいつのまにか町から姿を消していたらしく、江崎は取材することができませんでした。
<考察>
麻生きく江、悪女伝承の女、そして平山純子。この三人の共通点はおそらく美人で二面性のある人たらしのサイコキラーだという点。自称霊能者で「神のお告げ」により、衝動的に殺人を犯してしまうところまでそっくり。ちなみに地元では、絶対に歌ってはならない「忌み唄」があり、それを歌うと悪女を蘇らせると言われています。おかしなことに、今となっては誰も知らないはずのこの唄を、なぜか純子も口ずさんでいました。意味深。
まとめ
さて、失踪した真里亜はどこへ行ったのかと言いますと、残念ながら彼女は既に殺されていました。(あとで解説)
ここからはホワっとした内容でボカしますが、真里亜には沙耶香と美津紀という姉と妹がいました。両親は幼い頃に離婚しており、姉妹を引き取った母親は彼女たちが小学生のときに事故で亡くなっています。
姉の紗耶香は病気がちで、精神的にストレスを抱えると記憶が飛ぶ癖がありました。悲惨な生い立ちを沙耶香と美津紀は(ほとんど妹が犠牲になるかたちで)支え合ってきましたが、真ん中の真里亜だけは姉の面倒も、家の経済的なことにも非協力的で、好きに生きていました。芸能界で活躍するためならどんな悪事でも働く真里亜。そんな妹を沙耶香は案じていたのですが、三枝飛鳥の件を知ると、激怒します。そして記憶が飛び、気づいたら真里亜は亡くなっていたのです。
その後は沙耶香と美津紀で真里亜の遺体を隠蔽し、真里亜にそっくりな沙耶香が「筧真里亜」になりきって、『殺す理由』のオーディションを受け、合格します。つまり、高柳が取材した真里亜は沙耶香で、江崎が追っていた、三枝飛鳥を自殺に追い込んだほうの真里亜が本物の筧真里亜だったということです。(失踪した真里亜は、本物の真里亜を殺し、彼女になりきって罪悪感に駆られた沙耶香だった)
なるほど~だから印象が違ったのですね。
ただ、ここからまだどんでん返しが。
すべての真相を知ってしまった江崎は、その後失踪します。記事を途中まで書いていなくなってしまうのです。結局、映画はおじゃんになり、半年後、出版社に勤める某人物の元に江崎から原稿の続きが送られてくるのですが・・・
その頃には既に美津紀が先手を売っており、江崎のルポルタージュは出版できなくされていました。なぜなら、その頃に再び筧真里亜は芸能界に復帰していたからです。は?これは誰なのよ。もう本物はいないし、失踪した偽物も体調を崩してひっそり暮らしているらしいので、おそらく美津紀なのだと思われます。しかもこの新・真里亜は、どんな手を使ったのか大手芸能事務所に所属して復活したため、下手に本を出そうもんなら出版社が圧力をかけられてしまう状況に。
で、この事務所のお偉いさんとやらの名字が「蒲生」さんなのですね。アレ?蒲生さんって、あの麻生きく江さんを撃退した村長と同じ名前・・・。そんでもって、筧三姉妹の父親ってこの人なのでは?!
これ以上は言えませんが、ラストでさらにひっくり返ります。ですが、ここまでの流れで考察すると、おそらく「忌み唄」を純子に伝授したのは写真屋の奥さんでしょうね。それで純子は目覚めてしまったのだと思います。もちろん筧姉妹もその才能アリ。順番でいくと、美津紀⇒沙耶香⇒真里亜の順で、ヤバイかな。とにかく、みんな古来から「悪女伝承」とつながりがあるのでしょうね。
※ここを読んだからといって、完璧な真相把握にはならないのでご注意を。本書はラスト数ページを読んで初めて考察が始まるような構成になっています。そのため、ここはあくまで全体を推理する上での内容整理かつ大まかなメモであり、忌み唄の歌詞や、キーパーソンだと思われる人物、その関係性などは伏せています。また、本書は筆者からのヒントや考察サイトを参考にしながら読まないと隠されている部分の理解が難しいかもしれません。
<疑問点の一部>
・筧姉妹の両親についての情報が乏しいのはなぜ?
母親はあっさり事故死とだけ説明され、別れた父親に関しては謎。もしかして母親は殺された?
・写真屋の女主人には霊感があったらしいが、現在は霊能者の東城呉葉に化けている可能性はあるのか?
・写真屋の女主人は年齢的に、麻生きく江の娘かも?
・沙耶香は失踪後ひっそりと休養していることになっているが、死んでいるのではないか?(これについてはそう思える記述アリ)
・マリアの名前とかの由来にも裏がありそう
・殺害される人数が6なのはなぜ?
最後のページを見れば、真里亜の周囲にいる誰が「悪女」なのかわかります。この人はめちゃくちゃ周囲の人間を殺しています。誰を殺したのかも、わかりにくくなっているのが面白ろい!皆さんもぜひ考察しながら読んでみてください。
総評です
評価4.5/5
面白かった!正直、今ドラマでやっている『恋愛禁止』より好き。あちらは原作と変えているけれど(主人公が一時間ひたすらキョドっていて何か疲れる)、こっちは実写化したら最初からネタバレになっちゃってできないのが惜しい!女優の裏側が生々しくて、やっぱりそういう世界なんだろうなぁと思った。
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