生涯独身の”おひとり様”ではなくとも、いずれ身内に先立たれ、友人も一人減り二人減り・・となっていったら、最終的には誰しもが”おひとり様”になります。今がたとえ孤独ではなくとも、一生現状を維持できるわけではございません。

 

そうとわかっていても、つい面倒くさくて「今は元気だし、まだ先のことだし」と終活を後回しににされている方は多いのではないでしょうか?実際いざ具体的な準備に入ろうとすると、考えることや判断しなければならないことだらけで頭がスパークしてしまうと思います。

 

今からレビューする『ウバステ』は、そんな終活準備を超ギリギリで終えた主人公の物語になります。正直、もろもろの手続きをしていなかったら危険だったかも・・という内容になっていてゾッとします。さっそくですが、あらすじ&感想をどうぞ。

 

評価:5/5

真梨幸子さんといえば、登場人物が多くて、その関係や展開も複雑でメモ必須なイメージがありますが、本書は心配いりません。ごく限られた人間関係の中でのお話なのでスラスラ読めます。巻末には真梨幸子流イヤミス的終活ノートショートver.付き。葬式に呼んでほしくない人や許せない人などの項目があって笑えました。※終活ノートフルバージョンをお求め方のためにQRコードも付いています

 

 

 あらすじ

 

孤独死って、案外、幸せなんじゃない?

逗子の実家に独りで暮らす駒田世津子は小説家。20年前、自身の作品『ウバステ』がTVドラマ化された縁で、元TV局プロデューサーの小野坂哲子、シナリオライターの舘川信代、女優の千田友枝、監督の妻だった谷崎寿々の5人で食事会を続けている。世津子の還暦パーティから三年たった冬、寿々が千駄木のアパートで孤独死したという知らせが入った。謎多き死に一同は憶測をめぐらす。年が明けると、寿々の元夫である梶谷も不審死を遂げた。食事会のメンバーにはそれぞれ、2人から遺書めいた年賀状が届いていた。

 

公式のあらすじがめちゃくちゃ長かったので少しカットしました。簡単にいうと、過去に仕事で携わったメンバーたちが定期的に会合を開いていたのですが、還暦を境に(関係者を含み)一人減り、二人減り・・となっていきます。そしてその全員がおひとり様で、死に際がちょっとよろしくない。ビビった主人公の世津子は大慌てで就活準備を始めますが、そんなタイミングで高血圧症や眼底出血を患い、あれよあれよと体調を崩していきます。

 

昭和のBGMにのせて

本書は昭和歌謡をBGMに「おひとり様の終活」を描いていきます。「木綿のハンカチーフ」「22才の別れ」「ガンダーラ」など懐かしの名曲にちなんだエピソードが組み込まれているのでお楽しみに。(大久保佳代子さん推薦本)

 

 

 高級老人ホームが怖い!

 

小説家の世津子は知らぬ間に友人の寿々を亡くしてしまいます。彼女は映画監督(世津子の元カレ)の夫と別れてからは一人暮らしをしており、最期は孤独死でした。その後も友人が癌になったり、自殺したり、シルバーマンションに入居したりと、それぞれの道へ旅立っていきます。

 

しかし、その中でも高額な料金を支払ってシルバーマンションに入居した友人が入居後すぐに認知症になり、老人ホーム送りにされてしまいます。そこはかつて世津子が小説の題材にした高級老人ホームだったのですが、友人は施設の「別館」に入れられ酷い扱いを受けていることが発覚します。つまり本書は自分の死に際は自分で用意していないと、とんでもないことになるぞという警告をしているのです。

 

 

 成年後見人制度

 

世津子は友人のススメもあり、成年後見人制度を利用することにします。両親は既に他界しており、現在は実家暮らしですが、十三歳年下の弟一家がその家と土地を狙っています。どうやら彼らは莫大な借金を抱えているらしく、世津子が倒れようなら即座に家と土地を売って財産を奪い取ろうとしているのです。

 

そこでしぶしぶながら友人から紹介された弁護士にお願いし、上記の制度の契約をしてもらうのですが・・・・(以下差支えない程度のネタバレあり)

 

なんと数日後、世津子は意識を失ってしまいます。そして弟によって例の老人ホーム、しかも悪名高き「別館」のほうへ送られてしまいます。キャー。でも大丈夫。ちゃんと弁護士先生が救ってくれます。あらかじめ成年後見人の契約をしていたおかげで弟の好きにはできませんでした。ただ、この「別館」がマジでおそろしいのです。人権などなし。こんなところに入れられたら自殺したほうがマシです(実際自殺の名所になっている)。ちなみに本館のほうは「ユートピア」と呼ばれており、普通に大事にされ、楽しいところになっています。

 

 

 感想

 

別館か本館かの分かれ道は「体が健康であるかどうか」と「お金を持っているかどうか」なんだなぁと思いました。両方揃っていない人の最期は悲惨すぎる!だからこそ、いざ何かあったときのために自分の希望通りになるよう終活準備はしていたほうがよさそうです。家族だからといって信用できませんので。むしろ家族は他人よりも争いやすい存在です。

 

また、世津子の老化現象が加速していく描写が生々しくてチビリそうになりました。心と体が追いついていないから無茶しがち。食生活や睡眠スタイル、散財レベルにおいてはヒヤっとするものがありました。

 

医者の不親切さもにもメンタルやられましたね。若い頃と年取ってからの対応はやっぱ違いますよね。私ですら感じますもの。質問すると怒るし。あーこれからはもっとそうなのかぁと思うと憂鬱になるなぁ。何気に弁護士が一番やさしいと思いました。

 

終活ノートの作成については、結局「してほしいことよりも、してほしくないこと」のほうが多いのかもしれないと気づきました。みなさんはどうですか?私も義兄には警戒心しかないので不安でいっぱい。あの人マジで何をしでかすかわからないから。

 

みなさんは終活準備をされていますか?いま家族がいるから大丈夫という方も油断せずにいたほうがいいですよ。この物語に出てくる寿々みたいに離婚するかもしれないし、年十年も別居していたのに離婚をしていないがために夫が自殺したときに大変なおもいをした哲子みたいになるかもしれないし。

 

あ、ネタバレしすぎていないか不安になってきました。でも、「核」となるイヤミス的部分はまだ全然匂わせてすらいないので大丈夫です。ちゃんとホラーというかミステリーというかゾッとするストーリーが用意されているので、そこは本編をご確認してください。怖かったー。とにかくみなさんと私の老後に幸あれ。

 

以上、あらすじと感想でした。

 

 

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