辻堂ゆめさんの『ダブルマザー』のあらすじと感想になります。
うだるような真夏日、ひとりの女性が駅のホームに飛び込んだ。そこに、なぜか母親を名乗る二人の女性が現れる。性格も家庭環境も全く異なる二人の共通点はただひとつ。娘のことを何も知らない。死んだのは自分の娘なのか。なぜ、死んだのか。違うなら自分の娘はどこにいるのか。二人の母親は、娘たちの軌跡を辿り始める。
評価5
シンプルに面白い。小説ならではの思い切った設定が◎
登場人物
馬淵温子 ポリアモリー。鈴という娘がいる。現在はシェアハウスで家族(娘+パートナーのタケル、ケント、ヨースケ)と暮らしている。鈴の父親は元バンドマンのタケル。その他にもマミというポリアモリーの女性と同居していて、毎晩パートナーを交換しながらエンジョイしている。
柳島由里枝 大豪邸に住むマダム。会社員の夫とは別居中。ピアノ講師をしており、娘の詩音にもピアノを習わせている。過保護で温子のような下層民を見下している。
馬淵鈴 ポリアモリーの母を理解できずに苦しんでいる。シェアハウスのみんなが「父」だと言われて育っているため、愛情が分割されているように感じている。高校卒業後は水商売をしている。
柳島詩音 幼い頃から母の夢だったピアニストを目指すため英才教育を受けている。しかし、父が会社のお金を不正受給していたことを知り、さらに「お前のためだ」と開き直られてしまったことにショックを受ける。その後これまでの努力は汚いお金で得たものだと考えるようになり、ピアノが弾けなくなってしまう。高校卒業後に進学した音大も一年経たずして休学してしまい、現在は家で半ひきこもり状態に。
物語紹介*死んだ娘はどちらの子?
ある日、温子は大切な一人娘の鈴を喪います。死因は自殺でした。しかし火葬を終え、遺品整理をしていると、亡くなった日に鈴が持っていた鞄の底から「柳島詩音」という大学生の学生証が入った財布とスマホが出てきます。鈴が落とし物を拾ったのだと思い、さっそく持ち主の自宅に連絡を入れると「近所なので取りにいきます」と返され、すぐに詩音の母を名乗る人物・由里枝がやってきます。
すると由里枝は娘が行方不明になっていると語り出し、鈴に何か知っていることがあったら訊いてほしいと頼んできます。焦った温子が鈴の死を伝えると、突然「遺影」に目をやった由里枝が「なぜ詩音の写真がここにあるの?」と激怒します。
どういうこと?
ここから端折って説明しますね。
なんと詩音と鈴は互いにそっくりに整形していたことが明らかになります。しかも服装やヘアメイクまでまったく同じに揃えていたことが判明。高校時代までは反抗期が酷かったものの、ちょうど同じ頃に落ち着いたことまでシンクロしていたのです。どうやら二人は高校時代からの大親友らしく・・。
一番の問題は二人の娘が死んだ時期と消えた時期が被っていることです。そして亡くなったほうがなぜか二人分の身分証を持ち歩いていたということ。
こうして温子と由里枝は、亡くなった娘がどちらの子なのかわからなくなってしまいます。
解説(ヒント)
ここからはネタバレしない程度のヒントを出していきます。
死んだのは詩音?鈴?
どちらにも失踪癖があり、整形済み。家庭に不満を持っていて、自殺願望アリ?大ヒントは見た目だけでなく、すべてがそっくりで、まさに一心同体ということ。
母親の結論
上記のことから、娘たちのどちらか片方が一人二役を演じていたと推理。(どちらか片方が既に亡くなっていることを隠すため、もう片方が馬淵家と柳島家それぞれの娘になりきって二重生活をしていたのではないか)しかし、やがてそんな生活にも疲れ、ついには自殺してしまったと考えている。
元クラスメイトの証言
詩音と鈴は仲良し二人組ではなく、三人組だった。もう一人は永合くるみという児童養護施設出身の転校生。三人は孤独を慰め合うよな関係だった?
永合くるみ
詩音たちとは卒業後に喧嘩別れをしているため、もう関係ないと怒っている。仲が良かった頃も親の文句をいう彼女たちに「親がいて羨ましい」と言ったことで、変な空気になっていた。高校時代は真面目だったが、現在は水商売をしてド派手な生活を送っている。
出せるヒントはここまで。結構なヒントなので本書を読む際は、ぜひこれと登場人物紹介を元に推理しながら読んでみてくださいね。
感想
ダブルマザー。温子と由里枝。二人の母親は娘の足取りをたどるため、あちこちへ奔走します。最初は育った環境も生き方も真逆な二人は互いを嫌悪していましたが、調査をすすめていくうちに「自分たちは娘のことを何も知らなかった」という同じ壁にぶち当たったことで和解していきます。
おそらく最初は読者の方もきっと双方の親の子育てに偏見を持つと思います。”詩音は教育虐待されて窮屈だったんだよ、鈴はきっと不良で詩音をたぶらかしたんだよ”と。
しかしこれらすべてを裏切ってくれるのが辻堂ゆめさんです。詳しいことは書けませんが、二人の母親は娘が自殺(なぜ親元から去ったのか)に至った経緯にたどり着きます。しかも自分ではわからなかった答えを相手が教えてくれるという流れに。
ただね、どんでん返しはここからです。最後の最後まで油断できませんよ。はじめは親にウンザリする話なんですが、実は娘のほうが癖強いんですよ。この子たちは相当な自己中で、自分のためなら何でもします。ちょっと高校の時から互いしか見えていないみたいなところがあり、歪な関係でした。いますよね、誰も近寄らせない仲良し二人組って。たまに三人になったりもするけれど、何だかその子はお客様って感じでかわいそうなオーラが出てたり。
大親友もいいですが、二人だけの世界に染まらないようにしたほうが健全かも。温子と由里枝は全く違う境遇の人間でも「娘」という繋がりで濃い関係になってしまったので、今後要注意。人間、自分に似た人に依存しがちという怖いお話でした。
あわせて読んでね!