今回ご紹介するのは、辻堂ゆめさんの「あの日の交換日記」です。
こちらは全7話収録の連作短編集になります。読み進めていくと、全話が繋がっていくサプライズあり。ラストの伏線回収にはお見事!と驚かされること間違いなし!
チェルミーポイント
交換日記のやりとりをベースにした文章なので、小学校高学年くらいの子でも無理なく読めます!
★★☆☆☆
またまた微妙な評価なのは、交換日記を読んでいて、小学生たちが書く文章のところがTHE大人が書いた小学生風の文章という感じがしてしまったからです・・。それ以外は楽しめました。
【目次】
入院患者と見舞客
教師と児童
姉と妹
母と息子
加害者と被害者
上司と部下
夫と妻
↑これらの登場人物すべてがある小学校教師の女性とリンクしていくという物語になります。
入院患者と見舞客
こちらは白血病で入院治療中の小学生愛美が担任の”先生”と交換日記をするお話です。愛美は小学校に入学してから一度も学校に通ったことがなく、いつも先生に病室内で勉強を教わっています。ある時、先生からの提案で交換日記をしようと言われるのですが・・・・。
実は日記に書いてある出来事がすべてアレだったというオチで・・・。ネタバレ禁止なんで詳しくは言えませんが、この交換日記を始める際にいくつかのお約束があって、そこには「何を書くかは自由です。その日あったことや最近思ったこと、自分で作ったお話でもかまいません」とあるんですよね。読み終えるとちょっと切ないお話です。
教師と児童
こちらは”先生”との交換日記で殺害予告をする女の子のお話。見どころは、ここで登場する”先生”とは誰のことなのか。みなんさん騙されないようにしてくださいね!
そしてこの女の子が殺したい子とは一体誰なのか。その真実が判明すると悲しくなります。
姉と妹
こちらは双子の姉妹による交換日記のお話になります。二人はひょんなことから、交換日記を通してバトルを繰り広げるようになるのですが、まあその内容がえげつなくて。容赦ない悪口のオンパレード。いや、悪口なんてものじゃなく、誹謗中傷といったほうが正しいかも。
ただ、この壮絶な日記のやりとりをそのまま鵜呑みにしてはいけません。私も最初はなんでここまで酷いことを書けるんだろう?と腹を立てていましたが、ラストを読んで納得。ちなみに交換日記のお約束には「ほかの人の悪口は書かないようにしましょう」とあり、一応二人はそれを守っています。
さらにこの双子の姉妹はある人ととても深い関係なんです。それは章を追っていくとわかるのでお楽しみに。
母と息子
こちらは発達障害を持つ息子とその母が交換日記をするお話。ちょっと息子さんの行動や交換日記に書いてあることがプチミステリーなんです。実はこの息子さん、お母さんと交換日記をすることであることを確認しようとしているのですが・・・・。
ちょっとここら辺から気になる文章がチラホラ出て来て、全体のストーリーに動きがでてきます。さて、この息子さんは何を確認したかったのでしょうか。
加害者と被害者
ここではしばらく出てこなかった”先生”が再び登場します。なんと先生は事故に遭って長期入院を余儀無くされていたのです。そして”先生”は加害者(と名乗る)男性と交換日記をしているではありませんか!
なぜこんなことをしているの?となりますが、先生にはちゃんと考えがあってそうしているんですね。個人的にはこの章がいちばんビックリしました。まさか先生があんなことになっていたなんて・・!!ひとつ前の「母と息子」で息子さんが何を知りたがっていたのかにも通ずる大切な章になっています。
上司と部下
こちらは部下とその部下が過去に衝突した女性との仲を交換日記(正確には交換日報)を通して取り持つ上司のお話?といいたいところですが、あくまでも主人公は上司ではなく部下なんですよね。しかし、のちにこの上司は全話の伏線を回収するキーマンになります。
夫と妻
最終章は、恩師の事故現場へ献花しに来た男女二人がやがて結婚し、妊娠、出産を迎えるまでのお話になります。この章に登場する女性はあの章にいたあの人で、男性はあの人で・・みたいな展開です。ここですべてが明らかになるわけですが、驚き過ぎ注意です!!
感想
「このご時世に交換日記?」
今時そんなことをしなくてもLINEひとつですぐに連絡が取れるのに。そんな台詞は作中にもありました。
しかし、なんでも「すぐに」が求められる世の中で、ゆっくりと時間をかけ、手書きで言葉を紡いでいく作業はとても大切なことのように思えます。
すぐにを求めた言葉たちは、すぐに消えてしまうかもしれませんが、長くあたためた言葉たちはずっと胸に残るからです。
私自身も指で打ち込む作業的な文章よりも、手書きの文章のほうが相手を想像しながら書いている気がします。だから自然と文章がまるくなるし、気持ちもこもりやすいですね。
きっと今の子たちは、生まれたときから便利なスマホがあって、簡単な文章交換に慣れているからこそ、あえて交換日記を題材にし、他にもコミュニケーションの手段があることを筆者は伝えたかったのかなと思いました。
書き言葉でしか出てこない気持ちって絶対あると思うんですよね。
クラスの意外な人物が実はポエマーだったり。SNSでは病み呟きばかりして引かれている子でも交換日記となれば、それがひとり言ではなく、きちんと相手に伝える相談文になったり。
きちんと相手に向けて書く言葉というのは大切ですね。
作文はダメでも手紙なら大丈夫という子が多いのを見ていても、本来人は誰かにおもいを伝えたい生き物なのかもしれません。
以上、「あの日の交換日記」のレビューでした。