妊娠間近に里帰り出産をすることにした遼子。しかし久しぶりに会った仲良し家族がどうもよそよそしい。以前住んでいたマンションから新築の庭付き一軒家に引っ越して来たばかりだというのに、なぜかすぐに自宅を売却するという。また、遼子の子供は両親にとって待望の初孫になるはずなのに、あまり歓迎されていないようだ。

 

食事中も目を合わせず、どこか張り詰めた空気が漂う違和感。けれども家族と一対一で話すときは皆、いつも通りなのがよくわからない。これは遼子の勘違いなのか?それともこの家には彼女だけが知らない秘密があるのか?

 

その真実を知ったとき、読書は間違いなく不快感と衝撃を受けることになるだろう・・

 

というのが、今からレビューする小説のあらすじです

 

評価★★★★★

続きが気になって一気読みしちゃうくらい面白い。衝撃度も期待を裏切らなくて◎。改めて仲良し家族でいられることは、奇跡だと思う一冊。

 

以下ネタバレ注意

 

原因は年の離れた妹

里帰りした遼子は家族に違和感を抱くだけでなく、地元の友人の態度や自宅を通りかかった人たちが話す陰口から「どうやら我が家で何かがあったらしい」ことを悟ります。その原因は高校一年生の妹・美和にあるのですが、誰も遼子には何があったのか教えてはくれません。

 

しかし噂というのは自然に耳に入るもので、美和の親友だった女の子が自殺したことや、彼女に妊娠と堕胎疑惑があったことなどが判明します。ただ、それで美和が両親との仲がこじれてしまうのは少し不可解です。ショックを受けるのならまだしも、なぜあれほど美和を溺愛していた父が娘を毛嫌いしているのか・・。そう、実は妊娠し、堕胎したというのは、親友ではなく美和のことだったのです。

 

どうしてこんなことに?

どうやら美和は中学三年の時に、以前同じマンションに住んでいた二十一歳の大学生との子を妊娠していたようです。さすがにこれは男の子のほうが未成年相手にアウトなことをしたと思うのですが、両親に出産を反対されて堕胎した美和は心に深い傷を負います。

 

このとき怒り狂った父親は相手の男の子に「制裁」をします。そのせいで、男の子の人生は終わってしまうのですが、さすがにそれは「やりすぎ」だと今度は父親が世間から気味悪がられてしまいます。さらにそれは美和にとって父親を二度と許せなくなる結果にもなりました。

 

今まで美和は、両親が年を取ってからの子供ということもあり、それはもう遼子以上に可愛がられてきました。しかし、妊娠が発覚したとたん、両親は豹変します。まるで愛情の裏返しのように「どうしてお姉ちゃんはいい子だったのに、お前はそんなふうになったんだ」「育て方を間違えてしまった」と暴言を浴びせたのです。突然の両親の変化に驚いた美和は、「今まで両親が優しかったのは、彼らが認めるガイドラインを守っていたからだったのだ」と、その条件つきの愛情に嫌悪感を持つようになっていきます。

 

ラスト一行の衝撃

 

中学生の娘は妊娠に動揺し、親に助けを求めた。自分の親なら味方になってくれるだろう。あんなに自分を愛してくれるのだから・・。実際に両親は娘を甘やかし、叱ったことなど一度もなかった。けれども、父は娘を愛しているからこそ孕ませた男が許せず、母は将来を案じたからこそ堕胎させた。なぜあんなに愛情を注いだのにこんな子に育ったのかと絶望もした。

 

一方で、すべてを知った遼子は、何も知らなかったとはいえ、美和の前で生まれて来る子供の話をしたのは迂闊だったと反省します。美和に対し「妊娠・出産」が姉には許され、妹には許されないという事実をつきつけてしまったのではないかと思ったのです。芽生えた命の重さに違いはないはずなのに、やった行為は同じはずなのに、なぜ姉妹で優劣をつけられるのか。なぜ片方は歓迎され、もう片方は屈辱的な目に遭うのか。

 

そんな美和の気持ちを汲み取って、遼子は親のかわりに妹の面倒をみることにします。子供が生まれた後も、一緒に東京で暮らし、それはかいがいしくケアをしていたのですが・・ラスト一行がすべてを破壊してくれるのです。

 

感想

 

結局、美和はどんな子だったのでしょう?あの事件を機に狂ったのか、本性がアレだったのか。ちょっと亡くなった親友の件に関しても、あれは美和のせいで流れたデマだったのにフォローもせず、自分可愛さだけが目立つ子だなぁという印象がありました。遼子のことも慕っているようで、金銭的には利用している面もあったし、いくら高校生だとしてもワガママな面は否めないような気がしました。

 

ただ、美和の妊娠を大人がどう扱うかは、本当にさじ加減によるものだとは思います。好きな人の子供を身籠ったという点では遼子も美和も同じ。違いは大人と子供の妊娠ということだけ。同じことをしても、この違いだけが原因で、受け止められ方は大きく変わってしまいます。

 

おそらく美和は自身が子供と恋人を喪ったのにもかかわらず、遼子だけがすべてを手に入れることに嫉妬していたのでしょう。その復讐に姪を自分に懐かせ、義兄を姉から奪ってやろうと考えているのかもしれません。両親の前で「いい子」にしてたのも、そうすれば平凡な姉へのマウントになり、気分が良かったのかもしれません。だからこそ、妊娠騒動で姉妹の評価が逆転した際に、もの凄く腹がったのではないでしょうか。それがあまりにも悔しかったので意地でもこのことは遼子に相談しなかった・・そんな気がします。

 

と、終わりたいところですが

 

実はこの小説、ちょっとおかしなところがあるのです。遼子一家はずっと大阪に住んでいるのですが、なぜか家族の前でも皆標準語を使っているのです。そして登場人物すべてが自己愛が高く、利己的なのですが、互いがそうであることに無頓着で、いざ事が起きた時に「なぜ?」とパニックになるのです。う~ん、こんな感じだから勝手に裏切られたと思うのだろうなぁ。もとから”そういう”ところがあるのですって。

 

一瞬、美和に同情しそうになりましたが、とても人間臭くて誰にも感情移入せずにフラットな視点で読める良本でした。個人的には話題の『インフルエンス』より面白かったです!

 

 

読めば読むほどいろんな社会のテーマがさりげなく散りばめられているので、再読もオススメ。早ければ一時間で読めると思うので興味のある方はご覧あれ。そして結局、美和はどんな子なのだろうと考えてみてください。

 

※について

作中で美和は亡くなった親友について「たぶん、中学のときからはじまってたの・・(ごにょごにょ濁す)」と言っている部分があるのですが、もしかすると親友は美和が何かやらかす度に、自分がしたことにされていたのではないでしょうか。他にも美和にキレている元同級生がいたので・・何かあったのかもしれません。

 

以上。