アジア人女性初のノーベル文学賞を受賞した韓国人作家のハン・ガンさん。以前読んだ『私の女の実』が気に入ったものの、この作品の変奏といわれる『菜食主義者』を読まずに気がつくと2024年が終わろうとしていました。このままじゃいかん!と思っていた時にちょうど舞い込んで来たこのおめでたいニュース。そこでようやく読む決心をして、いま読了したので、感想をちょっとだけ書いていきます。

 

 

評価

ごめんなさい。邦訳がちょっと読みづらかったので★★★☆☆くらい。

 

内容紹介

 
「新しい韓国文学シリーズ」第1作としてお届けするのは、韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家、ハン・ガンの『菜食主義者』。韓国国内では、「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる夫(「菜食主義者」)、妻の妹・ヨンヘを芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫(「蒙古斑」)、変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ(「木の花火」)―3人の目を通して語られる連作小説集。(あらすじより)

全三部作からなる連作短編小説。表題の「菜食主義者」では、ある晩、奇妙な「夢」を見てから肉を受けつけなくなり、ベジタリアンになった妻・ヨンヘを嫌悪する夫が登場します。続く「蒙古斑」では、ヨンヘの蒙古斑に性的興奮を覚えてしまい、それをアート作品にすべくあるまじき行為に走ってしまう彼女の義兄が登場します。最後の「木の花火」では、衰弱した妹と、そんな妹に欲望を抱いた夫に精神を乱されたヨンヘの姉・インヘが登場します。

 

感想(考察も含む)

ちょっと自分でまとめていても、実際に読んだ感想としても、本書に登場する男たちは気持ち悪いです。自己中心的というか、自己愛炸裂人間というか、韓国文学に登場するいつもの男たちなのです。※気取った感想を書くつもりはないのでストレートにいきますね

 

ヨンヘが肉を食べられなくなった理由について、ハッキリとは書かれていないものの、彼女の心の中にはもうずっと父親への恐怖心、男性への嫌悪感があるのは確かです。そして毎度思うのは、韓国男、モラハラ体質&DV気味な件。韓国がDV大国なのは有名ですが、現在はポリコレなどの影響もあってか男女仲がめっちゃ悪くて、ハン・ガンがノーベル賞を受賞したときもネット掲示板で「左派」だの「有害図書」だの一部の男性たちから文句を言われていました。おそらく「蒙古斑」での描写だと思うのですが、煽情的で未成年によくないそうです。なんだかすごく抑圧された社会だなぁと思いました。

 

話は戻って

 

ヨンヘの父親は野菜しか食べない娘を殴り、無理やり口に肉をぶち込んで、精神をズタズタにしたのち病院送りにするような人です。ヨンヘはきっと肉を食べると自分も父親のような獣になっちゃうと思ったのでしょう。だからデフォルト獣のような夫にも野菜を食べてほしかったのかなぁ?私が心の底から「無理」だと思ったのは、ヨンヘが見た過去の夢です。そこでは飼い犬が娘を噛んだという理由で父親が犬をバイクの後ろに括り付けて町内を死ぬまで走らせてから家族みんなで食べるシーンが描かれています。私ならこの時点でもう肉を食べることができなくなりそうです。もし食べさせられたとしてもずっと吐いていたくなるかもしれません。当然、後悔も・・。

 

しかしヨンヘにはこのようないくつかの嫌な記憶が歪な夢となって現れます。そんな夢を見るようになったのには、きっと引き金となった嫌なこと(夫との生活)があったのでしょう。なぜならこの夫、あろうことかヨンヘの姉・インヘのことを「二重瞼だし、思慮深いし、化粧品店を経営して稼ぎもいいし、いいなぁ」と思っているのですよ。そのくせ自分が大した人間ではないこともわかっているので、ヨンヘレベルと緊張感なく過ごしたほうが精神的に楽だとも計算しています。でもねぇ、多分そういうのって相手にはバレてると思うんですよ。

 

一方、インヘの夫は完璧な妻のおまけみたいな男なので、不完全なヨンヘに好意を抱くようになります。ヨンヘのお尻に残る蒙古斑に興奮したのも、きっとそういう部分に安心したからと思われます。そして精神が不安定なヨンヘを自分の性欲と作品作りのために利用します。まぁ今書いたことは全部私の推測なのですが、腹立ちますね。

 

かわいそうなインヘは、もはやヨンヘよりも辛いのではないかと心配になるレベル。幼い頃から父親に殴られないように家庭内でも優等生をやってきたばかりに、こんなことになるまで我慢してしまった人生に。それでも人間をやめないインヘが辛そうで、早々に狂ったヨンヘの方が生き生きとしているのが気の毒で・・。

 

最終的にヨンヘは菜食主義者を通り越して、動物から植物になろうとします。水以外は拒否し、裸で日に当たるようになり、逆立ち(木のポーズ)しながら日々を過ごします。そんなことをしても木にはなれないのに、です。

 

ん~。インヘもヨンヘのようになってしまえば楽かもしれないなぁと思いますが、彼女には最愛の息子がいるからそれはできません。それならせめて息子だけは健やかに育ってほしいところですが・・・どうなるやら。

 

まとめに入ります

 

日本以上の男尊女卑社会、家父長制、長男信仰、精神病患者への差別。そんな場所で育ったヨンヘにも暴力的な(自分へだったり、動物へだったり)部分が存在していて、それが彼女にとって耐えられない、消し去りたいものだったようにも見えます。

 

ヨンヘはそんな社会へ抵抗していたのだと思います。それが菜食主義であり、木になることだった。しかし一番気にすべき点は、そもそもなぜそのような社会が生まれたのか?です。この凄まじい男女の分断はどこから来たのか。唐突に「日本のせい」というレビューもありましたが、それより前に根強くあるものだと思います。少なくともこれは現在の韓国人にしか解決できない問題です。

 

本書の怖いところは、ヨンヘが生に執着していないところ。インヘも途中危うくなるし、韓国の自殺率を考えると本当にリアルで怖くなってきます。日本も危なっかしい国ではありますが、その比ではない暗さを抱えているのです。

 

なので本書を読む際はメンタル面にお気をつけください。一応、本書はハン・ガン入門書としてオススメされていますが、合う合わないがハッキリするタイプの小説だと思うので、個人的には各作品のあらすじを調べて一番読みやすそうなものにチャレンジすることをオススメします。

 

例えばこの辺とかよさそうと思われ

 

いかにもノーベル章!的な深い文章なので、何度でも読み返してみてください。ちなみに私は鶏肉と牛肉が嫌いですが、体調を崩して処方された薬の副作用で半年で15キロも太ってしまったのでガチ菜食主義者になる必要がありそうです。可能なら衰弱して入院したヨンヘに肉をわけてあげたい。このレビューを読んでくださったみなさんはどうか健康で。

 

以上、『菜食主義者』の感想でした。

 

 

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