映像化もされている動物系ルポの感想です~。

 

<あらすじ>

北里大学獣医学部の犬部(現「北里しっぽの会」に名称変更)では、行き場をなくした犬や猫を保護して、新しい飼い主を探す活動をしています。犬部発端のきっかけは、太田快作さんという獣医学部の学生さんがどういうわけか迷い犬や放置された動物との出会い運が異常に高いことにありました。自分からは一度も探したことはないのに、なぜか出会ってしまう。それも生後数日の仔犬や子猫、栄養失調と病気で弱りきった猫などの今すぐ保護を必要とする動物ばかりに。太田さんはそんな動物たちをすべて自宅アパートに連れ帰って世話をしては、回復すると新たな飼い主を探す―という活動を一人で行うようになりました。

 

次第に太田さんのアパートは保護された動物だらけになり、とても一人では手に負えなくなります。そんな状況の中でも、太田さんのもとには「この子の面倒もお願いします」と託された動物たちがたくさん集まってきます。これはもうサークル活動にしてはどうだろうか?いや、まずはサークルというより部活動にしよう。そう閃いた太田さんは、動物に興味がある人なら誰でも入れることにした部活を設立。こうして犬部は誕生したのです。

 

 

<感想>

学生たちによるゼロからの動物愛護、保護活動ということで、やはりそれなりのトラブルも多くあったようです。先輩後輩の引継ぎが上手くいかずとんでもない事態になってしまったり、誰かひとりに仕事量が集中してしまったり。中には犬や猫を飼った経験がない人もいるのですが、ビギナー部員からのフォローが薄くて不安になったりも。

 

印象的だったのは、ホワイトという迷い犬です。犬部での最終目標は、動物たちの新たな家族を見つけること。そのためには動物たちの人間への不信感をなくし、心の傷を癒してあげなければなりません。また、病気などの治療も必要になってきます。しかし、ホワイトにはフィラリア陽性と癲癇がありました。フィラリアのほうは薬で治療可能な段階でしたが、癲癇のほうはちょっとした刺激で起きてしまう状態。治療代がかかる上に持病を抱えた犬は、譲渡会でもなかなか興味を持ってもらえません。

 

予想していた通り、ホワイトを飼いたいという人は現れませんでした。その間、池田さんという自称「犬バカ」がホワイトの世話をしてくれていたのですが、ある日ついにホワイトを「一時預かりしたい」というQから連絡が来ます。しかし、ホワイトはこのあとQさんの家から脱走をします。しかも三回も。それにもかかわらず、Qさんは「ホワイトを正式な家族として迎えたい」と言ってきます。本来ならここで断るべきでしたが、池田さんは「不安はあるが、ホワイトにそこまで言ってくれる人はいないだろう」と譲渡してしまいます。

 

結局ホワイトは、このあともQさんのもとで原因不明の敗血症を起こし危篤状態に陥ります。パニックになったQさんは、池田さんに「ホワイトの様子がおかしい」と電話してきますが、なにがどうしてそのようになったのかを説明してはくれません。池田さんの献身的な介護で一命を取り留めたホワイトですが、回復後のホワイトは以前よりも頻繁に癲癇発作を起こすようになり、トイレのコントロールもできなくなっていました。

 

ただでさえ多忙な獣医学部での生活とホワイトの介護、そして他にも世話しているビーグルのナナにも血液のがんが見つかり、池田さんは泣く泣く他の部員にホワイトを託すことにします。しかし、誰もがホワイトの現状を知るいま、学業と両立させられる自信がなく名乗り出る者がいません。その後ホワイトは部員の間を転々とし、最終的にお世話してもらった学生の家でひとり癲癇発作を起こして亡くなります。

 

このことは部員の心にも大きな傷と後悔を残す結果となります。獣医学部は学年が上がるにつれ、実習や研究などで帰宅時間が遅くなり、どうしても動物たちとの時間が短くなってしまう問題がありました。もちろん、部員たちは昼休みの間に家に戻って様子を見に行ったり、できることはやってきたのですが、改善点をみつけられないままこのような結果になってしまったのです。この話は読んでいて私も胸が抉られるようなおもいでした。

 

また、他にもムックという保護犬が外部の人を咬んで大ケガをさせてしまう事件も発生します。困ったことに、部員のほとんどがムックについての詳細を把握しておらず、なぜムックがそのような癖を持っているのかを知ることすらできません。かつてムック担当だった学生は既に卒業しており、そのとき引継ぎに必要なカルテを書いていなかったことが原因だったようで・・・(ここで後輩たちはカルテの存在があったことすら知らなかった事実が発覚!)、犬部は存続の危機となり、活動休止することになります。

 

え~っ、犬部どうなっちゃうの?確かに上記二つの事件は残念だし、人間のミスもあったかもしれない。けれども、動物を飼ったことのある人ならわかるとおり、生き物の世話は本当に口でいうほど簡単なことではありません。必ずどこかに「もっとこうすればよかった」という後悔はつきもの。それは命に対しての責任もそうだし、自分への苛立ちでもあります。

 

部員のみなさんはこの失敗を「学生だからと社会から助けてもらいながらやっている中で、恥ずかしい。まわりに迷惑をかけて申し訳ない」と、無期限休部に入るのですが(その間、部員たちは何度もミーティングを重ねる)、犬部がなくなって困る人が続出します。そもそもは動物を捨てる人の問題なのに・・・。

 

犬部に寄付をしたり、物資提供してくれる大人は、こういうこと込みで応援してくれているはず。命を預かるとは大変なことだし、何が正解かもわからないことをしようとしている。けれども、その不安を押しのけてやっていく姿をサポートしたい。そう思っているのではないでしょうか。

 

犬部ではかなしいエピソードだけでなく、ほっこりするエピソードもたくさんあります。帝王切開で産んだ子を自分の子だと認識することのできない母犬のかわりに母親役をかって出てくれた犬の話は感動でしたね。この犬のおかげで資金繰りが危うくてミルクや薬代などが買えなかった危機を脱出できたのですから!動物の凄さ、人のあたたかさに感動です。

 

最後に、動物愛護は偽善という方もいらっしゃると思うので、本書を読むことを無理にはすすめません。どちらかといえば、動物に関する職業や学校を目指す方にオススメの一冊です。

 

他にも関連本のあらすじや感想を書いた記事をリンクしておくので、興味のある方はそちらもクリックしてみてください。

 

↑リアル太田さん池田さんみたいな先輩が登場する獣医学生の日常を描いた小説になります

 

↑保護犬施設の所長が里親の見極めに苦労するシーンがあります

 

↑北大で獣医を目指す学生たちが楽しめる漫画といってらコレ

 

その他にもブログ内に設置してある検索窓から「犬」で検索すると、犬ブローカーやペット業界の闇を描いた小説、獣医師の先生が書いた本などがヒットすると思うので気になるかたは試してみてください。

 

以上、『犬部!』のレビューでした!