今回ご紹介するのは、私の大大大好きな小説です。

 

獣医学生の日常を描いた名作漫画といえば、佐々木倫子さんの『動物のお医者さん』ですが、同じジャンルの小説として超オススメしたいのが、これからレビューする藤岡陽子さんの『リラの花咲くけものみち』です。

 

小学生の頃に母を亡くした聡里は、父の再婚相手から虐待を受け、不登校になってしまいます。その後、母方の祖母・チドリに引き取られた聡里は、元気を取り戻し、獣医師を目指して勉強に励みます。努力の末、北海道にある北農大学獣医学類に合格した聡里は、お世話になったチドリと離れ、寮生活を送ることに。面倒見のよい先輩や、ちょっと変わった同級生たちに支えられ、学業や動物病院でのアルバイトを通して成長していきます。最初はペット獣医を目指していた聡里でしたが、やがて大動物獣医に興味を持つようになり・・・。

 

とにかく涙腺崩壊必須の一冊。聡里が再生するまでの6年の日々を読者のみなさんも見守ってください。

 

 


 

 

 

聡里にとって動物は家族でした。前妻の痕跡をすべて消し去りたい継母は、家の家具を買い替えるだけに留まらず、聡里が大切していた飼い犬のパールまで捨てようとします。学校に行っている間にパールが捨てられることを恐れた聡里は不登校になり、「自分の部屋から犬を一歩も出すな」という継母からの命令のもと、子供部屋に監禁された状態になります。そのとき父は、娘が後妻と上手くいっていないことを知りながら、単身赴任を口実に、逃げるように東京から去っていたのです。

 

その事実を遅れて知ったチドリは、早急に聡里とパールを引き取ります。チドリの家には他にもウサギや犬や猫がおり、聡里は動物たちに囲まれて生活することで心が癒されていきます。しかし既に高齢だったパールは、聡里の無事を悟って安心したかのように、引っ越してきてからまもなく亡くなってしまいます。

 

やがてパールへのおもいと、将来的な自立を目指して、獣医になることを決心した聡里は、塾の先生やチドリに支えられて北海道にある大学に合格します。実をいうと、聡里は第一志望の国立に落ち、県外の私立大学に通うことになってしまったのですが、チドリはその学費を家を売ることでどうにかしてくれます。

 

大学生活は前途多難でした。長年不登校だった聡里にとって、友達を作るという行為はハードルが高く、寮でも大学でもひとりぼっちになってしまいます。獣医の仕事も想像とは違い過酷で、残酷な現場をたくさん目にしてしまいます。挙句の果てに、実習先でパニックになった聡里は、尊敬している先輩から「獣医になるのを辞めたほうがいい」と言われ、ショックを受けて東京へ帰ってしまいます。

 

何かある度にチドリを頼り、なかなか成長した姿を見せられない聡里。それでもチドリはいつでも聡里を温かく迎え入れ、励まし続けてくれます。そのおかげで数々の困難を乗り越え、ようやく大学でも居場所を見つけることができた聡里ですが、人生の軌道に乗ったタイミングでチドリが倒れてしまい・・・。

 

しかし、そこでも獣医学部の仲間たちが支えてくれ、何とか踏ん張った聡里は、この先はもうチドリに心配はかけられないと逞しく成長していきます。

 

 

逃げるのは悪いことじゃない。逃げなきゃ死んじまうことだってある。逃げた先で踏ん張ればいいんだ。いま辛いことから逃げたとしても、時間を経て変わることはできる。苦しんだ人のほうが、初めからなんでもできるやつより強いよ。(P192、193)

 

 

これは友人が聡里にかけてくれた言葉です。ヤマメとサクラマスは同じ魚ですが、体の大きさによって海で育つか、川で育つかに分かれます。体が小さくて弱い個体は海へ追いやられますが、川に戻ってくる頃には川育ちの個体よりも大きくなっており、一番いい産卵所を陣取ることができるといいます。友人はこれを聡里の人生に重ねて励ましてくれます。そして実際に聡里は、このアドバイスと同じような人生を送ることになっていくのです。

 

ネタバレはできませんが、最後は感動の嵐。聡里の健気な努力と、チドリの惜しみない愛情と素晴らしい人間性、そして獣医学類の素敵な仲間たちに涙、涙です。実習先の先生や、地元の牛農家さんたちも優しくて、あぁ動物好きな人たちは本当に良い人たちばかりだなとホッコリしてしまいます。

 

また、本書は感動だけでなく、この一冊に日本の獣医療の問題点や、経済動物を支える人たちの大変さなども描かれているので、ぜひ注目してほしいです。伴侶動物、産業動物、それぞれの問題もあわせて勉強になるので、多くの人にオススメです。

 

とにかく高齢のチドリが孫を守る姿に泣けます。ところどころに出てくる花言葉もいちいち泣かせてきます。

 

生きることの壮大さ、儚さをぜひ感じてください。

 

以上、『リラの花咲くけものみち』のレビューでした!

 

 

 

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