読むと元気になる面白い本をご紹介します。

 

 

 

あらすじ

結婚して三十数年。共働きかつワンオペ育児を卒業し、節約を重ねて住宅ローンも返済完了。定年退職を迎えた霧島郁子がやっと手に入れた夢のセカンドライフは、夫の田舎へ移住したことをきっかけに音を立てて崩れていく。閉鎖的な地域社会、染み付いた男尊女卑――時代遅れな現実を前に打ちのめされる郁子だったが、ある日出会った銀髪の女性議員・市川ミサオの強烈な後押しで、なぜか市議会議員に立候補することに……!? この土地で生まれ育った落合由香も巻き込み、ミサオ(80代)、郁子(60代)、由香(30代)は世代をこえて「私たち」を取り巻く問題に立ち向かう!

 

 

東京生まれ東京育ちのアラ還・霧島郁子が夫の田舎へ移住後、あれよあれよという間に地元の市議会議員選挙に立候補させられてしまうというストーリー。男女差別から地方と都会の格差までありとあらゆる日本の問題がユーモアたっぷりに描かれています。

郁子は田舎に移住後、すぐに市議会議員の市川ミサオから自分の後継者になってほしいと頼まれます。どうやらこの田舎では都会出身の郁子の存在は目立つらしく、議員にうってつけだとか。この村社会に何のしがらみもなく、誰にでもハッキリとものを言える郁子こそ改革のリーダーとして相応しいというのです。

 

 

 

閉鎖的な社会


しかし郁子の初めての選挙は「落選」というかたちで終わってしまいます。そうれもそう、この田舎では女性議員など必要とされていないからです。現職の女性議員はおっさん議員たちから「梨々花ちゃん」と呼ばれ、セクハラを受けまくっている二世だけ。ミサオが去り、その後継者の郁子が落選した今、女性議員はゼロに等しい状況になってしまいます。

それでもミサオからは「今回は名前を売っただけ。すぐに爺さん議員が死んで席が空くから次に備えよ」と言われ、再び市議選に立候補する意欲を見せます。そして実際その通りになり、今度こそは見事に当選します。

実は郁子、最初の選挙に落選後も「市民の声」に耳を傾け、寄付金で要望のあった場所にカーブミラーを設置したり、税金の無駄遣いを指摘するなど精力的な活動をしていたのです。長年通らなかった要望がよそ者の一般人の手により解決したことで、市民は一気に郁子歓迎モードに変わったのでした。

 

支援者

 

 

郁子の支援者も強烈なキャラクターが勢揃いしています。

由香は夫と共働きしながら一人娘を育てているのですが、最近舅が頻繁にご飯を食べにくるようになったことにイラついています。それは姑の瑞恵が家出してしまったことが原因なのですが、このまま自分が舅の介護までさせられると思うとゾッとすることをそのまま捜し出した姑にも伝えるなかなかの強いキャラ。しかし職場では70代の爺さんからセクハラに遭っており、自らノーをいうことができずに困っています。立派な学歴と職歴を持つ郁子に憧れており、信者第一号でもあり。

瑞恵は夫から何十年もの間、義理の両親と義理の姉の介護をさせられた結果、衝動的に家出してしまいます。行く当てがなかったところを幹夫(郁子の夫)の母に拾われ、現在そこで居候させてもらっています。しかし、この一番か弱そうな彼女が実は一番のキレ者。口数は少なく控えめですが、聡明で努力家なので政治家向き。のちに男性議員をビビらせます。

幹夫の母は現在郁子たちが住む家の隣にある母屋で暮らしてます。夫を亡くしてからはいつの間にか郁子やミサオのようなハキハキとした女性に変化中。郁子が政界に進出することを真っ先に応援した人でもあります。

他にも由香の夫やその友人夫婦も支援者となり、とても心強い味方になってくれます。

 

 

市長選へ!

 

しかし議員になった郁子はあっけなく辞職したくなります。あれだけ男性議員から好き勝手言われても何ひとつ言い返すことがなかった梨々花に呆れていたのに、いざ自分が同じ目に遭ったとたん耐えられなくなったのです。

現在議会は村井の爺さん率いる村井派が幅を利かせており、誰もが彼の顔色をうかがっている状態。どんなに郁子が正しいことを言っても、村井がノーといえば全員それに倣うしかないのです。この村井がいる限りは何を意見してもどうにもならず、おまけに郁子は引っ越して来たばかりの頃に村井とトラブった経験があるため、よけいに強く当たられてしまいます。

ただ、郁子の周囲はその環境に黙ってはいません!母を案じ東京から駆け付けた娘たちは、議会を傍聴し、男たちの失言をしっかり記録します。夫の幹夫は議員でいても拉致が明かない状況なら市長選に出ればいいとまで言います。

このとき幹夫は「女性議員の仲間をちまちま集めても改革まで何百年かかるかわからない!それならもう郁子が市長になってクオータ制(議員の男女割合を定める)を取り入れた方が話が早い」ともアドバイスしてくれます。なんと大胆な。

 

 

感想


東京にいた頃はまったく古い価値観を持たない素晴らしい夫だった幹夫。しかし、そんな幹夫も帰郷すると即座に地元組に洗脳され、応援していたはずの郁子の選挙活動を馬鹿にしたり、急に差別的な発言をしだします。それでも再び上京組の同級生から「奥さんは正しい」と、海外の政治事情についてレクチャーされたとたん発言を撤回し、誰よりも郁子に協力的になります。

男性議員たちも同じです。どの派閥も村井派にビビッていますが、正直なところ村井さえいなければもっと自由に動けるのになぁ、クオータ制にも賛成したいのだけれどなぁ(世間的に遅れてるジジイだと思われたくない)、と思っています。みんな置かれた環境で生きているというか、演じているというか、染まっちゃっている部分が大きいのだろうなと思いました。

爺さんたちも急に時代が変わり、もうその年では色々と対応できなくなっている辛さもあるのでしょうね。男とはこうあるべき!そうじゃないとみっともない!バカにされる!と時代に洗脳されてきた人たちにとって、今から生き方を変えることは難しいのだと思いました。

それにしても女たちの戦いはアツイ。選挙期間中ライバルたちが姑息な手を使って蹴落としにかかってきますが、こちらも負けていません。噂話を流すのはお任せ。若い支援者もいるのでSNSを操ってマスコミまで煽っちゃうし、パワーでは圧勝しています。さらに表には出てこないけれど「実は私も・・」という郁子の考えに共感したり、ずっとあなたのような人を待っていました系の声も多く、変化のためには女性が必要というムードさえ出来上がっていきます。

感想だけ見ると重たそうな内容に見えますが、実際はユーモアたっぷりに描かれているのでご安心を。嫌がらせの電話に対してラーメン屋のふりをして切ったり、由香が議員の顏と名前を覚えるために書いたメモがほとんど悪口だったり。どのキャラも話し方が面白いのでそこだけでも笑えます。やっぱ読んで元気になれる本はいいですよね!

男社会で生きていく女性は男性的になれないとダメだという価値観から離れ、みんなが女性としての強さで勝負していたところも良かったです。(女性だけでなく、若い男性も郁子に共感しているところが結構なポイント)

 

 

大学時代の同級生や会社の同僚もみんな燃え尽き症候群になって、そのうち男尊女卑の「ダ」の字もフェミニストの「フェ」の字も口にしなくなった。世の中を変えようとなどという高邁な思想を持っている女は、敵を作るだけの愚か者だという結論に達するしかなかったのだ。長い人生の損得勘定を考えれば、男に媚びて「女らしく」生きるか、それとも「名誉男性」になるしか道は残されていない。どちらもできない不器用な私や友人たちは出世を諦めて、給料分の仕事を淡々とこなすことで、精神を保って生きることを選んだ。屈辱感というものは経験するほど黒い物が腹の底に溜まっていく。(略)そして、その黒い物は何の役にも立たないどころか、性格を歪めて卑屈な人格を作り上げる。だから自分の心からもシャットアウトした。(P56₋57)

 

 

女性の中には女性を馬鹿にする人もまだ多いです。しかし、郁子たちが目指している政治は女社会や男社会ではなく、人間社会です。もっと一人一人が自分の頭で考えるやさしい社会に。年齢性別関係なく誰もが政治に関心を持てるような社会に。

 

あきらめません!

 

オススメです。

 

 

 

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