<あらすじ>

 

主人公の優子は40歳を目の前にして妊娠します。子どもの父親は28歳のイケメン部下・水野くん。ふたりは出張先の海外でワンナイトラブ的なことをやらかしていたのです。

 

水野くんには彼女がいます。しかも同じ旅行代理店に勤務する派遣社員の美女。

 

優子は恋人でもない、しかも年の離れた水野の子どもを妊娠しただけでもパニックなのに、それに加え略奪愛のような結果になってしまい狼狽えます。どうしよう、どうしよう、こんなこと誰にも相談できない!!

 

しかし同時に優子は考えます。もしこのチャンスを逃したら、私は一生母親にはなれないのではないか、と。20代を上司との不倫に費やしてしまった優子は、その後恋愛に縁がないまま40代を迎えようとしていたのです。田舎に帰省する度に母親や親戚一同から急かされる結婚、妊娠、出産。そして地元の友人から独身であることを馬鹿にされていた優子は、こっそりと出産し、未婚の母になることを決断します。

 

誰にも内緒で出産することができるのか?と思いますが、当然それは無理。職場の人たちはもの凄いセンサーで優子の妊娠を察知するし、優子は優子で未婚での出産への不安に耐えきれず姉に相談します。結局、「妊娠をしている」という事実は広範囲にバレてしまうのですが、そうなると訊かれるのが「誰の子なの?」「籍を入れないの?」問題です。

 

口が裂けても水野の子だとは言えない優子は、咄嗟に「高校時代の同級生の子」と言いふらすのですが・・・・

 

 

 

<読書ポイント>

 

①本書には優子の高校時代の同級生(全員独身)5人が登場します。面白いのは、その中の男性メンバー3人中2人が優子のお腹の子どもの父親になってもいいと名乗り出ることです。どうやら独身勢は40代ともなると未婚であることに肩身が狭くて仕方がないようで・・。優子的にはとりあえず籍だけ貸してほしいという身勝手な状況なので、この申し出に迷います。

 

 

②悩んでいるのは既婚者も同じ。優子の兄は別れた奥さんと息子との仲が悪く、中年の寂しいおっさんになっているし、優子の姉は嫁ぎ先の姑舅に苦労してヒステリックになっています。

 

 

③優子の実家がある田舎は超閉鎖的で、古い価値観に縛られた住人ばかり。優子の同級生の昌代は黒人と結婚しただけでハーフの子どもをからかわれ、居心地の悪い思いをしながら生活しています。

 

 

 

<感想>

 

優子は都会で働く自立した女性。しっかり者だし、部下の面倒見もよく、上司からも期待されている好感度の高い人物です。なのに40歳で妊娠したというだけで、相手は不倫?バツイチ?70代のおじいちゃん?など好き勝手に妄想され、相手が水野だとわかったとたん「男の方がかわいそう」と言われる状況にショックを受けます。

 

最も困ったのは上司の対応です。出産後も働き続けたいという優子に、「子どものいる女性のフォローは大変だから辞めてくれるとありがたい」なんて平気で言ってくるんですね。日本は欧米からの圧力や優子のようなベテラン社員の人材不足で切羽詰まらない限りは、決して働き方を変えない背景があるように、これまでの先輩女性社員たちも妊娠、育児を理由に退職を余儀なくされていました。

 

また、優子が未婚の母になるという決断は家族にも受け入れてもらえません。現在では世界でも珍しい戸籍制度ですが、未婚の母に対する差別的な社会があまりにも酷いと思いました。

 

子どもの父親になるといってくれた同級生たちも、自身が独身であることに卑下し、優子のことも「レールに外れる人生は苦労する」と心配していました。そう、この物語に登場する人物は、中年独身やハーフなど世間から不幸認定されていたり、当たり前を押し付けられて苦しんでいる人ばかりなのです。

 

読んでいてイラっとくるのが、40代女性に対しての無遠慮な言葉たち。優子の独身仲間の男性の中には「結婚するなら相手は20代の若い子。男は女と違っていつでも子どもを持てるから」なんて面と向かって言うアホもいます。さらに、自身も病気や親の介護などでまとまった休みが必要になるかもしれない上司が、そんな想像力もなく産休育休を申請する女性に対してパワハラまがいのことをしています。

 

このように本書は、日本社会のドロドロっとした部分を書いてくれていますが、ユーモアのある文章なので眉間に皺よせずに読めるところが◎。何度かツボるワードが出てくるし、最終的に誰のことも恨まず前向きになれるところがよかったです。彼らを見ていると、シビアな問題でもこのくらいカラッとして生きていた方が人として可愛らしくいられるようなぁと思ってみたり。

 

本書の大まかな内容は、未婚の母になる決心ではなく、母になるまでの揺れ動きを描いたものになっています。もう産むとは決めているのだけれど、そこに立ちはだかる障害を乗り越えようとする優子の姿がそこにあります。

 

しかし、40代で母になること、未婚の母になることは、そんなに「悪」なのかと悲しくなってしまいますね。もちろん子どもの立場になれば、高齢の親を持つ不安や親の都合丸出しの生い立ちなど色々あるだろうけれど、自分が優子の立場になったときスッパリ産まない決断をできる人の方が少ないような・・。この気持ちは自然というか、否定できないものがあると思います。ここに登場する人たちすべてにガンバレと声をかけたくなる一冊でした。

 

ちなみの私のイチオシキャラは、優子の旦那エセ候補に名乗り出てくれた住職の凡庸です。顔良し、性格良し、頭も良しの彼ですが、大昔に別れた彼女を引きずっていて、未だに独り身。しかし、常に世のため人のために生きているようなピュアで面白い人なんです。自称どこにいっても頭角を現してしまい、天才がバレてしまうとか・・(笑)個人的には彼の「~してあげる」ではなく、「必要としてくれるなら力になりたい」という損得のない感情がとてもいいなと思いましたね。

 

 

これが、子供を産む最初で最後のチャンスだ。「私の人生」噂や戸籍や世間体の左右されてる暇はない。痛快で優しい、全ての女性への応援小説。(帯のキャッチコピーより)

 

 

読むと力が漲ってくる小説はいかがですか?

 

 

以上、『40歳、未婚出産』のレビューでした!

 

 

 

 

 

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