何年か前に買ってずっと読んでいなかった本を読みました。それが今からご紹介する垣谷美雨さんの「後悔病棟」です。垣谷さんの本はとても読みやすく、しかも面白いので毎回ハイスピード読書になりがちな私。そのせいか買っても「すぐ読み終わっちゃってもったいないから」ついつい楽しみを延ばしてグズグズ後回ししちゃいます。

 

普段は読み終えるまでに時間がかかりそうな本を優先して読むスタイルをとっているので、遅くなってしまった!そんな私の言い訳は別として、本書はその読みやすさから読書が苦手な人にもオススメできる1冊です。

 

 

 

 

どんな物語?

神田川病院に勤務する内科医の早坂ルミ子は、他者の気持ちを細かに受け取ることが苦手で、患者や看護師から好かれていません。いつも空気の読めない発言やストレートな物言いをしてはやらかし、後悔するのですが、ちっとも改善することができずに悩んでいます。そんなある日、ルミ子は病院の中庭で「患者の心の声を聞くことができる」聴診器を拾います。不思議なことにその聴診器は、患者の声を教えてくれるだけでなく、患者が戻りたいと願う過去にまで連れて行き、人生のやりなおしを体験させてくれることがわかり・・。さっそくルミ子はその聴診器を使って患者たちとコミュニケーションを取ろうと考えます。

 

 

読書ポイント

ルミ子はこの魔法の(?)聴診器を使って4人の末期がん患者の相談に乗ります。叶えられなかった夢を思い後悔している患者、仕事優先で家庭を顧みなかったことを後悔している患者、自分が結婚を反対したことで娘が生涯未婚を貫いてしまったことに後悔する患者、そして中学時代に友人を裏切ったことを後悔している患者。それぞれが人生の去り際で後悔に苦しめられています。

 

そこでルミ子は4人を希望する過去まで戻し、やりなおしのチャンスを与えますが、全員が後悔する結末を迎えてしまいます。現在とやりなおした人生のどちらも同じくらいの後悔を抱えて人は死ぬ。結局、自分が抱える辛さというのは、質が違うだけで量は同じであり、後悔するのが人生なのでしょう。

 

 

感想

ルミ子は日々患者からクレームを受けるたびに「こんな頼りない医者ですみません」と思うような人でした。医師として中堅と呼ばれるようになった今でも患者を前にすると緊張し、責任の重さに押し潰されそうになってしまう自分を恥じていました。

 

確かにルミ子は超がつくほどの鈍感だとは思います。しかし、何年経っても患者の前では緊張感と責任を持って治療にあたってくれる医師というのは、それはそれで素晴らしいと思うんですよね。

 

女医というだけで勝手に男性の医師より優しくて気が利きそうと期待されたり、若いというだけでお姉さんみたいな感じに違いないと偏見を持たれ、イメージ通りでないとわかれば落胆される。女で医者になったくらいだから、そんじょそこらの男の医者よりもデキルなんて思われたり、まぁ大変。ルミ子が魔法の聴診器を助手がわりに連れて歩くようになるのも納得です。

 

ただ、この聴診器。使用したのは本当にルミ子だけなんでしょうか。私にはどうも先輩医師たちの中にも過去にお世話になった人がいそうな気がしますね。まぁそれはいいとして、他者の気持ちがわからない人も大変ですが、逆にわかりすぎる人もそれはそれで苦労だらけだろうなぁと思いません?ルミ子は最後、この聴診器を手放すのですが、やはりわかりすぎてもダメなんでしょうね。知り過ぎることが正解ともいえないのが人生なんだな、とも思えました。

 

だって過去に戻った患者たちは、やりなおしたことで見えてくる別角度からの人生に「こんな経験しなくてよかったわ」とガッカリしちゃうんですよ。やりなおしといっても、見ている角度が違うだけで、しょせん同じ人生を歩んでいるにすぎないんですよね。同じ後悔でもやったのとやらなかったのでは違う!というのは、そのほうが諦めも失敗も納得できるという想像から由来していると思いますが、では後悔は?となると、納得はできても後悔は残るんですよね。多分、直接の経験から得た情報量が増えただけで後悔自体は変わらない。人生って難しいですね。

 

人生の選択肢が「ある」と思うと、その数だけ後悔をしてしまいますが、実は「した」選択も「しなかった」選択もさほどかわりないのかもしれません。そうなると最初から「ない」と考えて生きたほうが、楽かもしれませんね。後悔からは逃れられないのでで、後悔を否定せずに生きてみては?ということなのでしょう。

 

あぁすればよかった。こうすれば違った。そう思ったときは、「けれども人生の主人公はお前だぞ?」と疑ったほうがいいですね。こうしたところで、ああしたところで、その続きを歩むのも自分。お前はそんなに立派だったか?理想通りに上手くやれるか?そんな根拠はあるのか?

 

後悔の中の自分はつねに、「あの選択をしなけれな今頃もっと幸せだった」という過大評価でいっぱいです。よーく考えると、たとえ違う道を選んでいたとしても、自分は自分でしかないのにね、と笑えてきます。選択肢というのは生きている限り続くわけで、まだ終わるわけではない。それは生きている人こその特権で、もうすぐ旅立つ人は後悔を肯定するしかない。しかし、それは選択の欲から解放されるということでもあり、そんなに悪いことでもないなと思える1冊でした。

 

ちなみに「後悔病棟」は続編もあるので本書が気に入った人にはコチラもあわせてオススメします~。

 

 

結論:どうせ後悔するから、自分の人生もっと自分の好きに生きていいさ

 

以上、「後悔病棟」のレビューでした!

 

 

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