いろんなレビューで「よくわからなかった」といわれている『魂婚心中』。みなさんは芦沢央さんの短編集ということで、いつものホラーやミステリーを期待していたようですが、今回はSFミステリだったためしっくりこなかったのでしょうか。「よくわからなかった」につづき「SFは苦手」という感想が多かったので、単にSFがウケない時代という説もあり。しかし、たまにSFも読む私としては普通に楽しめた一冊で、どの話の発想も新しくてワクワクしながら読みました。
おそらくですが、SNSでざっとパトロールした感じだと、比較的若い(と思われる)人からは全体的に共感されている印象を受けました。たとえば推しと死後結婚したいファンの葛藤を描いた『魂婚心中』や、未来のゲームRTA大会を描いた「ゲーマーのGlitch」などは、若者ほど「そういうことを考えたことがあるし、結構リアル」な内容だったことがわかります。私はというと、自らを大人側だと思っていましたが、実際読んでみると面白いと思った側だったので、思っていたよりデジタル世代だったのかもしれません(笑)
なぜなら「よくわからなかった」の代表作(?)である「ゲーマーのGlitch」は、作中内のゲームストーリーや実況の様子がリアルすぎて天才かと思ったし、「閻魔帳SEO」に至っては子供の頃に抱いていた閻魔様への疑問と、現在ブログをやっていてなんだこりゃーと思うグーグル様の気まぐれなコアアルゴリズムアップデートへのモヤモヤがあわさった内容で大変面白いとしか言いようがなかったからです。
(試しに高一の甥に読んでもらったら、「閻魔帳SEO」がバカうけでした。ミームの散りばめ方が最高で、ラスト一言にセンスありすぎとのこと。「ゲーマーのGlitch」は実際にゲーマーが使う用語連発に加え、専門用語も知りすぎているらしく、この作者ゲーム廃人じゃないよね?絶対RTA経験者じゃんと驚いていました)
ちなみに本書が合わなかったという方からも好評だったのが『九月某日の誓い』という話です。実はこの話、「ん?どっかで読んだことあるなー」と思いながら読んでいたのですが、当ブログ内の検索機で調べてみると(こういうとき便利すぎ)過去に読んでいました。
これですわ、この本で読んだのよ
おそらく『九月某日~』がお好きな方は、上記の<推理小説年鑑>に収録されている他作品も気に入ると思うで、ぜひチェックしてみてください。
さて、前置きが長くなりましたが、以下にちょこっとだけ本書のレビューを書いてきます。
魂婚心中
まずは表題作のこちら。この世界では死後婚の相手をマッチングアプリで探します。存命中にKonKonというアプリに登録し、アカウントを作っておけばOK。主人公の「私」は、推しの浅葱ちゃんがこっそり本名(非公開)でKonKonに登録していることを知り、慌てて自分のアカウントを作成します。私は浅葱ちゃんがまだ今のアイドルグループに所属する前から推している古参ですが、これまで見返りなど一度も求めたことはありません。しかし、フォロワーが158人しかいない素性を隠した浅葱ちゃんのアカウントを見つけた瞬間、私は抜け駆けしたくなってしまったのです。
この話でリアルなのは、私の盲目的な推し活状況。浅葱ちゃんが個人ライバー時代には、LIVE配信サイトで「投げ銭額上位五名がアイドルデビュー」というイベントがあれば、借金をしてでも投げ銭をしたり、コメントを読んでもらっただけで世界が変わったり、その時々の心情がまぁリアル。いつの間にか浅葱ちゃんのすべてを知りたくなって、ネットストーカー気味になり、SNSで学生時代のリア友探しをしたり、写真から居場所を特定して聖地巡礼をしたり・・ちょっと自分でも怖くなってくるあの感じもリアル(ブログ主の「私」はそこまでしたことない)。
本当は迷惑できもいファンにはなりたくないのだけれど、偶然を装った魂婚相手になるのならいいよね?と、思っちゃう心理。実際やるかは抜きにして、フォローくらいしちゃう気持ちはわかるかも。しかし、この死後結婚を成立させるためには浅葱ちゃんと同時に死ぬしかありません。ちなみにアプリにはユーザーが死亡すると、ステータスが「存命」から「死亡」に変わるようになっています。しかも浅葱ちゃんは魂婚相手に「女性」を希望しており(これはクリア)、遺体の損傷状況においては「良くない」ものは拒否設定しています。なので私は常にスマホでステータスをチェックし、もし浅葱ちゃんが死んだら綺麗な状態で死ねるように準備しておく必要があるのです。
ただ、これでは毎日大好きな浅葱ちゃんの死を待ちわびているようで申し訳ない。私もそのことが引っかかっていて、結婚したいような、したくないような、複雑な心境でいます。うーん、推すって難しい!けれども何だか気持ちがわからなくもない。この正しいファンでありたいけれど、どうしても踏み外しかけてしまう「揺らぎ」が誰かを推している人には共感できるTHE令和な物語になっています。
閻魔帳SEO
小さい頃、「天国と地獄」の話を聞くと、「そもそも閻魔大王はどこから人間を見てるん?善悪の基準って何?」と、思っていた私。それが本書では、「閻魔大王は閻魔帳の上位表示のみをみて、システム的に天国行きか地獄行きかを決めている」という設定になっていたので、もう興味津々MAX。マジか、じゃあSEO対策すれば誰でも天国行けるんじゃね?と思ったら、ちゃんとそれ専用のコンサル会社があって爆笑。しかも一番仕事ができる人がインド人なのもちょっとだけリアルで好き。ん?待てよ?でも勝手に攻略しちゃったら、それが一番の「罪」になるんじゃ・・と思ったら、その通り。業者がクライアントに対策しようとすると、ブラックホール的なものが追いかけて来て即死させようとしてきます。もう、こういう細かいところも好きでしかない。
たまにヤ〇ザとか極悪人が地獄に行きたくなくて(地獄にも7段階ある)、業者に天国行きの対策を依頼してくるのですが、まぁ無理です。地獄のレベルを一段階マシにするくらいならいいけれど、急に天国はいくら何でも身の程知らず!しかもこういう人に限って、亡くなったあとに地獄に行くと、遺族が「話が違うじゃね~か~金払わんぞ~」と騒ぐのですが、そんなときは「コアアルゴリズムアップデートで(罪業や善行の)順位に変動が起きました」と説明すればOK。面白すぎます。
ちなみに仕事ができるインド人の父親は、この気まぐれなアプデの被害者で、意味不明な理由で地獄送りになっています。だからこそ彼は、わざとクライアントを本来行くべき場所とは違う階層へ行かせて、アップデートを起こさせているのです。父を悪だと断罪したルールが無意味なことであると証明するために、罪業や善行の順位など簡単に変わってしまうことを証明するために!
いやぁ~この発想は素晴らしすぎます。もうどの階層に行くかは運みたいなもの。それか器用な人が直前で対策しておいしいところを持って行っちゃうか。暴言を吐いたあとに、調節するかのように脈絡なく優しい言葉を言ったり、もうめちゃくちゃな世界になるんだろうなぁ。子供の頃は恐怖でしかなかった閻魔帳も、令和になるとこんな感じに創作されるのか!と思うと笑えます。もう、じごくのそうべえに読んであげたいレベルでした。
はい、以上が簡単なレビューになりますが、いかがでしたでしょうか?全6篇収録(あとがきアリ)のうちから、ここでは2篇だけレビューしました。確かに芦沢先生ファンには新鮮な物語ばかりですが、個人的にはそこが楽しめました。なんというか題材がやっぱりユニーク。長編で読みたい作品もあったので、いつかを期待したいです。相変わらず上手くレビューできず、面白さを伝えられている自信はありませんが、短編を読みたい方にオススメです。
また、芦沢先生の他作品のレビューも下に貼っておいたので、興味のある方は読んでみてください。
以上、『魂婚心中』のレビューでした!
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