今回は「お金」と「小さな秘密」がテーマになっているミステリ短編集の紹介です。
それがコチラ、芦沢央さんの『汚れた手をそこで拭かない』
収録されているのは全5篇。どの話にも隠し事をして墓穴を掘ってしまう愚かな人たちが登場します。
その中でも私が面白かったのは、『埋め合わせ』と『お蔵入り』という話。
まず『埋め合わせ』は、夏休みのある日、日直でプールの管理を担当してた小学校教諭の秀則が誤ってプールの水を半分も流出させてしまった話になります。このミスを隠蔽しようとした秀則は、誰にもバレないようにプールの水を溜め直し、余計にかかってしまった水道料金を「生徒が水道の蛇口を出しっぱなしにしたせい」にしようと企みます。
このときの秀則の姑息さと言ったらもう・・。読んでいる方もいつ他の教師に嘘がバレてしまうのか緊張しっぱなしで、お腹が痛くなってきます(笑)でも、人間焦っているときこそ詰めが甘いものなんですね。秀則の嘘はあっけなく同僚にバレ、最終的にはとんでもないことになってしまいます。
それにしても学校の先生って大変ですね。人間だから誰にだってミスやうっかりしちゃうことはあると思います。しかし学校で使用するお金は「税金」なので、何か問題があればすぐニュースになり、自己弁済を迫られ、恥を晒し、査定にも大きく響いてしまいます。私が普段気にしていないだけで、実は学校のプール流出ミスは結構あるものなのでしょうか。給水口の栓の締め忘れなんてなさそうでありそうな話ですよね。請求額を考えると恐ろしくなってきます。
『お蔵入り』は、念願の初監督作品を無事に撮り終えた大崎が、主演俳優の岸野を誤って殺してしまい隠蔽する話になります。大崎は撮影後すぐに岸野が薬物使用でマトリからマークされていることを岸野のマネージャーとプロデューサーから聞かされます。そこで大崎は「せっかくの映画をお蔵入りさせないためにも、捜査が入る前に証拠を消してほしい」と岸野に頼みますが、断られ、もみあいになります。気づくと、岸野は大崎から押されてベランダから転落するかたちになってしまい・・・。
この事故により、映画は別な意味でお蔵入りする可能性が高まりましたが、事件は思わぬ展開に。なんとロケ先で宿泊していた旅館の従業員が「あの日、岸野が共演者の小島と言い争いになっていたところを聞いていた」と証言したことで、小島が容疑者に急浮上してしまいます。
なぜ従業員はそのような嘘をついたのでしょうか。あの日、岸野と一緒にいたのは大崎と岸野のマネージャー、そしてプロデューサーの3人だけです。真犯人の大崎は、従業員のおかげで自身が犯人であることは免れそうですが、小島が逮捕されてしまうと映画が未公開になってしまうため、何とか岸野の自殺にできないか考えます。
この話は読むと「オチ」がすぐわかってしまいます。従業員の子が嘘をつく理由といったら”コレ”しかないようなぁと。ちなみに岸野のマネージャーとプロデューサーが、大崎が犯人であることを警察に黙っていたのは、すべて「小島犯人説も上手く消し去り、映画を無事に公開することで、諸々の金銭的な損害を免れたいから」でした。おー、人間やっぱりお金が絡むと怖いですね。
他にも隣人が亡くなってからなぜか電気代が不自然に減ったことに違和感を抱く老夫婦の話『忘却』、元不倫相手からお金をせびられる人気料理研究家の話『ミモザ』などが収録されています。個人的にはトップバッターの『ただ、運が悪かっただけ』は、あんまりだったかなぁ。前評判が「怖すぎる!!」だったので、ちょっと期待し過ぎてしまったのかもしれません。
既に汚してしまった手をどうにかして拭き取ろうとするから大事になってしまうんだろうなぁという話ばかり。ミスしたときは、最初の段階で素直に対応しておくのが一番精神的にもいいのだと思いました。
将来の自分が取り返しのつかない事態を経験する前に、この本を読んでおくといいかも?
以上、『汚れた手をそこで拭かない』のレビューでした!
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