「男の子はいくつになっても、お母さんが大好きだからね」

 

歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす。

 

<あらすじ>

息子を溺愛し、学校や近隣でトラブルを繰り返す母親。家から一歩も出ず、姿を見せない息子。最愛の息子は本当に存在しているのか―歪んだ母性が、やがて世間を震撼させるおぞましい事件を引き起こす。

 

この帯文とあらすじだけで面白そうと思い、読んでみた矢樹純さんの『マザー・マーダー』。しかし実際に読んでみると少し想像していたのとは違うお話でした。

 

一人のやばい母親についてのお話なのかな?と思っていたのですが、中身は連作短編集で、登場人物全員がどこか不安定。

 

息子を溺愛する梶原美里を筆頭に、その息子で引きこもりの梶原恭介、梶原家の隣に住む問題を抱えた家族、美里と同じ職場で働くワケありの女性、引きこもりの支援施設で働く男性、恭介と同級生の少女、恭介が起こした事件を取材する女性といった数々の人物がいろんなことをやらかしてくれます。

 

まず最初は梶原家の隣に引っ越して来た佐保家のお話から始まります。佐保家には陽菜という一歳の女の子がいるのですが、美里から「こどもがうるさくて息子が困っている」とクレームを入れられます。近所の人のアドバイスによると、「美里は普段とても良い人だが、息子の事となると豹変する」らしく、絶対に敵に回してはいけないそうで・・。そこで母・瑞希は細心の注意を払って陽菜の面倒を見ますが、今度は佐保家に来る配達便のトラックの音が不快だと怒鳴られてしまいます。

 

これではまともな生活が送れないと悩んだ瑞希は、夫に美里のことを相談しますが、そこで夫婦の意見が分かれてしまい、大喧嘩に。その日から夫とはすれ違い生活になり、ついには離婚寸前までに及びます。実はこうなるまでに、瑞希にはいろいろな事情があり・・・。そこは本編を読んでいただくとして、問題は梶原家とのトラブルです。噂によると、美里の息子は三十代の引きこもり。中学の頃から不登校になっているらしいのですが、それにしてはあまりにも美里が息子に対し過保護である気がして何だかとても違和感があるのです。

 

 

 

 

続いては美里と同じ病院で働く相馬という女性のお話になります。相馬には遥という一人娘がいるのですが、ある日遥から「お父さんに隠し子がいた」と連絡を受けます。詳しい事情を聞くと、別れた夫には竹内佑哉という息子がおり「亡くなった父親の遺産は自分にも受け取る権利がある」と、言っているとのこと。しかし遥は婚約者の夢のために遺産を使いたいため、竹内の存在が邪魔でしかたありません。そんなとき、過去に竹内が詐欺をしていたという掲示板の書き込みを見た遥は、隠し子の話は嘘かもしれないと思い・・・。

 

驚くことに、この詐欺事件には、あの梶原美里の息子・恭介が関わっています。竹内は自分の知らない間に恭介に運転免許証を奪われ、なりすましをされていたことを知ります。しかし驚くのはそれだけではありません。実はこのとき、相馬も、遥も、恭介も全員ある秘密を抱えていたのです。

 

ん~、なんだかよくわかりませんよね。二話読んだ時点でも謎は多いまま。すると、いよいよ三話で進展があります。次のお話には、戌亥という引きこもりの自立支援施設で働く男性が登場します。ある日、戌亥は上司から引きこもりを無理やり施設へ連れて行く「ひきだしや」の仕事を任され、依頼人の家へ向かいます。しかし、目的地までナビゲーションを担当した野崎のミスで、ふたりは梶原家を訪れてしまい、そこで激高した美里に薬を盛られ監禁されてしまいます。

 

この回では少しだけ梶原家のことが見えてきます。美里は戌亥たちのことを「梶原家の秘密を知っている人」と思い込み、それを口外されないために監禁していることがわかります。いったい梶原家の秘密とは何なのでしょう?それが美里を狂わせている原因なのか?それはもう少し先を読んでみないとわかりません。

 

四話ではいよいよ梶原恭介本人が登場します。といっても、それは中学時代のエピソードになっています。ある日、城戸早苗は娘の千春から「梶原恭介から殺されかけた」と告白されます。実は少し前から不登校になっている千春は、最後に登校した日に美術室にあった石膏が自分にめがけて落ちてくるという事故に遭い、ケガを負っていました。しかし、その事故の原因が恭介によるものだと千春から聞いた早苗は、学校へ抗議に行くのですが・・・。

 

この回では美里の過去が判明します。不登校になった千春を心配したママ友から早苗は、「美術部の梶原くんのお母さんは、高校時代に自分が産んだ子供を殺して捕まったことがある」と忠告されます。どうも美里は恭介のことになると頭がおかしくなるそうで、この親子に深入りしないほうが身のためとのこと。ただ不思議なのは、どちらかというと、恭介自身は穏やかで聡明な印象であることです。ますます意味がわかりませんが、次はもう最終話。ここから急速に物語が進んでいくのでしょうか?

 

最後に登場するのは、梶原恭介の事件を追うライター・寺町梨沙。この回で恭介は、母親を殺害した犯罪者として世間を賑わせています。あ、マザー・マーダーなだけに、恭介は美里を殺しちゃったのね、と思うのですが、ここから物語は複雑になっていきます。

 

梶原家の秘密。それはやはり母親にありました。そう、美里の母親に。え?美里ではなく美里の母親に?そうなんです。梶原家の闇は美里の母親から始まっているのです。

 

梨沙は事件の真相にたどり着くものの、本当にこれを知ってしまってよかったのだろうか、というラストになっています。包み隠さずに言うと、色んなことが詰め込まれているわりには、オチが物足りなかったかなぁ(ごめんなさい)。それでもイヤミス好き、ミステリー好きにはオススメの一冊なので、興味のある方は読んでみてください。

 

 

以上、『マザー・マーダー』のレビューでした!

 

 

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