こちらは全5話収録の連作短編集になります!どんでん返し系や法廷ミステリーがお好きな方にオススメです。
<あらすじ>
誰もみたことのない衝撃の逆転裁判がはじまる――。フリーライターの湯川和花は殺人事件の裁判を傍聴するのだが、結審直前に衝撃的な被告人質問を目の当たりにする。左陪席の不知火春希裁判官が予想外の質問を被告に投げかけ、悲しすぎる事件の真相を自白のもとに晒して法廷の景色を一変させてしまう。こうした不知火判事の質問は「他に類を見ない質問」と法曹関係者の間で囁かれていた。
仕事の少ないフリーライターの和花は元職場の同僚から振ってもらった刑事事件のルポルタージュを書くため、人生で初めて裁判を傍聴することに。すると、そこで不知火(しらぬい)という他に類を見ない質問をして逆転裁判に持ち込む風変わりな判事の存在を知ります。同じ裁判に訪れていた傍聴マニアによると「不知火判事の出る裁判はいつも面白い」らしく、ルポルタージュの書籍化を目指す和花は、彼の裁判を追うことにします。以下は和花が傍聴した5つの事件の内容になります。
二人分の殺意
30代無職の娘がシングルマザーの母親を殺害した事件。長女は幼い頃から年の離れた妹のお世話をするため、学校には通わせてもらえず、虐待を受けてきました。中学を卒業後、長女は働こうとしても家から出る事を許されず、同じように育てられた妹は引きこもりになり、精神状態も危うくなっていきます。妹の身を案じた長女は、母親を殺害するしかないと思い実行するのですが・・・
この事件は発覚当初から長女が犯行を認めており、本来なら何事もなく結審すると思われている裁判でした。しかし長女は裁判中に自身の犯行を認めたり、否認したりと不可解な言動を繰り返します。困惑する周囲でしたが、不知火判事の最後の質問で裁判は大きく変わっていきます。
実は精神状態が危うかったのは、妹ではなく姉のほうだったことを知ったとき、本当は誰が何のために母親を殺害したのか「真実」が見えてきます。※妹が犯人というありきたりなパターンじゃないのがイイ
生きている理由
飛び降り自殺をした男性が通りかかった男の人を巻き込み、重傷を負わせた事件。被害者は実業団の陸上選手で、このときのケガが原因で引退をしてしまいました。被告人の多田は重過失致傷の罪に問われることになったのですが、和花の取材によるとこの事件は偶然ではなく、計画的だと思わせる内容が見つかり・・・
この事件はどう考えても被害者と被告人の間には「何か」あるんですよね。ただ、読んでいてそれが何なのかがずっとわからないところが面白かったです。ふたりが大ケガをするか下手すりゃ死ぬかという危険をおかしてまで、こんな事件を起こす意味はないし、だからといってふたりとも法廷で頑なに真実を語ろうとしない意味もわからない。これはさすがに被告人が気の毒な事件でした。
燃えさしの花弁
不倫相手を殺害したのち建物ごと放火した女性の事件。しかし亡くなった男性は妻の会社から横領していたことが発覚し、自殺したのではないかとも疑われます。不倫相手の女性は犯行を認めないものの、事件当日に男性の家を訪れ、遺体から爪と髪の毛を奪っていく奇妙な行動をしていました。こうなったら犯人はこの女性しかいないとなりますが・・・・
この事件は男性が横領していたお金の使い道が不明で、その理由がわかったときに真犯人が出てきます。最初からよく読めば、男性と女性の「特別な関係」というのが、どういう関係だったのか予測がつくので注意してみてください。特別な関係=不倫という先入観を捨てることがポイントです。
沈黙と欺瞞
詐欺集団に属する男が高齢者の自宅に上がり込んで金銭を要求したものの、支払いを拒まれたため殺害した事件。男はこの事件のあとすぐに詐欺の首謀者とも口論になり殺害しています。しかし男の逮捕後、被害者の高齢男性にも詐欺の疑いがかかり、登場人物全員に何かしらの罪がある気配がしてきて・・・
この事件は男が黙秘するため、なかなか真相が見えてきませんでした。男には以前にも同じような事件を起こした前科があるのですが、そのときにはもの凄く反省し、罪を償うためにアレコレしていたようなんです。なのになぜ再びこのような過ちをおかしたのでしょう。そこには被告人の「自身が約束を守る人間でありたい」という自己満足による身勝手な動機がありました。
書けなかった名前
最後は和花がフリーになる前に努めていた編集プロダクションの同僚が殺害された事件になります。和花は前の会社で社員旅行に行った際に同僚のひとりを自殺で亡くしていました。しかし事件から数年経って、遺族があれは会社の人間による他殺だったと言い、和花の先輩を訴えたことから、和花は証人として法廷に立つことになり・・・・
この事件は殺害された同僚の女性がちょっと病的な人でした。何でも人の真似をする人で、思い込みも激しく、絶対にロックオンされたくない人種。ただ、彼女は亡くなる前「名前もなくてごめんね」と書かれた謎の遺書をスマホに残していました。これは誰に詫びているのでしょう。もちろん不知火判事はピンときています。このメッセージを読んだだけで閃いたそうなので凄すぎます。
<感想>
私と彼らとの違いは、なんだったのだろう。
本書にはこんな言葉があります。これは被告人とわたしたちを比較する言葉です。
これには私も同感で、ほんの少し何かがズレただけで、ほんの少し何か悪い要因が重なっただけで、人は大きく道を外してしまうのでしょうね。普通の人でもいつ犯罪者になるかわからないのが現実なのかなと。
それにしても不知火判事は超能力者かと疑うレベルで被告人の心の中を語り出すので凄いです。よくあれだけの証拠でわかるねって感じ。
全体のストーリーも最後は真実を暴いてスカッと終わるので、映像化したらウケそうだなぁと思いました。本書では和花の裁判傍聴ルポは無事に単行本となり、現在は第2弾を目指して頑張っているというラストになっているので、好評だったらシリーズ化&ドラマ化もありそうですね。
まだまだ不知火判事の素性には謎がいっぱいなので、ぜひ続編に期待したいです!
以上、短編が苦手な私もスラスラ読めた法廷ミステリーでした!
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