今回ご紹介するのは、どんでん返し系の短編小説になります。

 

『逆転正義』by下村敦史

 

正義が逆転するという意味での大どんでん返し。

 

『見て見ぬふり』『保護』『完黙』『ストーカー』『罪の相続』『死は朝、羽ばたく』という全て意味深なタイトルが並びます。今回はその中から印象に残った話をレビューしていきますね。

 

 

 

 

見て見ぬふり

 

一番印象に残ったのは、いじめを題材にした『見て見ぬふり』という物語。高校生の松木冬樹は、クラスで行われている幼稚ないじめを止めたいけれど何もできないというもどかしい日々を送っています。被害者は三ツ谷という男子生徒。三ツ谷は古島という陽キャ男子が率いるグループから暴力を受けたり、お弁当の中身を捨てられるなどのいじめ行為を受けています。

 

ある日、勇気を出した冬樹は、担任にいじめがあることを報告しにいくのですが、その現場を他の人に見られ古島たちにチクられてしまいます。放課後、さっそく古島たちから呼び止められた冬樹は「先生にはわからないところを聞きに行っただけ」と嘘をつき、その場をしのぎます。

 

一方、担任はいじめがある事実を知りながらもただ遠くから見ているだけで何もしてくれず・・。呆れた冬樹は部活の先輩に一部始終を相談すると、「そんなのSNSに公表して拡散してやるよ」と言われ、数時間後、古島たちはネット上で有名人になってしまいます。

 

その勢いは凄く、あっという間に世間の「悪人」になったいじめっ子たちは、学校に来られなくなり、ついには古島が自殺未遂をする事態にまで発展します。自身の短絡的な行動のせいで大事件を起こしてしまった冬樹。そのことはいじめの被害者であった三ツ谷からも酷く責められます。

 

「自分たちが正しいと思う理由さえあれば、誰かをどんなに攻撃したり罵倒したりしても、いいってこと?」

 

悪いことをしたヤツは、それなりの報いを受けて当然だと思っていた冬樹。しかし、三ツ谷から、もしそれが正しいならネットで誹謗中傷している人には誰が報いを与えるのか、それは加害者と同じ理屈ではないのかと問われ困惑します。

 

さらにこの件について担任から呼び出された冬樹は注意を受けるのですが、そこで衝撃の事実を知ることになります。なんと三ツ谷はいじめなど受けていなかったのです。あれは古島たちと組んだ自作自演。もしクラスでいじめが起きたら担任はどんな行動に出るのか?という壮大な実験だったのです。

 

実は三ツ谷にはいじめを苦にして亡くなった兄がいます。当時、その兄を受け持っていたのが、この担任教師でした。兄のことを見て見ぬふりをした担任を許せなかった三ツ谷は、古島たちにお願いし、担任の本性を暴こうとしたらしく・・・。しかし、これで終わりではありません。ここからまだ逆転します。最終的には「え~」と思う展開になっています。

 

心の声:兄の件がありながら、弟の担任になれるのが驚き!!よく苦情がこなかったなぁ。

 

 

 

保護

 

これは完璧に騙されました。ある日、早川満雄は、コンビニ前で雨にうたれてたちすくむ制服姿の女を見つけます。たまらず声をかけた満雄は、家出をしてきたというその女をなりゆきで保護することになり―

 

この日から40歳と17歳ふたりの同居生活が始まります。普段仕事でパワハラ上司に怒鳴られている満雄ですが、毎日帰宅すると家に春ちゃん(女の名前)がいると思うと、どんなことにも耐えられる気がします。そんな心地よさから、いつまで経っても春ちゃんを家に帰すことができず、ついにはカラダの関係を持ってしまい―

 

これは淫行!犯罪!逮捕!という展開になるのですが、そこで逆転します。ウッソーという展開になります。あら?私勘違いしてたわ!と、なります。

 

みなさんも『保護』を読む際はご注意ください。

 

 

 

完黙

 

こちらも普通にボーっと読んでいると騙されます。麻薬密売人の大重泰三は若者と女性以外にクスリを売っています。なぜ若者と女性以外なのか、それはあとからわかりますが、大重がこの仕事をはじめたきっかけでもあります。

 

しかし大重はあっさりとマトリに捕まり、取り調べを受けることに。そこでは完全黙秘を貫き、起訴され、懲役二年の実刑判決を下されます。二年後、娑婆に出て来た大重は、再び売人の仕事を始めますが、またもやマトリに捕まってしまい―

 

実は前回も今回も何者かのリークによって大重は逮捕されています。そんなことをするのは誰?

 

犯人がわかったとき驚くこと間違いなし。ぜひみなさんも最後まで油断せずにお読みください。最終的には薬物に泣かされた男の復讐と怒りを描いたダークな物語になっています。

 

 

 

感想

 

いやぁ~完全に騙されまくりました。これでもか!という逆転劇。お見事です。

 

自分の正義を信じて疑わない人たちによる正義合戦。正義の押し売り。人それぞれの正義があり、見る角度によってその感じ方、受け止め方は全然違ったりする。もはや何が正義かなんてわからないし、もしかするとそんなものは最初から存在しないのかもしれない。

 

固定観念と先入観が強いと、私のようにまんまと罠にハメられてしまうのでお気をつけて。見破ることができたのは『ストーカー』という物語だけ。恥ずかしいです。

 

この本は・・・・なんというか・・・

 

振り回されたい人におすすめです。

 

本の展開に振り回されたいドМなアナタにおすすめします。

 

とにかく自分勝手を暴走させちゃダメですね。

 

ちょっぴり道徳的な一冊でもあるので、中学生の朝読書用にもいいかも。

 

内容は真面目ですが、さらっと読める軽さもあるので、活字が苦手な人もお試しあれ。

 

 

以上、『逆転正義』のレビューでした!

 

 

 

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