今回ご紹介するのは、中野信子さんとデーブ・スペクターさんの対談本になります。

 

テーマは「日本の闇」

 

現代日本を覆う「コンプライアンス」や「忖度」が生み出した「タブー」をテーマに、ふたりがジャニーズ問題から統一教会問題までをも語りつくすといったもの。ふむふむ、このコンビなら何か裏話的な面白いことを言ってくれそう!ぶっちゃけてくれそう!

 

そう思っていましたが、ジャニーズ問題やメディアの忖度、コンプライアンスなどの点に関しては、当たり障りなくという感じでした。そこまで突っ込んでいない印象でしたね。多分ヤフコメとかでも誰かが書き込んでいる内容。ただ、実際に対談した時期と、本が出版された時期とでは、どうしても時間差が生まれてしまうため、既視感のある内容になってしまうのは仕方がないですよね。なので、そこのレビューは省略します。

 

面白かったのは、「ニッポンの分岐点」について話している章。特に「おもてなし」の勘違いについての話は共感しかありませんでした。

 

デーブさんは対談の中で、ずっと日本をダメにした人物として、スティーブ・ジョブズ、小泉純一郎、滝川クリステルを挙げています。男ふたりは理由を聞かなくても何となくわかりますが、クリステルはなぜ??そんな世の中を動かすほどの影響力があったっけ?と、失礼ながら思ってしまったのですが、どうやらオリンピック誘致での「おもてなし」発言がダメだったようです。

 

デーブさんはあれから日本の観光業はおかしくなったと言います。「おもてなし」というのは気持ちであり、相手が思うものであって、自分から言うものではない、と。確かに今の日本人は「もてなしをしている自分が感謝されること」を期待して、「おもてなし」が気持ちではなく演出になりかけていますよね。

 

今までは何も意識していないからよかったのに、「おもてなし」を言語化しだしてキャラを押し出したとたん、恰好悪くなってしまったというのです。中野さんはそれを「せっかくの天然キャラの人が、周囲からそれを突っ込まれてから過剰にアピールするようになって嘘くさくなった感じ」的に表現していて上手いなぁと思いました。そうなんです。自分から天然なんですウ~という人に本物はいないんですよ。自分でわかっていないから天然なのです。

 

また、デーブさんは日本はそのままでいいのに、「おもてなし」含め、無理をして観光立国になろうとアレコレすると、逆に魅力がなくなり、リピーターが減ってしまうと言っています。外国人観光客は未知の国・日本をちょっとのぞきに来ている感覚だそうで、自分で色々と面白いものを発掘したいのだとか。そういった魅力的なものは日本人にはわからないもので、それこそ「そのままの状態」であるからこそ素晴らしいわけで・・。なのに、日本人はそれをどんどん観光化して不自然にしてしまうのだそうです。

 

特に最近気になるのが、あらゆる表示が多言語化されていること。基本的に日本語・英語・中国語だけでいいのに、その他にも何か国語も表示をつくり、街中が情報過多になっているそうです。多少迷子になるのが旅の醍醐味。今までは迷子になったら日本人が助けてくれて、その親切さが日本人の良いイメージに繋がっていたのに、急にすべてが観光業のために作られていくのを見ると、やはり残念なんだとか。

 

日本人が文字であれこれ伝えたがるのは、一瞬で意味を認識しやすい漢字の影響があるのかもしれませんが、テレビ番組ひとつとっても、その情報量は外国人にはちょっと過剰に思えたり、耳の不自由な人のための対策なのかな?と真面目に思ってしまう程らしいです。

 

と、まぁ他にも日本人が意識していなかった外国人からウケるものを、意識しだしたとたんオーバーになったり、不自然になっているのがかなしいという話がこの章では語られています。今後、少子化で手間のかかる「おもてなし」ができなくなったら、それを売りにしている以上困るのでは?という意見には共感しかありません。今までアレはやらせではなく、日本人ひとりひとりの気持ちだったんですよね。サービス業みたいになってしまったらする方も辛くなる。なんだか今は過剰なサービスが強要されているみたいで、される方も恐縮するレベルです。個人的には外国人観光客向けに日本文化までをも消費しているようで、本物からかけ離れたその安っぽさにかなしくなります。

 

「おもてなし」以外でなるほどなぁと思ったネタは、日本語の便利さについての話。日本語はあいまいな言語なので、ごまかしが効くということなのですが・・

 

以前、NHKの記者が北海道支局から東京のスタジオと中継をした際に、東京のアナウンサーから「地震発生時はどこにいましたか?」と聞かれ、「はい、いわゆるスナックですか」と答えたそうなんです。デーブさんは「いわゆる」をつけて、さらに疑問形にすれば何となくまずいことも帳消しになるこれを、最高の言い回しと笑っていました。今だったら「飲食店」とごまかせるところも日本語の発展力!「いわゆる統一教会ですか」「いわゆる信者ですか」何でも応用がききます。

 

グルメレポーターもなかなかです。「個性的な味ですね」「一生忘れられない味」「素材を生かした味」。つまり美味しいとは言えない料理ということですね。日本語にはこうした自分を情報源にしない言い回しがたくさんあるのだとか。直接的な表現は避けることで何もかも他人事にしてしまう。ある意味すごいワザです。「ちまたでは~」「みんなは~」なども同じ。日本人が言う「みんな言っている」のみんなは誰のことなんでしょうね。ちなみにデーブさんは日本人がクビになった人に対し「卒業」という言葉で変換してくれるところが優しいと言っていました。

 

以上が本書のほんの一部の紹介になります。

 

頭の良い人同士の対談は文章にもスピード感があるのであっという間に読めちゃいますね。おそらく編集前はもっと話もあちこち飛びまくっていたんじゃないかと思います。ダジャレも拾わなきゃだし。この対談をまとめた方はさぞ苦労されたことでしょう。

 

この対談のいいところは最後まで楽しいところですね。テーマは「ニッポンの闇」ですが、内容は笑えます。暗い話、腹立つ話をそのまま嘆いては読む方もしんどくなるだけなので、どうせなら楽しく語ってもらった方がこちらもありがたい。もうね、日本をダメにした3人の話がおかしくて・・・。あんな風にテーマを斬る人はなかなかいないと思います。

 

次回があるなら、もうちょっと踏み込んだテーマでかましてほしいですね。日本人は遺伝的に自分の得を捨ててでも、イラついた相手を痛い目に遭わせてやりたいと思うそうで・・・まさにリベンジャーなのだとか。だから日本人はコンプライアンス好きだし、バッシング好き。自分は真面目に生きているのに、なぜお前は!!と常に思っているし、だからこそ間違った人をゆるせないし、探して懲らしめたいらしいです。

 

怖い

 

でも、なぜか1分後には別のページ見て笑っている自分がいます。

 

そう思えるのも、このふたりの成せるワザ。だから多少おそろしい話でも、事実でも、テーマにしてもらってガンガン本音トークをしてほしいです。

 

本書は真面目な話をPOPに聞きたい人にオススメ。1~2時間あれば余裕で読めちゃうので、病院の待ち時間や移動中などにいかがでしょうか?未読の方はぜひ手に取ってみてください。

 

 

以上、『日本の闇』のレビューでした!

 

 

 

 

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