今回は読んでいてとても哀しくなる小説をご紹介します。

 

 

女性死刑囚の心に迫る本格的長編犯罪小説!幼女二人を殺害した女性死刑囚が最期に遺した言葉――
 
「約束は守ったよ、褒めて」

吉沢香純と母の静江は、遠縁の死刑囚三原響子から身柄引受人に指名され、刑の執行後に東京拘置所で遺骨と遺品を受け取った。響子は十年前、我が子も含む女児二人を殺めたとされた。香純は、響子の遺骨を三原家の墓におさめてもらうため、菩提寺がある青森県相野町を単身訪れる。香純は、響子が最期に遺した言葉の真意を探るため、事件を知る関係者と面会を重ねてゆく。(あらすじより)

 

※死刑の描写が生々しいのでご注意を!

 

 

 

柚木裕子さんの『教誨』です。

 

既に題名から哀しさが伝わってきます。我が子も含む女児二人を殺害した罪で死刑になった三原響子。彼女は幼い頃からずっといじめに遭ってきました。原因は母親の過干渉。響子の母・千枝子は、娘と友人の間にちょっとしたトラブルがあるたび学校へ乗り込んでくるモンスターでした。そのせいでいじめはさらにヒートアップし、いつしか響子は母に何の相談も出来なくなっていたのです。

 

一方、響子の父・健一は、若い頃から素行が悪くどうしようもない人でした。対して彼の父・正二は、息子からは想像もつかないほどの人格者でした。そんな父にこれまでたくさん助けられてきた健一は、良い家庭を築くことが恩返しだと思い、響子に過剰なしつけをして育てます。しかし、その実態は、しつけという名のモラハラでした。

 

三原家のモラハラはもはや「洗脳」といっても過言ではありません。娘の失態は母親のせいにされ、時には手が出ることもありました。しかし、ふつうなら親を憎んでしまいそうな場面でも、響子は「自分が悪いから親に迷惑をかけているんだ」と思っていました。自分は頭が悪くて、何をやっても上手くできなくて、いいところがひとつもない。自己評価があまりにも低い彼女は、何をするにしても「父に怒られるのではないか」と不安になり、正常な判断ができない大人へと成長します。

 

就職も、恋愛も、結婚も、子育ても・・・幸せになろうとするほどなぜか上手くいかない響子。それには完全に生い立ちが関係しているのですが、彼女は気づくことなく、残念な結果になってしまいます。

 

女児二人を殺害、そして死刑

 

物語は響子の死刑執行後から始まります。彼女の遺骨を受け取りにきた遠縁の香純が、響子の最期の言葉「約束は守ったよ、褒めて」の意味を求め旅に出るところが本書のメインになっています。しかし、そこでわかったのは哀しい真実。何とも言えない気持ちになってしまいます。

 

私が哀しかったのは、響子の心が刑執行のずっと前から死んでいたことでした。

 

彼女は実のところ、自分が娘を殺したのかどうかさえあやふやで、そこには薬の影響も否定できなかったのではないかと思います。彼女は精神科医から副作用の強い薬を処方されており、意識のハッキリしない生活を送っていました。その姿はまるで死人のようでした。

 

また、マスコミからある事ない事を書かれても、たとえそれが裁判で不利になりそうな内容でも、「どうせ自分の言うことなんて誰も信じてはくれない」と、彼女は無気力でした。その心には「母親でさえ父親の暴力から救ってくれなかったような自分に価値はない」という悲痛の叫びがありました。彼女は体調が悪いだけでなく、心も衰弱してきっていたのです。

 

本当に哀しい物語でしたね。幼子を殺してしまった彼女が悪いのはもちろんですが、その彼女を先に殺したのはまわりにいた人間全員です。彼女は誰からも守ってもらえずに死んでいったのです。

 

あまりにも辛すぎる。

 

ただ、親戚中が「断る」と突っぱねた響子の遺骨を遠縁の(人生で一回しか会ったことのない)香純が故郷に還してくれたのはせめてもの救いでした。

 

詳しい内容は言えませんが、響子のことをきちんと知ろうとしてくれる人たちが他にもいたことに安堵しましたね。亡くなってからそういうことを知っても遅いので残念ですが・・・・

 

 

「ひとりの犯罪者をみんながつくった」典型的な事件。

 

人間は罪深い。

 

改めてそう思った一冊でした。

 

 

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