今回は白井智之さんの”一体どうレビューしていいのかわからない一冊”をご紹介します。

 

その小説とはコチラ

 

 

\ジャジャ~ン/

 

エレファントヘッドでございます。

 

 

象の頭?それにこの表紙は何?と思っちゃいますよね?

 

まず、主人公の象山は精神科医をしています。彼は家族をとても愛しているあまり、まだ壊れていないうちから家庭崩壊を妄想するほど心配性なところがあります。そのため家族にとって「害」となるものなら、「疑惑」の段階から「処理」することが当たり前になっています。

 

彼がそんなふうになってしまったのには、決して明るくない生い立ちが関係しています。彼の父は奇術師として一大ブームを築いた有名人でしたが、そんな父もまた彼と同様にこのブームがいつまでも続かないであろうことばかりに気を取られ、身を滅ぼしたひとりでした。

 

精神不安定になった父はやがて母に暴力を振るうようになるのですが、そこでなぜか象山は父に敵意を向けるのではなく、母に殺意を向けてしまいます。その理由は母さえいなくなれば、父が再び優しくなり、奇術師として復帰してくれると思ったから。幼い象山にとって父が病んだ原因は、いつも父から暴力を受けている母そのものであり、母がそんな目に遭うのは彼女こそが父のストレスの根源だからに違いないと信じていたのです。

 

歪んでいますよねぇ。ちょっとこの子はサイコパスなのでは?と思ってしまうほどです。結局、彼は母を別荘の近くにある崖から落として殺してしまうのですが、それを知った父が喜ぶどころか錯乱してしまったことに怒りを覚えてしまいます。父のためにやったのになぜ?母がいなくなったのに元通りにならないのはなぜ?父に対し一気に幻滅してしまった彼は、父が足場の悪い斜面から足を滑らせ、崖から転落していくのを真顔で見つめます。そして「一度壊れたものは、どんなに手を尽くしても元の姿には戻らない」と学びます。

 

 

 

 ちょっとした亀裂

 

このような過去から「大切なものを守るには、それが壊れる前に亀裂を塞いでおくしかない」と思い込んで成長した象山は、ちょっとした心配事(まだ予感レベル)があるだけで、その原因となる人物を殺してしまうようになります。

 

彼にはローカルタレントをしている妻・季々と、顔出しNGのバンドのボーカルを担当している長女の舞冬、そして生まれつき腎臓に持病を抱えている高校生の次女の彩夏と4人で暮らしています。これまで順風満帆な象山家でしたが、長女の周辺を記者らしき人物がうろついていることを警戒した象山は、そっさく記者の身元を割り出し殺害してしまいます。

 

「え?」と思いますよね。ただそれだけで?と。でもこれが象山なんです。もうほとんど病的なんです。詳しくは書けませんが、記者の身元を調べるときの方法もかなりイッちゃってます。彼は人を人とは思っていません。こんな感じで些細なことで人を殺しまくります。

 

また、彼の”心配性”は不審人物に敏感であることにとどまらず、まだ起きていないことに対し不安を募らせることにも過剰な働きを見せていました。彼は医者仲間たちが女性関係が原因で離婚や別居をしていることを知ると、自身も同じ過ちを犯すかもしれないと、予めリスクを潰すためだけに、性欲の捌け口用の男を用意します。

 

今度は「は?」と思いますよね。まだ起きてもいない未来の不倫を案じて、わざわざそんなことをするなんて信じられません。彼の理論上では不倫をする前に別の手段で性欲を満たせばリスクを軽減でき、その相手が異性愛者である自分にとって男であれば性的対象ではないため問題ないということでした。

 

まったく理解不能ですが、こんな感じで象山は日々を過ごしています。

 

 

 

 シスマ

 

そんなことを繰り返していくうちに、当然象山は大ピンチを迎えることになります。まぁリスク回避と言いながら、あれだけ罪を重ねていたらいつかほころびが生まれても不思議ではありません。ここはネタバレになるので言えませんが、彼はあることがきっかけでこれまで必死に守ってきた幸せな家庭を崩壊させてしまいます。

 

もう終わりだ!一度入った亀裂はどうにもならない!

 

既にそう学習している彼は、ドラッグディーラーから買った”シスマ”というクスリをキメて自殺を試みます。このシスマは、半分の確率で使用者に絶大な快楽をもたらし、過去にこのクスリを打った人は、あまりの快楽に生きる意味を見失い、自らの頭を割り脳を掻き出して命を絶ったと言われているほど危険なものです。ただ、半分の人にはまったく効果がないということなので、これは賭けになるのですが、何でもいいから死にたい彼はさくっと打ってしまいます。すると・・

 

頭の中で何人もの自分が存在しているような感覚がします。しかも時間が亀裂が入る前までに戻っているではありませんか!これなら事前にあの件を防げるのでは?そう確信した彼は二度目の今日を万全の対策を練って送ることで、何とか家庭崩壊を防ぐことに成功します。

 

しかし、その晩、眠りについた彼は夢で不思議な体験をし―

 

※以下は事前情報なしで読みたい方は進まないでください

 

 

 

 意識の分裂

 

夢の中で象山は別荘の地下室にいました。そこにはもうひとりの象山と、さらにもうひとりの象山がいたのです。

 

どういうことかというと、夢の中には象山が3人いて、それはシスマのせいなんですね。先ほど象山がシスマを打ってタイムリープしたと言いましたが、クスリが効く確率は二分の一でしたね。実は象山がシスマを使った際に、それまでひとつだった時間が二分され、タイムリープに成功した自分と、そうではない自分が生まれたそうなんです。

 

では、なぜ3人目の象山がいるの?となりますが、それはタイムリープに失敗した方の象山がさらにシスマを打ったことによって、また新たな象山が生まれたからです。ややこしくてごめんなさい。本書ではタイプリープに成功した象山を幸せ者、二度目のシスマでタイムリープした象山を修復者、修復者によって誕生した象山を逃亡者と呼んでいます。

 

彼らは意識が分裂しているだけで、本来は同じ人間なので、夢を見ている時だけひとつになり全員揃うことができるのだとか。残念ながら修復者がタイムリープした時間は既に事が起きた後だったため、幸せ者のような展開にはならなかったのですが、そこから彼はもの凄い熱量で家庭を修復していきます。一方、逃亡者は選択ミスをおかしてどんどん悪い方向へと突き進みます。

 

こうなると当然、第4、5の象山が生まれることも考えられるわけで・・・。ええ、そんなぁ~これからどうなっちゃうの?というのが本書のみどころになってくるんですね。

 

さらに面白いのは、それぞれの世界線で死んだ人は別の世界線でも同時刻に死ぬという法則があること。たとえば修復者の世界線で彩夏が死んだとしたら、幸せ者と逃亡者の世界線でも彩夏は死にます。なので、3人は絶対に誰のことも殺してはいけないというルールを設け、もし約束を破った場合はそいつを意識から封じ込める(それはできるし、その際自分は死なない)ことにし、身の安全を守ります。

 

変な話、たとえ話でいうと、Aさんが象を殺したとしても、Bさん、Cさんには誰が象を殺したのかはわかりません。互いに相手の世界のことなんて知りようがないので「殺していない」と嘘をつけばいいのです。なので仮に誰かがルールを破ったとしてもその犯人はわからない。つまりやりたい放題なんです。これ以上は本当に書けないので、ぜひ本編で確認してほしいです。この他にも次から次へと奇妙な事が起きたり、人が登場したりと頭の中がフル活動します。ラストは思いがけない展開になるのと、こんなの推理できるわけないわ!というオチが待っているので乞うご期待。ミステリ好きには満足のいく一冊になっています。

 

 

 

 感想

 

個人的には、主人公の象山のサイコっぷりがグロくてちょっと気持ち悪かったです。

 

不気味すぎる登場人物は象山だけではありません。彼が担当する患者にも「ちょっと何を言っているのかわかりません」タイプの男がいて、この人が話すことのどこまでファンタジーで、どこまでが現実なのかサッパリわかりませんでした。

 

本書は「絶対に事前情報なしで読んでください」とのことなので、あらすじも

 

精神科医の象山は家族を愛している。だが彼は知っていた。どんなに幸せな家族も、たった一つの小さな亀裂から崩壊してしまうことを——。やがて謎の薬を手に入れたことで、彼は人知を超えた殺人事件に巻き込まれていく。 謎もトリックも展開もすべてネタバレ禁止! 前代未聞のストーリー、尋常ならざる伏線の数々。 多重解決ミステリの極限!

 

に留めてあります。他のレビューには「安易にオススメできない」「頭の中がごっちゃになって伏線回収どころじゃなくなった」というのが目立つので、難しい!と思う方はネタバレまでいかない程度のあらすじは読んでおいてもいいんじゃないかなぁ?と思います。「終盤は理解できずにただ眺めて終わってしまった」とか「疲れてやめた」になっちゃうと、せっかくの面白い話がもったいないので。そういう私もどうレビューしていいのかわからないレベルで難しかったです。

 

これは私事になりますが、本書を就寝前に読むことはおすすめしません。なぜなら変な夢を見るからです(笑)

この本を読んでいる間は、あー絶対に本の影響だろうなぁと思うようなぶっ飛んだ夢を見ていました。内容は、起きた瞬間までは記憶していたのですが、しばらく経ったら忘れてしまいましたけど。とにかく変な夢でした。

なので、皆さんも読む際にはお気をつけて・・・。

 

 

以上、『エレファントヘッド』のレビューでした!

 

 

 

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