今回ご紹介するのは千早茜さんの『男ともだち』です。

 

個人的に千早先生の作品はオトナで難しく毎回「まだ早かったな」という感想を抱いてしまうのですが、同時にタイトルに魅了されてつい読んでしまうのです。

 

今からレビューする『男ともだち』もそのひとつで・・

 

 

 

私は今まで男女の友情は成立すると思っていたのですが、本書を読んでいるとその内容とは関係なしに成立しないような気がしてきました。なんというか今まで私が思っていた”男ともだち”とは、異性でも友人でもない”男ともだち”という特別な存在だったんだな、と。同じ友人でもずっと一緒にいられないのが”男ともだち”なんだろうな、と。

 

なぜなら大人になればなるほど周囲からその関係は恋愛感情なしでは続けちゃいけないものにされてしまう。どちらかが結婚した瞬間に他人にならなくていけなくなってしまう。そういう意味で、結果的には「男女の友情は成立しないのではないか」と思ったのです。
 

 

新進気鋭のイラストレーター神名葵は、関係の冷めた恋人と同棲しながらも、愛人との逢瀬を重ねている。仕事は順調ながら、ほんとうに描きたかった世界はなんだったかを見失っている気がしてならない。迷いのなかにあった神名のもとへ、ある日かかってきた一本の電話は、かつての男ともだち・ハセオからのものだった。お互い常に恋人がいながらも決して離れることがなかった大学時代。誰よりも理解し合いながら、決して愛しあわない。そんな関係だった二人が再会したとき、なにが起こるのか――。29歳の女性のリアルな心情と、男女の友情関係を描き、大きな反響を巻き起こした本作は、読者にとって、「ともだち」との関係に深く思い至らずにはいられない一冊です。  解説・村山由佳。(あらすじより)

 

 

神名は男に期待していません。小さい頃に性的被害に遭ってから男という生き物を憎んでいます。その反動で今は恋人と同棲しながらも医者と不倫し、どちらのことも心の奥底では見下しているようなところがあります。そんな神名にとって唯一の”理解者”であり、”保護者”のような役割を担ってくれるのが、大学時代の先輩・ハセオでした。

 

ハセオにも何らかの過去があり、女性を大切に扱わないことで心のバランスをとっているようですが、その理由について本書では触れられていません。そんな遊び人のハセオも同士のような神名にだけは手を出さず、実の兄のように接しています。

 

ただ問題はこの優しさ(しかも異常な)の正体が恋愛感情なのか、友情なのかということ。正直ここまでされたら恋愛感情込みでしょうと疑ってしまう場面もありますが、全体を読むとこれは「愛情」なのだと思います。恋愛感情でもなく、友情でもなく、愛情。数ある人間関係の中で、もっとも尊い感情。たとえるなら、母性愛や父性愛に近い感情でしょうか。こういう人と巡り合うこと自体が珍しいので、彼らも最初は自分たちの関係に戸惑っているようでした。

 

神名には美穂という友人がいますが、彼女はかつていた”男ともだち”を失い絶望しています。彼女は”男ともだち”を恋人にしてしまったのです。

 

 

最初はよかった。こんなぴったりな人いないって思った。でも、その珍しさが褪せてきたら、やっぱりただの男と女。特別だったと思っていたものが他と変わらないって気付く。それどころか見えるのよ、相手の思惑が。いままでの全てを互いに知っているから。相手に飽きてきた時どんな顔をするのかも、どんなことに鬱陶しさを感じるかも、全部わかる。見たくなくても見えてしまう。こんな残酷な事はないって思ったわ。うまくいかなくなってからは、地獄だった。P161

 

 

美穂は現在他の人と結婚していますが、別れた”男ともだち”のように頼れる存在はもういません。もし今の夫と何かあったとしても頼れる女ともだちすらいないと言います。だから神名には絶対にハセオとの関係を恋愛感情だと錯覚しないように忠告します。30代にもなると女ともだちも家庭を持ち、気軽に相談したり、居場所がなくなった時に泊めてくれる存在ではなくなること。本当の意味のともだちなどいないことに気づいてしまうこと。いかに”男ともだち”の存在が必要だったかということ。そんな美穂の話には胸が痛くなってしまいました。

 

美穂はきっと”男ともだち”と恋人になっていなかったら、今頃まだ独身だったのでしょうね。似た者同士の彼がそばいることで、どんな状況でも安心して生きていられたのだと思います。現在の美穂は結婚したものの、自身が生活力を持たない不安から、もし夫と別れることになった場合の保険として常に他の男をキープする必要があるとも言っています。いざという時の相談役はそうすることでしか手に入れられないと思っているようです。それに比べ神名にはイラストレーターとしての職があり、自立できていることから、万が一ひとりになっても男(結婚)を頼らなくてもいいから羨ましいとも言い・・

 

確かに何の才能もない人間からすると、神名のような女性の生き方はそう思うかもしれません。しかし、このふたりの決定的な違いはそこではなく、神名はどんなことがあってもハセオを恋人にはしないところだと思います。神名が必要としているのは異性ではなく、自分を見捨てずにいてくれる人間です。ハセオはまさにそれなんです。こんな人が目の前から消えたら誰でも精神のバランスが取れなくなってしまう。だからこそはじめからハセオは異性でも友人でもなく、”男ともだち”なのです。失ってはいけない、一生の関係なのです。

 

 

<感想>
神名も一時はハセオとの関係に悩み、苦しみます。ハセオを失いたくないから恋人になった方がいいのではないかと。本当はハセオは自分のことが好きなのでは?とも。ただ、そうなったら逆にハセオとの関係が終わることも美穂からの忠告で知っています。まさにイチかバチかの選択に迫られていたとき、行きつけのバーのママから「そんなのは寝てしまえばすぐに終わること」と言われハッとします。

 

関係性を確かめたかったら一度寝ればすぐわかる。ハセオにとって神名はその他大勢の女になり、二度と困った時に現れなくなる、と。

 

まぁそういうものなのでしょう。異性ではない女だから「特別」なんですよね。恋愛感情ではなく、失いたくないから恋人になろうとすると歪みが出てしまうのは分かる気がします。

 

私は全然男女の友情はアリだと思いますが、結局周囲がそれを許さないし、理解されないのが辛いところ。必ずしも異性=性の対象というわけではないのに。

 

でも70歳、80歳とかになっても超仲良しの”男ともだち””女ともだち”とかいたらかっこよくないですか?

 

もう家族こえてるだろう!と思いますよ。血が繋がっていても、仲良くない家族なんて腐るほどいるのに、他人で、しかも異性でずっと友情を刻めるなんて素晴らしいではありませんか。

 

男女年齢限らず純粋な愛情だけでここまでの関係を築ける人がいるだけで、人生儲けものだと思います。

 

ちなみに私はどの登場人物もあまり好きじゃなかったです。ごめんなさい。それでも、ところどころ彼らが放つ名言にはグッとくるものがあったのでみなさんもお楽しみに。

 

 

以上、『男ともだち』のレビューでした!


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