さぁ、短編小説が苦手な私が最近読んだ「ん~、ちょっとノリきれなかったなぁ」という短編を紹介するコーナーがやって参りました。

 

ここでは何度も言うように、私は短編なるものが苦手でして、それでも読まず嫌いをなくそうとたまーに気になる本を何冊か読むのですが、いざ読んでみると大当たりの作品も見つかったりして、特にここ最近は”順調”でした。それで調子に乗っていたのでしょうね。あろうことか、長編を読んだ時も(個人的に)余白の想像が難しいなと思っていた千早茜さんの短編に挑戦してしまったのですから。仕方ないんですよ。千早さんの作品って、あらすじが面白くて読みたくなってしまうんです。消化不良になるとわかっていても気になるのだから私の負け。というわけで、今回はそんな私が読むまでに3日もかかってしまった千早茜さんの「正しい女たち」をレビューしたいと思います。

 

 

まず、私が本書を読もうと思ったきっかけは、「話題にしにくい最大の関心事」がテーマになっているというネットの口コミを見て、野次馬根性が爆発したからでした。他人の触れづらいことを覗き見する感じっていうんですか?そういうの、性格が悪いのでワクワクします。しかし実際読んでみると、私の期待が相当ゲスだったのか、そんなに話題にしにくいようなテーマは見当たりませんでした。なんというか、今の時代って相手を傷つけないように言葉を選ばなければならない一方で、なんでもズケズケ言うのもアリみたいな雰囲気も合わさっているので。そうだな・・ネット掲示板を読んでいる感覚といったらいいのでしょうか。ああいう場所に書かれていることが物語化されている印象でした。

 

 

収録されているのは、「温室の友情」「海辺の先生」「偽物のセックス」「幸福な離婚」「桃のプライド」「描かれた若さ」の全6つ。

 

「温室の友情」は、中学~大学までエスカレーター式の私立校で出会った仲良し女子4人組の物語。遼子と環と麻美と恵奈は、太っても痩せてもなく、目立って愚図でも飛び抜けて優秀でもない普通の女の子です。しかし彼女らの友情は、クラスで一人ぼっちになったり、カースト下位の地味なグループに属することから逃れた結果の集合体でした。特に遼子と恵奈は、考え方が似ており、制服の着こなしや背格好、はじめての彼氏ができるタイミングなども同じで、その「同じ」であることに安心感を得ていました。

 

「女の友情はもろいから、ちょっとした環境の違いでひびが入るから、こうやって同じように進んでいくのが一番正しい道。そうしなきゃ、一人ぼっちになってしまうから。」(P39)

 

ふたりはその後も大学、就職と順調に「同じ生き方」を歩んでいきました。一方、環は芸能事務所に入り、麻美は既に結婚し、子育ての真っ只中にいました。当然ふたりは彼女たちと話が合わなくなっていき、専業主婦の麻美にいたっては会う機会すらなくなっていきました。

 

そんな時、もうすぐ付き合っている彼からプロポーズされそうな遼子は、恵奈が不倫していることを知りショックを受けます。このままでは恵奈とずっと同じではいられなくなる、一人ぼっちで生きていくことになる。そう焦った遼子は、恵奈に内緒で不倫相手の家に突撃し、見事別れさせることに成功、その後、恵奈に良い人を紹介し、「同じ」タイミングで結婚することになりました。こうしてふたりは、ずっと同じ環境で友達を続けられるわけですが、そこまでしてひとりぼっちになりたくない女ってさすがに怖くないですか?むしろ別の人生を歩むことを孤独と思っている時点で、遼子の正しさがとてもメンドクサイものだなぁと感じました。

 

 

「幸福な離婚」では、結婚生活にピリオドを打つことにした夫婦の姿が描かれています。「イツキはイツキだけど、生涯一緒にいるのだと誓ったイツキではなくて、あと四ヶ月半で離れることが決まっているイツキなのだと、いつものように自分に言いきかす」という台詞があるように、夫婦は離婚届を提出するまでの数か月間を楽しむことにします。結婚していた時は相手を傷つけることばかりしていたのに、離婚が決まったとたん互いとの時間を大切に思う夫婦を見ていると「離婚」が幸せを教えてくれることもあるのではないかと思いました。

 

 

「描かれた若さ」は一番好きな話でしたね。「婚約指輪の代わりに肖像画が欲しい」と婚約者に頼まれ、画家が住んでいる廃校に通うオッサン。しかしそこには、画家らしき人物は現れず、代わりに20人以上の女子高生がいました。彼女たちはオッサンを見て、容姿や話し方をオヤジくさいと囃し立て、陰口を叩きます。

 

実はこのオッサン、女子高生たちにこう言われても仕方がない人間なんですよ。だから全然気の毒じゃありません。むしろいい気味。そもそもオッサンが婚約者を選んだ理由は「付き合った中で一番若くてスタイルがいいから」なんですよ。けっ。しかもオッサンは過去に29歳の元カノに「誰がお前みたいな年増をもらうか、もう卵子だって腐ってるだろ」と言い放ち、別れています。

 

女性は男性から「女の賞味期限」を付けられ、その言葉に怯え、傷つきながら生きています。それを今、オッサンは肖像画のモデルを通して、女子高生に値踏みされ、見られることで、まさに実感しているのです!ざまあみろ!若い時から年齢を意識してきた女性とは違い、見られることに不慣れなオッサンの慌てようと怒りは少し笑えます。ちなみに途中まで描かれた肖像画には、脂ぎった薄毛のオッサンのありのままの姿が再現されていました。自分だけが歳を取らないと思っているオッサンほど残念な生き物はいませんね!どんまい。

 

 

はい、こんな感じで3つほど紹介させていただきました。面白そう!という方はぜひ読んでみてください。全体の感想としては大人の女性の本という印象でした。

 

そうそう、言い忘れていましたが、この短編にはちょいちょい前の話に登場した人物が現れます。この人とあの人は繋がっていたのね~という楽しみ方もできるので、最初からよーく読んでみてくださいね。

 

こうしてレビューを書いていると、え?全然面白くないなんてことないじゃん!と、セルフツッコミできそうですが、おそらく私がノリきれなかった理由は、本書を読むタイミングだったのだと思います。千早さんの文章って淡々としているところが特徴だと思うのですが、それに加え本書はあまりハッピーじゃない話が多かったので、あまりスラスラっと読み進められなかったのかなと。読めば読むほど、何が正しくて、何が正しくないのかわからなくなるし、登場人物たちもみんなモヤモヤしていて気分が塞ぐのだけれど、文章だけはサクサクと進んでいくので、頭と心の理解が追いつかなくなってしまったのだと思います。

 

私自身がハッピーな時に読んでいれば、ここまで読後感に寂しさやモヤモヤ感もなかったはず。レビューしているときは、頭がサッパリしているので、今読めば別な見方ができるのだろうと思っています。(そういう本ってありません?)

 

というわけで、大半の方には気に入っていただける作品だと思うので、みなさんは安心して読んでみてくださいね。楽しくないときや疲れているとき以外に読むことを忘れずに。刺さる人にはとても刺さる一冊です。

 

以上、「正しい女たち」のレビューでした!!

 

 

 

 

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