久しぶりに山口恵以子さんを読みました。

 

 

 

これ、めちゃくちゃ面白かったです!

 

 

十六歳で両親を亡くしたりつ子は持ち前の闘争心で境遇に逆らい、猛烈な努力で自らの夢を次々実現してきた。東大合格、名家の御曹司との結婚、双子誕生。それでもなお嫁ぎ先で見下される彼女は、次なる目標を子どもたちの教育に定めた。あなたたちにも幸せになってほしいから――。努力と幸福を信じて猛進する女の悲喜劇を描く長篇。

 

 

教育虐待がテーマになっているのかもしれませんが、実際はもっと複雑です。なんというか母親のガッツが凄すぎる。

 

りつ子は両親を16歳で亡くし、その後父方の祖父母に引き取られます。しかし、りつ子の両親はかけおちの末に結婚していたため、初めて会う祖父母が明治に財閥を築いた玉垣家の三代目だと知りびっくり仰天。一気にお嬢様生活を送ることになります。急にできたお金持ちの祖父母や、お育ちの良い親戚たちに戸惑うりつ子。肩身の狭い豪邸での暮らしと、「ごきげんよう」とあいさつする優雅な新しい同級生たちとの学校生活が肌に合わず、前の暮らしが恋しくなってしまいます。

 

お稽古だ~、学習院だ~、なんだかんだ~と強要されていくうちに、すっかり反発したくなったりつ子は東大受験を目指すことですべてから逃れようと決意します。ちょうど家や学校で「玉垣家一族から脱落した人間の子ども」と差別されていたことからも、だったら大学は学習院以外に入ったるわボケ、最高学府に入ってぎゃふんと言わせたろ精神で立ち向かうことにしたのです。

 

が、その読みは間違いでした。りつ子は根性で東大に合格したものの、従姉妹から「東大なんて行ってどうするの?うちの会社には東大出た人ばかりよ」と言われて気づきます。玉垣家の人々にとって東大卒は単なる使用人にすぎす、重要なのは先祖が教科書に載っているとか、皇族と縁戚関係があるとか、特権があるとか、コネがあるとか、そういうことであったことを!

 

絶対に玉垣家に顎で使われる立場にはなりたくない!と焦ったりつ子は、方向転換をし、持ち前の美貌で玉の輿に乗ります。相手は旧公家華族・大鷹家の跡取り迪彦。現在は通信社に勤務しており、これなら成金の玉垣家に勝利できる!と舞い上がります。しかしこの結婚は地獄の始まりでした。

 

 

 

 疎外感

 

りつ子を待っていたのは、玉垣家での生活以上の疎外感でした。大鷹家では姑と上手くいかず、迪彦の妹たちからも差別されることになります。そもそも姑は結婚に反対しており、どうしても結婚したいなら子どもを中絶しろとまで言ったくらいの人です。しかもそれを受け入れて結婚したりつ子は、その後2回流産をすることになります。苦難の末、ようやく授かった二卵性双生児も片割れを姑に取られてしまい・・・。

 

 

 

 息子と娘

 

姑が贔屓したのは長男の倫太郎でした。理由は男児であることもそうですが、迪彦にそっくりで育てやすく、優秀な子だったから。一方、長女の星良は生まれた時から手がかかり、容姿も大鷹家の遺伝子を色濃く引き継ぐお世辞にも美人とは言えない子でした。それだけが理由で差別されるなんて!信じられない!と、思いますよね。この時はまだりつ子も星良に悲しい思いをさせたくないと必死で、絶対に倫太郎と平等に育てる!と燃えていました。ところが・・・

 

 

 

 お受験の明暗

 

大鷹家に生まれた以上、お受験は必須です。しかも小学校受験からです。そこでただでさえ差別されている星良が合格できなかったら、この子の立場がなくなってしまうと危機感を抱いたりつ子は一気にお受験ママへと変貌を遂げてしまいます。幸い双子は共に優秀で(さすがりつ子の東大遺伝子!)、塾でもトップの成績をキープしていましたが、なぜか星良は本番に弱く併願校で不合格を連発してしまいます。焦ったりつ子は星良を叱り、ついには手をあげ・・。そんなことを続けているうちに、とうとう星良は試験前に肺炎になったり、試験会場で嘔吐したりするようになり、結局受験は全滅で終了します。

 

「倫太郎はどこを受けても合格するのになぜ・・」「星良のせいでやっぱり母親の血が悪いからと責められる」

 

このままでは自分の立場も危うい。そう警戒したりつ子は中学受験で逆転を狙おうと張り切ります。

 

 

 

 こんなはずじゃなかったのに

 

こうしてりつ子の星良への教育虐待はエスカレートしていくのですが、そんな妻の姿に迪彦は嫌気がさしてきます。このままでは星良がかわいそうだとお受験をやめるように説得するものの、りつ子は聴く耳を持たず、最終的には夫婦関係も破綻してしまいます。やがて母親恐怖症に陥った星良は、過食嘔吐やリストカットをするようになり、りつ子から逃れたい一心で自立への道を模索します。

 

そんなことに気づかないりつ子は、永遠に星良のために、星良が馬鹿にされない人生を送るためにと、干渉をやめません。それは憎き姑が亡くなっても治まらず、りつ子の考える娘の完璧な人生には終わりがありませんでした。

 

 

 

 感想

 

何をやっても上手くできちゃう器用な倫太郎。何をするにも人一倍時間のかかる星良。素直な倫太郎と卑屈な星良。これが姑と母親の双子評でした。

 

同じ子どもでも全然違うのは当たり前で、同じ親でも子どもにとって良い親か悪い親かは相性によって評価が違う。

 

問題はそこかなぁと思いました。多分、親からほったらかしにされていた子からすると星良は羨ましい子どもかもしれません。なんでそんなにお金も時間も手もかけてもらっているのに嫌なの?と。自分だけに注目してもらえたら私だったら張り切っちゃうのにと。けれども親の期待がプレッシャーになるタイプの子だとそれはお荷物でしかありません。

 

ただねぇ~、やっぱり「子どもの幸せ」だと思ってやっていることって結局「親のための幸せ」なんですよね。自分が素晴らしい母親だと周りから認められるためにやっていることが「子どもの幸せ」なんだと思います。

 

さらにりつ子の場合は凡人にはないガッツとエネルギーがあるわけで。あのパワーが子どもではなく、社会に向けられていたら最強のお母さんになっていたのではないかと全読者は思うんですよ。

 

りつ子も差別を受けなければきっと家柄や血筋を気にすることなく、もっと肩の力を抜いて生きられただろうに。冗談ではなく真剣に、子育てへのパワーが仕事に向いていたら、彼女自身あれほど星良に執着しなくて済んだのになと思います。

 

私は星良を心の底から気の毒だと思ったし、なんども物語の中に入って「あなたはダメな子なんかじゃないよ」と伝えに行きたくなりました。誤った選択をしているりつ子にも星良のいいところを気づかせに行きたくなるほどでした。

 

りつ子自身がありのままの自分を認めてもらえず、否定されつづけことに傷ついていたはずなのに、それと同じ経験を娘にさせてしまうなんて辛すぎます。ただ、星良はそんな母親を反面教師にできたので良かったです。

 

ちょっと内容はハードなんですが、ブラックコメディ風に書かれているので暗い気持ちにはなりません。むしろ一気に読めます。

 

子どもを大人のしょうもない争いに巻き込んではいけない。変な空気というものは年齢関係なく感じ取れる子には簡単に伝わってしまうので、できるだけ作らないように心がけてほしい。

 

そういう子ほど毒親の餌食になってしまうので。本当に損な役回り。

 

子どもは親の代理ではない。それを学べる一冊として、「自分も毒になりかけているかもしれない」と心配な方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

 

子どもを毒殺する親にならないために・・

 

 

以上、『毒親ですが、なにか』のレビューでした!

 

 

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