わたしは誕生日すら祝ってもらえない――。冷えきった夫との関係や子どもとの生活に孤独感を募らせていた沢辻涼子は、我慢の糸が切れたある日、家出を決行する。飛び出した夜の街で出会ったのは、洞察力と推理力に優れた美しいBARのママ、野宮ルナ。ルナに自分が抱える報われなさの正体が「大学時代の元彼」であることを言い当てられた涼子は、彼女と二人で元彼を探すため大阪へ旅に出ることに……。元彼探しが難航する中、次々と事件に巻き込まれる二人は、無事に想い人と再会できるのか――。仕掛けに騙され泣かされる、圧巻のサプライズエンディング!(あらすじより)

 

45歳の誕生日に家族を捨てることにした涼子は、夫の浮気相手が勤める高級ラウンジに乗り込みます。しかし現場に向かう途中のエレベーターで他店の客と間違えられ、誘われるがまま入店してしまいます。

 

そこは美しいママが経営するバーで、涼子は聞き上手なママに乗せられて家族の悩みや、忘れられない元カレの話をしてしまいます。すると、ママから元カレを探しに行く計画を持ち掛けられ、急きょ二人で旅をすること。もちろん家族には黙って・・・。

 

向かったのは元カレの実家がある大阪。学生時代に元カレが「実家が会社をしている」と言っていたこと以外まったくの手がかりがないものの、ママ発案の「電話帳から片っ端に商売をしている”佐藤さん”をピックアップして直接訪ねるしかない」作戦で地道な元カレ探しが始まります。

 

ちなみに元カレの名前は佐藤和人。ふたりは佐藤さんが経営する会社を回っていくのですが、全国的に多い名字であることからなかなか本人を知る人にすら出会えません。しかも、ふつうに人探しをしても警戒されるということで、毎回ママがお客になりすまし大金を落としてくれるというサービスっぷり。涼子は自分のためにここまでしてくれるママに申し訳なくなってしまいー

 

と、思いきや

 

実はママが大阪にやって来たのには涼子の手伝いの他に理由があります。それは大阪で大好きな文学巡りをすることです。ママは大の本好きで、数々の小説の聖地として有名な大阪で文学巡りをするのが夢でした。

 

本書には物語で実際にふたりが巡った聖地が<大阪旅MAP>となり、特別に書き下ろしたサイドストーリーと共にフリーペーパー化されて付いてくるのでお楽しみに。谷崎潤一郎『卍』の阪神電車大阪梅田駅、近松門左衛門『曽根崎心中』の露天神社など多くの聖地を巡るので、文学好きにはワクワクする一冊になっているでしょう。

 

そんな人探し兼聖地巡礼を目的とした旅ですが、ふたりは行く先々で事件に巻き込まれます。しかし、その度にミステリー小説を読み込んだママの推理で事件が解決していき、ママは警察からも驚かれるという展開に。

 

そんなバカなぁと思われるかもしれませんが、やはり本を読んでいる人の脳内アンテナは凄いです。色んな本からの知識を総動員させるので推理能力がずば抜けているのです。また、毎回ボケボケの涼子が発する一言がママの推理を完全体に持ち込んでいくというのも見どころになっています。

 

こうして色々な事件を解決していくうちに、ついに佐藤和人に辿り着くのですが、ここら辺の詳細は省いておきますね。絶対に直接読んだほうがいいと思うので。

 

言い忘れていましたが、ママは元男性の女性です。現在はホルモン治療と手術で体も女性になっていますが、ここまで来るのにとてつもない苦労がありました。私はずっとママが佐藤和人なのでは?と疑っていたのですが、それは違って一安心。だって偶然立ち寄ったバーのママがわざわざお金を使って人探しに協力してくれるのは不自然ですからね。

 

ただ、もうひとつ気になることもあって・・それはママが愛する男性のことです。これ以上は言ったらネタバレになりそうなので控えますが、もしかしてママはこれが理由で涼子と旅をしているのではないかな?という予想のほうは当たっていたんですよね。わりと先が読めてしまうタイプの本かもしれませんが、編集者だったり、小説家だったり、読書家だったり、本に関わる人物がちょくちょく登場するので読書家のみなさんにオススメです。

 

あとはそうだなぁ。とにかくこの本を読んでいる間は大阪に行きたくなりましたね。普段地元にはない賑やかで明るい場所。あそこにも行ってみたいし、ここにも行ってみたい。そんな風にも思える旅小説でもあるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

 

 

以上、『月夜行路』のレビューでした!

 

 

 

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