今回ご紹介するのは、伊東順子さんの『韓国カルチャー隣人の素顔と現在』の続編になります。

 

第一弾では韓国ドラマや映画などから韓国社会のリアルを考察する内容になっていましたが、第二弾では数々の賞を受賞した映画や配信ドラマをメインに韓国社会の「歴史」の変化を考察する内容になっています。前作を読んで面白かったので続編も読んでみたのですが、今回は紹介されている映像作品すべて知らないものばかりでした。

 

”韓国カルチャー”をテーマにした本でありながら、相変わらず韓国エンタメに詳しくない私(笑)そもそも普段は映像<文学なので、この手のジャンルはさっぱりで。じゃあなぜわざわざ畑違いの本を読むのだと言われると、筆者の本は該当する作品を観ていなくともレビューが上手すぎるため、興味深く楽しめるからです。おそらく実際に映像で観ると集中力をなくしてリタイアすると思うのですが、文字で鑑賞する分には面白く・・・、むしろ文章目当てで読んでいます。

 

きっとこんな読み方をしているのは私だけですよね。まぁいい、楽しみ方は人それぞれ。さっそくですが、簡単なレビューをどうぞ。

 

 

 

 ホラー、バイオレンス作品について

 

韓国ドラマや映画の中で、個人的に苦手なのがグロ系バイオレンス作品です。ちょっといくらなんでも過激すぎやしません?流血しすぎですやん?サイコパスなの?というくらい暴力シーンがしつこいと思っています。その例として紹介されているのが、ドラマ『今、私たちの学校は・・・』になります。

 

こちらは高校を舞台にしたゾンビ系ドラマで、新型コロナのパンデミックから数年後にゾンビウイルスが蔓延するという物語。ウイルスの発生源は高校の科学備品室で、そこで変われていたハムスターに指を噛まれた女子校生が最初の感染者となり、ゾンビ化します。感染者に噛まれた人はゾンビになるという設定で、感染はあっという間に校内に広がり、その日のうちに市中にも広がります。そこで政府は軍を動員して市全体を封鎖し、現場は大混乱となります。

 

実はこのドラマ、高校が舞台でありながらR18指定されているため、高校生は鑑賞できません。ドラマではいじめや性暴力などのシーンが非常にリアルかつ生々しく描かれているためそのようにしているのだとか。また、暴言や卑俗後の使用頻度も高く、生徒の喫煙、自殺、切断された死骸などのシーンもあり、子供たちが模倣する危険性があるとのこと。残念ながらR指定をかけても、実際は子供もドラマを観ていることは既に『イカゲーム』で実証されています。

 

そんなことをわかっていながら、なぜここまでのバイオレンス系をやってしまうのか。それは「今、私たちの学校はどうなっているか」を知る必要があるのは「大人たち」であるからだと考えられています。真の問題は大人たちにあるのだと。

 

しかし私にはどんな理由があろうとも、ここは戦場か?というレベルのバイオレンス系作品は(辛口ですが)そこまでする意味がわかりません。これについては韓国内でも『地獄のような現実を明らかにするという美名のもとに、残酷に捨てられ、殺され、墜落する若者たちの姿をエンタメとして消費しているのではないか(テレビ評論家キム・ソンヨン)』という意見もあるそうです。現在はこの意見に同調する人も多く、同様の作品を含めて『ティーンエージャーの苦しみを成人向けジャンルとして楽しむこと』を問題視する声も少なくないと聞き、少し安心しました。正直なところ、韓国ではエンタメを盛り上げようとするあまり、なりふり構わなくなっているのではないかと危惧する部分もあったので、こうした冷静な意見があるのはとてもいいことだと思いました。

 

 

 

 戦争、軍隊作品について

 

今回は「歴史」の変化を考察するということだったので、戦争を扱った作品のレビューが多かったです。そのせいか、前回よりはやや似たような内容が続く感じを受けてしまったのですが、その中でも印象的だったのは軍隊を描いたドラマ・映画です。

 

韓国の軍隊というと、芸能人たちが入隊するとニュースになり、アスリートが金メダルを取ると兵役を免れることが話題になるイメージがあります。とにかくみんな本音では行きたくない(当たり前)、軍隊ではいじめがある・・そんなダークなイメージがありました。

 

本書ではそんな今まで何となくでしか知らなかった軍隊内部について初めて語ったドラマ『D.P.ー脱走兵追跡官ー』が紹介されています。ドラマ『D.P.』では軍隊内での暴力やいじめのシーンが多く、中には辛くなって途中で見るのをやめた人もいるそうです。しかし、この10年間で韓国軍は劇的に変わり、ドラマのような理不尽な暴力はかなり減っているのだとか。

 

実は韓国では軍部隊内で重大な事件が2件も発生しており、政府は責任を問われ、すぐさま調査した結果4000件にもおよぶいじめや暴行事件が発覚したそうです。これを機に韓国軍の内部では人権問題についての点検が行われ、さまざまな改善策がとられたことがプラスに働き、現在では「今の軍隊は小中学校よりも親切だ」という意見まで出ています。

 

それでもすべての問題が解決したわけではありません。決して「過去のこと」とは言い切れない軍隊内部の問題。どうやら『D.P.』にはシーズン2も準備されているとかいないとかで、そこには新たな問題にも踏み込んでくるのではないかと言われています。

 

このように今までタブー視されてきたことに踏む混むのが韓国作品の良さだと思います。国をあげて成熟しようとする強い意志を感じます。

 

 

 

 タワマン共和国

 

韓国といったら再開発の国といった印象も強いです。よく韓国に行く人は行く度に景色が変わると言います。それほど急速にあった物がなくなり、無かったものが建てられる、なんだか忙しい印象があります。

 

その象徴といえるのがタワマンです。韓国人といったら一戸建てではなく、次々と建てられる高層マンションに住んでいるイメージ。いつかはがむしゃらに新しくする文化も落ち着きをみせるのでは?と思っていましたが、韓国にはそれがなく、むしろ加速しているのが本当に不思議です。本書では韓国がそうなっていった過程を描いた作品がいくつか紹介されていますが、そこで毎回思うのは「私は韓国で生きていけない」ということ。変化のはやさに疲れてしまいそうで・・。

 

面白かったのは、かつて韓国では毛嫌いされていた犬猫たちが、男性の権威失墜とともに向上していること(笑)女家族を暴力で支配してきた男たちが今では「このままでは犬以下になってしまうかもしれない」と嘆く姿が時代の変化を映し出しているようで笑ってしまいました(映画『ほえる犬は噛まない』より)。

 

韓国人たちの少しでも高い所へ、という精神はいつまで続くのか。たどり着いたとき、はたしてこれが自分たちの望んだものだったのかと虚しくなるときは来ないのだろうか。実はもう既に疲弊している人がほとんどではないのか。タワマンが高くなればなるほどそんな風に思えてしかたありません。

 

 

 

 感想

 

本書や韓国エンタメを観ていて思うのは、韓国人は説明を好むということです。どんな小さなことにも必ず説明を入れたがるし、だから長くなるということ。それが悪いというわけでなく、韓国人のつくる作品は常に彼らが頭の中で模索していることがダイレクトに反映されているな、と思うのです。一方日本人は説明よりも想像を好む傾向にあり、あまり作り手が特定の意味のようなものを持たせようとは(音楽の歌詞にも言えますが)しません。これは漫画大国であることが理由のひとつでもあるかもしれませんが、日本人は無意識に”間”を好んだり、それぞれの解釈なるものを好みます。

 

お隣の国だけれど、とことん真逆な発想をする国で、得意不得意も全然違う国。というのが、私が日韓に持つ印象です。

 

前回レビューが長くなってしまったので、本書で取り上げられた作品をかなり端折ってしまいましたが、一部を紹介するとこんな感じです。

 

 

本書で取り上げる作品は『今、私たちの学校は…』『未成年裁判』『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『ブラザーフッド』『スウィング・キッズ』『リトル・フォレスト 春夏秋冬』『子猫をお願い』『シークレット・サンシャイン』『私たちのブルース』『シスターズ』『D.P.-脱走兵追跡官-』『猫たちのアパートメント』『はちどり』『別れる決心』など。(あらすじより)

 

 

気になる方はぜひ視聴してみてくださいね。本が苦手~という方は映像を先に読んでから本書を読むのがいいかもしれません。もし第一弾を読んでいない方は、そちらを先に読んだ方が映像含め取っ掛かりやすいと思います。何か面白い映画やドラマはないかなぁという方は韓国カルチャーシリーズを参考にしてみてくださいね。

 

 

以上、『続・韓国カルチャー描かれた「歴史」と社会の変化』のレビューでした!