こちらは日本でも流行っている韓国ドラマや映画、小説などのさまざまなカルチャーから見た韓国のリアルな姿を考察する一冊になっています。

 

といっても、実は私、普段は韓国ドラマどころか日本のドラマや映画すら観ていなくて、触れているといったら専ら日本と(たまに海外の)小説くらいなんですよね・・。それでも一応「愛の不時着」「梨泰院クラス」といった韓国ドラマの名前くらいは知っていて、近年では「パラサイト」「ミナリ」といった映画もアツいことは小耳に挟んでいたので、どれどれそんなに面白いのかい?私も観て見ようかなぁ、でも全部映像で把握するのは時間がかかるしなぁ、あ!とりあえずこの全体を網羅してるっぽい本でサクッと内容を確認してみよう!と思い、本書を読んでみたのですが、いやぁこれが面白い!!読んでいるうちに、全部観たくなってくるではありませんか!

 

私の中の韓国ドラマのイメージとは、長年、「出生の秘密」「交通事故」「記憶喪失」「不倫」「格差恋愛」、あとはやたらモザイクがある、同じシーンなのにいきなり役者の髪型が変わる!とかだったのですが現在は全然違うみたいですね。どうやら最近は韓国の社会問題を取り入れた作品がトレンドになっており進化しているようです。また、韓国社会特有の変化の激しさと連動して、つい最近まで放送していたドラマですらすぐに「過去の物語」となることから、作り手もどんどん新しい要素を取り入れて視聴者を飽きさせない工夫を凝らしていることがわかります。

 

おそらく今は、韓国人の創作欲とネット配信で動画視聴するという時代が重なっているのも韓国ドラマブームの大きな要因になっているのでしょうね。音楽も映像作品もそうなんですが、わりと欧米や日本ではやりつくした感があって、エンタメがかつてほど刺さらなくなり、創作意欲も昔ほど感じられなくなっている中、韓国は今がまさにその時!って感じでやる気や夢に満ちた空気がスゴイんですよね。そしてスピード感もある。

 

いつも思うのが韓国は日本の90年代のようなパワーをずっと維持して制作しているように見えること。ただ、これまでの韓流ドラマ(私が観ていた頃はそう呼ばれていた)はどこか「自分たちをきれいに見せることに一生懸命」という印象があり、そこに違和感がありました。しかし、現在はダークな部分も普通に見せているらしく非常に興味深いです。

 

さらにもう一点、私が韓流ドラマで苦手だったのが「余白のないところ」でした。とにかく全部を説明してくれて、長い!!あれだけ時間をかけたのにも関わらず、この人とこの人の会話成り立ってないじゃん!という場面もしばしば。韓国文学を読んでいても「私の声を知ってほしい」というメッセージ性が強くて、少々息苦しかったのですが、今は良い感じに力が抜けて、こちら側に思考させてくれる余白を残しているみたいです。多分、韓国は今後文学方面でも力をつけてくるんじゃないかなぁ。

 

一番いいなぁと思ったのは、自分たちに足りないところをストレートに欲して、手にし、アップグレードするパワー。エンタメを通して、韓国社会がどんどん成熟しているのが伝わってきます。ここが慎重な日本人とは全然違うところ。そんな彼らに対し、個人的に疑問を抱いたのは、なぜこれだけ変化に向かって突き進む社会がいまだにルッキズム(背の高さ、肌の白さ、細さへのこだわり・監視)だけには寛容なのだろう?ということ。

 

筆者も韓国人の美意識と韓国人学生の垢抜け感を絶賛していましたが、私はそこに闇を感じるんですよね。世界がモデルのダイエットに警鐘を鳴らす中、K-POPアイドルはスタイル至上主義で逆行している感が否めないような・・。

 

日本も一昔前は俳優といったら美男美女が当たり前な空気がありましたが、私が小学生くらいの頃にテレビでハリウッドスターが「なぜ日本人は役者にキレイな容姿を求めるの?普通の社会を描く作品に普通の人がいないなんておかしい」的なことを言っていたのがすごく印象的だった記憶があります。

 

それ以降かな?日本の芸能界にもどんどん普通っぽい見た目の人が増えてきて、芸能人と一般人にそこまで差がなくなってきたように感じます。だからこそ日本の若い子にとって、ガチガチのTHE芸能人っぽい容姿とオーラを身にまとった人だらけの韓国芸能界は新鮮に見えるのでしょう。

 

日本の場合は、普通っぽさを受け入れるのなら芸に力を入れるべきところを(言い方が悪いけれど)見た目も芸も捨てたから芸能人にプロっぽさがなくなっちゃったように見えます。きっと時間はかかっても、いずれ韓国も普通を受け入れるようになるでしょう。筆者も言っていますが、あちらの俳優さんは演技も上手く、アーティストたちもダンスや歌も一流を目指してのデビューですから、容姿だけで勝負しなくても何とかなってくる備えはあると思います。

 

そんな流れは無視して、韓国人の美意識は凄いよ!日本人は地味だなぁなんて言葉だけが伝わっちゃうと、若い子が間違った方向へいかないか心配です。過剰なダイエットに整形への手軽な願望。SNSで自分の容姿にダメだしして、それがすべてになってしまっている子が多いです。日本の若者は校則なんてクソくらえ!で、メイク文化に至っては黒ギャルまで突き進んだ時代を経た結果、今の大人しい自然体ファッションメイクに辿り着いた背景があるので、あまり前後を見ずに間違った捉え方で憧れを抱くのは違うかなぁとも思うんですよね。

 

それこそ私が10代20代の頃なんて、メイクといったらアイラインがっつり、つけまもがっつり、チークもがっつり、どこでもフルメイクな時代でしたからね。そのときアメリカ人からは「えっ普段から日本人はパーティーに行くみたいなメイクしてんの?うちらは普段めっちゃカジュアルよ」と言われて驚いたものです。当時は韓国人も「日本人といったら茶髪にチークだよね」と言っていたくらい。それが不思議なもので、今や日本人がナチュラルになり、韓国人がケバ目になっているのですからね。
 

でも、またどこかで変わるんですよ。そして変わるときには何かしらの意味があってそうなるんですよ。実際、現在のK-POPアイドルは少しずつ画一性の美から脱却しつつあります。日本人ももっと変化の意味を感じられれば、自分たちが今していることや、しなければならないことに自信や興味を見出せるのではないかなと思いました。

 

っとこんな感じで話が長くなりましたが最後に、本書で紹介されていた作品から面白そうだなと思ったものをピックアップします!

 

 

 

 

韓国の学歴社会を描いた「SKYキャッスル」。韓国は超学歴社会と言われますが、筆者は日本と違って韓国の受験システムはフェアだと語っています。日本のようなお金持ちが通うエスカレーター式の名門校や高額な学費がかかる私大医学部などの「特権者向けのコース」はなく、全員がフェアな競争のもと受験が行われるんだとか。だからあんなに受験熱が激しいのね。まぁ筆者が批判していた日本の中学受験は、フェアの犠牲になっている子の受け皿になっている面もあるので私は否定しませんが、こんなところにも文化の違いが見られて興味深いです。

 

ちなみに筆者が絶賛していたポートフォリオやAO入試含む韓国の入試制度ですが、日本があれを取り入れるに慎重になったのには教育格差の広がりを懸念したからなんですよね。実は勉強以外で評価するとは、そのまま経済力の差が大きく関わってくるからです。日本の場合、義務教育の中でフェアであることがどんどん足かせになってきている面もあり、これらは非常に難しい問題です。(学生に対し、あれこれ求めることは教育虐待だという声もある)

 

 

 

 

こちらは1980年の光州事件時の実話を基に描いた映画になります。本書の中でも筆者が特に強くオススメしていました!また、この作品に隠された背景の解説にはじ~んとくるものがありました。

 

 

何でもかんでも韓国を絶賛するのは違うと思いますが、他国の社会を知ることで日本社会の問題点に気づけることもあります。本書を読んで、ひとつひとつの作品が生まれた背景には、韓国の歴史と社会、そして変わり続ける「現在」があり、ただ作品を観ているだけではわからないことをたくさん知ることができました。

 

SNSを見ると評判の高い本なので、ぜひみなさんも手に取ってみてくださいね!

 

以上、「韓国カルチャー」のレビューでした!

 

 

 

 

 

<作品紹介>

韓国カルチャーが世界で人気を得る、その理由は?

韓国人にとってのパワーワード「ヒョン(兄)」の意味は?一般富裕層とは違う、財閥の役割とは?挨拶がわりの「ご飯を食べましたか?」が持つ意味は?

本書で取り上げるのは、小説・映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、ドラマ『サイコだけど大丈夫』『愛の不時着』『梨泰院クラス』『Mine』『SKYキャッスル』『賢い医師生活』、映画『南部軍』『ミナリ』『タクシー運転手 約束は海を越えて』、小説『もう死んでいる十二人の女たちと』『こびとが打ち上げた小さなボール』『野蛮なアリスさん』など……。近年話題となった小説、ドラマ、映画などのさまざまなカルチャーから見た、韓国のリアルな姿を考察する。

 

【主な内容】
・キム・ジヨンはなぜ秋夕の日に憑依したか?
・治癒のための韓国料理、チャンポンとテンジャンチゲ
・日本とほぼ同時期に始まった、北朝鮮の韓流ブーム
・男の友情を南北関係に重ねる、パワーワードとしての「ヒョン(兄)」
・性的マイノリティと梨泰院
・『ミナリ』は『パラサイト』とは真逆の映画かもしれない
・財閥ファミリーの結婚
・3年前に大ヒットした、もうひとつの「上流階級ドラマ」
・悩める40代、エリート医師たちはどんな人生を選択するのだろう?
・自分が属するステータスを表す「住まい」
・チョンセの起源とその功罪