「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。

 

<登場人物紹介>

全員のSNSプロフを見ただけで「わぁ・・」となります(笑)

 

 

(それぞれが留年、休学、留学、就職浪人やらで)大学5年生の拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良は、現在就活に苦戦しています。本書はそんな悩める5人の姿を、主人公の拓人視点で追っていく物語になります。

 

就活がテーマの小説を読むと、いつも「自分が現役のときにリアルタイムで読みたかったなぁ」と思います。といっても、そう悔やむ本のほとんどが当時はまだ存在していなかったので、どうしようもないのですが。

 

就活って自分が何者なのかを語らなければならない場面が多く、自己プロデュース力のある人は実際よりも大きい自分を表現することが出来て、その逞しさを羨ましいと思っていました。1を10に盛って語るなんて、嘘をついているようで気が引ける・・と怖気づくようではダメで、とにかく積極的に行かなければ!なんて思っていましたねぇ。就活が得意な人もいて、「なんであの子が!」という人物が大手から内定を貰うとかあるあるだったなー。

 

みんな何でも話しているようで、実は何も相談していなかったり。焦っているように見せかけて、自分よりも結果を出せていない子を見下していたり。今思うと、ただのクソガキですね。THE就活病。

 

 

 

 イタイ学生

 

「何者」に登場する5人も何かしらの就活病を患っている若者です。まず、理香は誰よりも就活に有利そうな肩書(留学経験、海外インターン歴、国際ボランティア歴、学祭実行委員活動歴、人脈など)を持ち、アピール力にも長けていますが、面接では空気を読めないどころか、企業が求めていることすら理解できずなかなか内定がでません。

 

理香の彼氏・隆良は、就活をしない自分を「特別」な人間だと思っています。会社勤めをしている人間よりも、自分のほうが感覚が鋭くて、繊細だから生きづらい。そんな言葉で自分を守り、結果よりも過程をみんなにアピールすることで、マウントをとっています。〇〇の公演に参加した、〇〇と知り合った、今こういうことを企画している、こういうことを考察している、周りは自分にこういうことを期待している。そう発信することで、周囲に自分の凄さを知ってもらおうと必死です。

 

しかしこのふたりは、過剰なまでの自己アピールが偽物であることを周囲から見透かされていることに気づいていません。

 

 

 等身大の学生

 

瑞月は大人しくて目立たない子ですが、急きょ家庭の事情から母親を支えなければならなくなります。そのため友人たちのようにアレコレ悩んでいる余裕はなく、卒業後も母親のケアがしやすい環境の職場を見つけるのに必死で、がむしゃらに就活した結果、内定者第一号になります。

 

瑞月の元カレ・光太郎は、隆良とは正反対の飾らない人間です。いつも等身大の自分で勝負し、就活も順調に進めていきますが、いざ内定し、会社の親睦会に参加すると、自分は面接が得意だっただけで、仕事内容に興味関心があったわけでないことに気づきます。そして同期たちがアツい夢を語る中、自分には何の熱量もないことに不安を覚え、社会人になることに初めて焦り出します。

 

こちらのふたりは、それなりに充実した大学生活を送ったものの、これからは社会の荒波でひとりで生きていかなければならない現実といち早く向き合うことになります。自分は学生モードからちゃんと社会人モードへとシフトチェンジできるのだろうかという不安がひしひしと伝わってきました。

 

 

 観察者

 

問題は拓人です。実は彼だけ就職浪人で1年ダブっているのです。それなのに、いつまでも内定がでない状況で・・。拓人には自分では気づかぬうちに他人を見下す癖がついています。自分よりも「残念」な理香や隆良を観察しながら、裏では小馬鹿にして笑っているのです。

 

みんな痛くてカッコ悪くても、今の自分のままで頑張るしかないからあがいているのに。他に選択肢がないからダサいとわかっていても、これでもかと自己アピールをしているだけ。なのに拓人はそんな友人たちを遠くから観察し、見下していました。

 

結局、理香も隆良も、そして拓人も、SNSで自分の努力や価値観を実況中継していないと立っていられない人間なんですね。そんな残念なところだけは一緒。彼らは周囲に特別で凄い自分を想像してもらうために、SNS上では何者かになった気分でいたかったのでしょう。何者かになりたいのであれば、他人に凄い自分を想像してもらうのではなく、自ら泥臭く行かなければならないのに・・・。

 

本当はめちゃくちゃカッコ悪くてもがむゃらに生きている人たちを見るのが眩しかった拓人。カッコ悪い自分となんて向き合いたくなかったのです。ついには友人たちが内定を決めても、素直に喜べず、その会社の悪口が書かれていないかネット検索する始末。

 

何者かになりたくて拗らせてしまった者と、そうでない者。最終的にはそれが就活の結果を二分したようです。

 

 

 自己分析

 

全部読んでみると、内定を得た子たちは自己分析がきちんと出来ていたんだなぁと思います。理香のように武器を集めるのも大切ですが、彼女はその使い方がよくありませんでした。自己アピールは得意でも、面接官が求めていることをわかっていない。グループ面接でも目立とうとするあまり、周囲の空気が冷やかになっていることに気づかず、ひとり自分語りに酔いしれていました。発信力も大切ですが、それは質問の意図を正しく理解したり、相手の話を聞く姿勢があって初めて輝くもの。残念ながら理香は最後まで自分の短所をわかっていないようでした。

 

隆良は社会に馴染めない自分を「特別」な存在に仕立てないとプライドが許さなかったのでしょう。何も成し遂げられないけれど「夢への実現に向けて準備している自分」を外へ発信することで何とか精神を保っていました。幼稚な隆良にはまだそういうことが仲間内で通用すると信じていたんですね。本当は何者にもなれないどころか、何もチャレンジすらできない自分が精一杯強がって発信する「自己実現のための過程」が、実は周囲から馬鹿にされているなんて思ってもみなかったのです。やりたいことがあるのなら素直にぶつかっていけばいいのに、それすら「色んな人から〇〇みたいな仕事が向いているんじゃないの?と言われた」という小細工を入れてからでないと動けない、いちいち周囲が凄い隆良を想像してくれないと立っていられない、彼はそんな小さい人でした。

 

ここまでボロクソに言いつつも、私自身は彼らの気持ちがよーくわかります。というか、キレイごとなしで言えば、みんな彼らと同じような気持ちを経験しているのではないでしょうか。本書は「SNSと就活」がテーマになっていますが、SNS=裏では自分を着飾っていない人の方が少なく、だからこそそこに書かれている言葉以外を読み取れなければならないし、現実から目を背けてはいけなかったのだと思います。

 

理香も隆良も拓人も、いつのまにかSNSの自分を守ろうとするあまり、現実の自分へのケアが疎かになっていました。「内定を得られない自分を大きくみせるためには・・」そんなことを考えてばかりいると、結局周囲を批判することでしか自分を守れなくなってしまいます。

 

でも、そんなことはどうだっていいじゃないか。カッコ悪い自分でもいいじゃないか。大事なのは自分の生き方であり、自分の気持ちと正直に向き合った者が勝つ。光太郎を見ているとそう思えます。

 

自分と向き合っているときの自分は強い。何があっても肯定できるし、へこたれない。

 

もし就活に不安を抱えていたり、悩んでいる学生さんがいたら、ちょっと厳しい内容もあるかも知れませんが、『何者』はオススメです。下手な就活対策本を読むよりいいことが書いてあるかもしれません。

 

以上、『何者』のレビューでした!

 

 

 

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