今回はSNSで話題の『茜さす日に嘘を隠して』(真下みこと)をご紹介します。本書は『青く滲んだ月の行方』(青羽悠)と繋がる共作青春小説でもあります。『茜さす~』では女性側を主人公に、『青く~』では男性側が主人公になっており、共通する登場人物を二つの視点から見た時にどんな違いがあるのかを楽しめる作品になっています。ちなみにどちらから読んでも問題ない作りになっていますが、物語はそれぞれ異なる作家が担当しています。

 

『茜さす~』の大まかな内容は、4人の女性による青春群像劇といった感じ。きちんと相関図を把握しておかないと次の本を読んだ時に混乱してしまうので要注意。以下にメモ用として、本書の感想を残しておきます。

 

 

 

 

第一話【さんざんな朝】

 

大学四年の皐月は就活に苦戦しています。一個上で社会人一年目の彼氏・祐樹とも連絡を取り合う頻度が減り不安の中、先輩のインスタグラムで祐樹との浮気場面らしき写真を発見し、すべてが嫌になってしまいます。皐月は人付き合いが苦手で、大学でもサークル内でも浮いた存在であり、悩みを相談する相手などいません。そんな中でも唯一、同学年の隼人は皐月と似たクールな雰囲気があり、サークルの飲み会がある日は帰りの電車でよく話を聞いてもらっています。

 

隼人は四年生の中で未だに就職が決まらず、飲み会にスーツで参加する皐月をさりげなくフォローしてくれるような気遣い屋です。皐月はタイミングさえ合えば祐樹ではなく、隼人と付き合っていたのではないかと思うほど居心地の良さを感じています。そんな時、皐月は隼人が咲良という後輩と別れたことを知ります。つい魔が差してしまった皐月は、隼人を家に誘ってしまうのですが、あっさり断られてしまいます。

 

結局、皐月は就活も恋愛も上手くいかず、ついには駅のホームから身を投げようとしますが、間一髪のところで祐樹に腕を引っ張られ助けられます。その後、祐樹は自殺しようとした理由を聞いてくれ、浮気の誤解や皐月が辛い時に連絡を取るのは迷惑になると思っていたことなどを説明し、詫びてくれます。こうして皐月は再び前向きになろうと、次の面接に行くのですが・・・

 

 

 

第二話【砂が落ちる】

 

愛衣は両親から愛されずに育った経験から自分を大切にできなくなっています。最初はリストカットで心のバランスを保っていましたが、中学の時、塾講師に手を出されてからはセックスで心を満たすようになりました。高校時代には一度だけ関係を持ったバイト先の既婚者からストーカー被害を受けて家に帰れなくなったことがあり、その時は同じ予備校の俊也に助けてもらいました。俊也は愛衣に色々とよくしてくれたのにも関わらず、何も要求してこない唯一の男性で、その後もずっと無償で愛衣を支え続けてくれています。

 

大学生になった愛衣は谷くんという彼氏ができましたが、その他にもマッチングアプリでリスカしたくなった時に呼び出せる男性を探し、キープしていました。ある日、アプリで知り合った男の子に呼び出されると、その子は大地という俊也の友人であることが判明し、彼から俊也に近づくなと言われてしまいます。彼は俊也が愛衣に好意を抱いていることを知りながら、あえて愛衣とのいかがわしい動画をみせつけ、幻滅させるようなことをしていました。しかし、その直後に愛衣は俊也から告白されてしまいます。

 

大切な俊也とは男女の関係になりたくない愛衣は告白に動揺してしまいます。俊也にはずっとそばにいてほしい愛衣は、恋人関係になったらいつか別れが来ることを恐れていました。一方、愛衣は大学で初めてできた友人の涼太と智子の存在にも不安を抱えるようになります。男性は信用できないけれど、友人は一生ものであってほしい。涼太との男女の友情は成立するからいいとしても、いつも聞き役の智子はどうなんだろう?いつも自分の話をしてくれない智子は私のことを友達だとは思っていないのかも・・いつか彼女も私から離れていくのかもしれない。そう思った愛衣はますます不安になっていきます。

 

※ちなみに大地は第一話で、皐月と隼人の後輩として登場しています。彼はサークル内で、誰にでも手を出すキャラクターとして振る舞っています。

 

 

 

第三話【手紙】

 

文は皐月の妹で、顔出しをしていないシンガーソングライター兼大学生をしています。アーティスト名は「ふみ」で、大学では涼太しか文の正体を知りません。涼太はふみの大ファンであったことから、声を聴いてすぐに気づいたと言い、週に一度だけランチを共にする仲になります。しかし、子供の頃から友人がひとりもいなかった文は、大学で涼太以外に話せる子ができず・・

 

文は涼太がふみの楽曲を好きだと言ってくれたことを「自分のことが好き」だと錯覚していることに気づきます。そう思ったきっかけは、急に涼太から恋人の話をされたことでした。このとき文は涼太に好意がないながらも、自分を好きと言った人に恋人がいたことに腹が立ち、自身の中にある傲慢さや身勝手さに驚き、反省します。

 

実はこの涼太という人物は第二話にも愛衣の友人として登場しています。涼太は仲良し三人組との飲み会で、「文が原因で彼女と別れた」と言っています。どうやら彼は推しであるふみを異性として見ないマイルールがあるのですが、あまりに文と親しくするので彼女を怒らせてしまったようです。

 

そんな中、文はこれまでと違った曲を作ります。今までは自分のことを書いた曲ばかりでしたが、初めて誰かのために曲を書いてみたいと思ったのです。自分の一部を切り売りした曲は、一定の人にとっては共感を得られますが、どこか閉じたものでありました。自分のことを書いた曲は誰とも繋がらなかったのです。しかし、特定の「君」に向けて書いた曲は、聴いた人が自分自身ではなく他の人を想うような印象を抱かせました。ちなみに「君」は涼太のことではありません。文の後輩です。ただ、文はこの曲をきっかけにネガティブな自分を少しだけ成長させることに成功したのです。

 

 

 

第四話【あと1歩】

 

智子は第二話に登場した愛衣の友人です。実を言うと彼女は愛衣に恋愛感情を抱いています。そんなことにはちっとも気づかない愛衣をいいことに、なんと智子は愛衣の歴代彼氏に手を出しては別れさせる行為を繰り返していました。

 

こんなことをしても無意味とはわかっていても、智子はクラッシャー行為をやめられません。そして現在も愛衣と付き合っている谷くんと偶然同じバイト先であることを幸いにして、手を出そうとしています。智子の手口はこうです。愛衣が彼氏と付き合ってラブラブ期が落ち着いたような頃を見計らって、相手の男に近づき寝ます。すると相手は愛衣からの連絡を無視するようになるので、逆に智子は相手を無視します。これで男たちはイチコロ。なぜなら人は自分を好いてくれる相手は軽んじて、自分を好きになってくれない人に惹かれるからです。

 

こうして今回も無事に愛衣と谷を破局させた智子でしたが、そのタイミングで愛衣から「新しい彼氏ができた」と報告を受けます。しかもついに本物の恋人ができたと。これは俊也のことなのですが、今までとはまったく違う幸せそうな愛衣の様子から、智子はとうとう失恋したことを悟ります。そして智子は・・・

 

ちょっと智子の話とは無関係ですが、仲良し三人組の男子メンバー涼太は、あわよくば愛衣と・・と考えているところがミエミエ。彼もちょっと何を考えているのかわからない人ですね。

 

 

 

第五話【色を変えて】

 

最後は再び皐月の話に戻ります。残念ながら皐月は11月になっても内定ゼロのまま。このままでは就職できずに卒業してしまうかもしれないと焦り、大学のキャリアセンターへ相談しに行きます。職員からは自己分析をするように言われるのですが、ネガティブな内容しか浮かびません。文と同様に皐月にも友人はおらず、そういった性格が就活にも影響していることに薄々感づいていました。

 

自分は人からどう見えているのだろうと思った皐月は、久しぶりに会った祐樹に質問します。すると祐樹は「友達がいない」と落ち込む皐月に「友達がいないという考えから始めるからおかしくなるんだと思うよ。そもそも友達がいないのには原因があるって考えない?たとえばだけど、被害妄想が激しいから、人に弱みを見せられない、とか」と助言してくれます。

 

祐樹が言うには、皐月は人に弱みを見せられないから、人に自分から接することができず、結果友達が少ないのではないか、またはそう思い込んでしまっているのではないか、だそう。思い起こせば皐月は、同じサークルの奈美からもネガティブな発言をし、被害妄想が酷いと注意されたことがありました。

 

そこでようやく皐月は、もっと周囲に甘えたり、本音を言うことの大切さに気づきます。ひょっとすると、自分の行動を変えるだけで、何かが開けてくるのではないか。そんな風に思えたのです。手始めに自分から奈美に連絡を取ろう、祐樹に甘えよう、文に歩み寄ろう。嫌いな過去の友人をSNSでブロックしよう。小さなことでも意思表示は大切で、いつまでも待ちの姿勢では変われない。そう決心します。この話は他とカラーが違い、就活時代を思い出すような淡いビターな青春物語でした。

 

 

 

以上が『茜さす~』の内容なんですが、これを男性視点で読むとどうなるのか楽しみです。

 

実はこの小説には一話ごとに、その物語を要約したような歌詞が載っています。歌詞は真下みことさんが、歌唱はシンガーのみさきさんが担当しています。

 

たとえば作中でシンガーソングライターのふみが作詞作曲した『手紙』という曲もYouTubeで視聴できるんですね。

 

 

 

 

この曲はふみが高校の自殺した後輩へ向けて書いた曲なので歌詞が意味深ですが、他の話の曲もアップされているので、本書を読まれた方はぜひ全曲聴いてみてください。

 

さらに本書と『青く~』の表紙を合わせるとひとつの絵になるサプライズもあるので、そちらもぜひ試してみてくださいね。

 

 

 

 

 

ちょっと大人向けには若い物語ですが、大人未満というキャッチコピーもある通り、ハタチ前後の学生さんには刺さる部分があるのかなぁーなんて思います。興味のある方は読み比べしてみてください。

 

 

以上、『茜さす日に嘘を隠して』のレビューでした!

 

 

 

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